暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第100話 〜『影魔法』VSマヒロ1〜 夜目線



あの時と同じだ。
アメリア嬢が攫われたと知ったとき、完全に魔力がマイナス値になり、命が尽きかけたとき。
主殿の魔力を『影魔法』が補給し、さらに怪我まで治療した。
主殿が死にかけたときに発動されるのか、主殿が無意識のうちに発動しているのかは分からないが、それでも瀕死の人間を回復させる。
アメリア嬢の『蘇生』ほどではないが、主殿のように一騎当千の人間からするととてつもない魔法だ。
いいや、もはや魔法ではないのかもしれないが。


《これより戦闘を開始。マヒロ・アベを排除します》


主殿の口を使って『影魔法』が喋る。
声だけは主殿だが、口調や仕草は別の何かだった。
よく見ると、主殿の手足に影が巻き付いている、
『影魔法』が強制的に動かしているのだろう。


「何が起きたかは知らねぇが、今更お前に何ができると?人族は所詮下等生物。さっきみたいに地べたに這いつくばってんのがお似合いだ」


マヒロはそう言って手を鳴らした。
手の間から美しい魔方陣が生まれる。
主殿の後ろでマヒロに操られているアメリア嬢が構えた。


「か、体が勝手に!アキラ、逃げて!!」


アメリア嬢が掲げた手を下す。
『重力魔法』が発動されて主殿に多大な重力がかかった。
迷宮の頑丈な地面が三尻とひび割れるほどの重力の中で、主殿は地面に膝をつくことすらせずに平然と立っていた。


「『鎌鼬かまいたち』」


マヒロの魔方陣が完成し、迷宮に無数の刃を秘めた風が吹き荒れる。
その風は主殿だけに的を絞っているのか、俺やアメリア嬢の方には来なかった。
本来の『鎌鼬』は『雷王』と同じで近くにいる敵を無差別に襲う、広範囲型の魔法だ。
それを主殿一人に集中させることで、爆発的に威力を高めているのだろう。


「これほどまでとは……」


マヒロは基本的に緩い。
アホ毛は本人を映しているかのようにいつもフラフラしているし、顔に笑顔以外の感情が浮かんだことを俺は見たことがない。
そして、ミステリアスだ。
いつからいたのか、どこから来たのか誰も知らない。
それでも魔王様を唯一止められるのはマヒロだけだし、魔王様に次ぐ魔族の二番手だ。
認めていたつもりだったが、俺はその実力を完全に把握してはいなかった。
まさかこれほどの魔法を完全に制御して見せるとは。

俺がこの体の本来の主であるサラン・ミスレイから攻撃を受けたのは『光槌』とあともう一つだけ。
だがもう一つの魔法を使うにはまだ条件がそろっていない。

風がやんできた。
主殿の背はまだ見えないが、生きていることはわかる。
俺はまた、主殿に守られるだけでいるのだろうか。
先ほどのように再び隣で戦う日は来ないのだろうか。


「……さっきの魔法、結構な魔力を込めてたし、直撃したはずなんだけどなんでお前は生きてる?」


マヒロの声にハッと目を凝らすと、土煙の中で先ほどと何ら変わっていない姿の主殿が見えた。
アメリア嬢の『重力魔法』を受けても、マヒロの『鎌鼬』の集中攻撃を受けても、主殿は揺らがない。


《“夜刀神”戻りなさい》


いつの間に放ったのか、主殿がクロウに直してもらい、一本の刀ではなく二本の短刀になった“夜刀神”が、少し離れた地面に刺さっていた。
主殿が呼びかけると、消えて次の瞬間には主殿の手に収まっている。
一体、何をした?


「……その刀は……」


マヒロも何か感じたのか“夜刀神”を見ていた。
刀が瞬間移動をしたように見えた。
主殿が同じようにして“夜刀神”を呼び寄せたのは見たことがない。

遠くに投げたときは、取りに行ける状況ではなくてもわざわざ拾いに行っていた。
主殿が俺やアメリア嬢と同じくらいに大事にしていて、失くしたくないと思っているのなら確実に手元に帰ってくる今の方法をしているはずだろう。
つまりは、今主殿の体を操っている『影魔法』は主殿よりも“夜刀神”の扱い方を知っているということだ。


「……っ!?」


考え込んでいたのか、突然主殿が目の前に現れた瞬間、少し体勢を崩したマヒロは髪の毛を数本斬られていた。
主殿の動きが先ほどよりも早くなっている。
『影魔法』が無理矢理動かしているからだろうが、怪我が治ったといえそんなに動いても大丈夫なのだろうか。


「ぐっ!剣が重い……!」


盾の魔方陣で攻撃を防いでいるが、主殿のスピードと打突の重さは盾の耐久を確実に削っていっている。


《『影魔法』――縛り影》


主殿とマヒロのとの間でつながっている影が浮き上がってマヒロを縛る。
これまでの戦闘で学習しているのか、マヒロの手を重点的に縛っていて、魔方陣を使えない状態だ。


《アメリア・ローズクォーツにかけられた魔法を解きなさい》


マヒロの喉元に刀を当てて『影魔法』が言う。
それでもマヒロの笑みは崩れない。


「残念だが、俺は手を封じても魔方陣は使える。それに、お前がさっき言っただろ?俺の職業を」


影に包まれた手ではなく、比較的自由が利く足が動き、足の裏を合わせる。
それと同時にマヒロの手から魔法発動時特有の光が漏れ出た。



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コメント

  • ノベルバユーザー293120

    三尻、、、それに戦闘中に足の裏合わせるのって想像すると凄くシュール笑笑

    0
  • ノベルバユーザー302166

    いつになれば…サラン団長が死ぬ前に話そうとした水晶玉に対する憎しみの感情について書かれるのだろう?

    0
  • ノベルバユーザー69345

    100話おめでとうございます。

    5
  • ラー油

    今更だけどヨルって漢字だったのね

    1
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