暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第104話 〜悪党〜




「……ああ、問題ない」


俺が返事をすると、勇者はなぜかホッと息をつく。
俺は首を傾げた。
俺と勇者は嫌い合っていたと言っても過言ではない。
俺としてはあっちが嫌がるから気を利かせて近寄らないようにしていたのだが、どういう心境の変化だろうか。

そんなことを考えていると、クロウが口を開いた。
部屋が狭く感じるくらいに増えた人を見て、ただでさえ鋭い視線をさらに鋭くする。
勇者たちが身じろいだ。
ジールさんは慣れているのか、我関せずと出された茶を啜っている。


「本当ならジール坊以外はこの家から出ていけと言いたいところだが……」


クロウはじろりと俺を見た。


「この病み上がりに免じて許してやる。騒いだら問答無用で野宿してもらうがな」


相変わらず容赦ない言い分に俺は苦笑した。
一応俺に気を使ってくれているようだし、根っからのツンデレのようだ。

席の数の関係で勇者と京介以外のクラスメイトたちは立っている。
ジールさんの前にクロウ、クロウの前に俺で、俺の隣がアメリアだ。
アメリアの前に座っている勇者は、アメリアの美貌に頬を染めていたが、アメリアは勇者に目もくれない。
俺の前の京介は俺の肩に乗っている夜と視線を合わせて無言の応酬をしていた。
火花が散っているな。


「まず、クロウ。リンガはどうだった?」


俺が魔力の枯渇で倒れたときに調べるように頼んでいたことを聞く。
このままだと話が進まないし、クロウは端から進行役をする気がないようだ。

クロウに視線が集まった。
それを鬱陶しそうに眉根を寄せながら、茶を啜る。


「……あいつは白だ」


俺は驚く。
魔族を手引きしたのはリンガだと思っていた。
というか、状況的にリンガが一番怪しかったのだ。

いくら迷宮が魔王の作ったものと噂されているとはいえ、ピンポイントで迷宮に転移出来るわけがない。
いくらマヒロの魔法陣でも、出口に何らかの目印が必要だろう。
前にサラン団長が、魔法は万能ではないと言っていた。
一瞬で行きたいところに瞬時に行ける魔法はたしかに存在するが、行ったことのある場所にしか行けない。
マヒロの魔法陣もそれなりの制約があるはずだ。

リンガなら迷宮のある街のギルドマスターで、それなりの実力もある。
迷宮の最下層に目印をするくらい出来るだろうと思っていたが。


「だが、他にきな臭い奴がいた」


クロウは拳を握る。
爪が皮膚を傷つけ、血が流れた。
クロウはそれに気づいていないようだ。


「首都ウルクにある冒険者ギルドのギルドマスターだが、あいつはもう腐りきってるな」

「名は?」


俺の肩の上で夜が反応する。
アメリアも体を強ばらせている気がする。
クロウはその目にたしかに殺気を宿らせてその名を言った。


「名をグラム。元獣人族宰相であり、現王の甥。俺の復讐相手だ」


俺はその名に目を見開いた。
聞いたことのある名だ。
俺は夜を見る。


『主殿が思っている通り、エルフ族領でアメリア嬢を攫おうとした、ウルクの騎士と思わしき奴らが言っていた首謀者の名だ』


そのとき夜はグラムという宰相がいた気がすると言っていたが、ウルクのギルドマスターになっていたとは。
しかも、クロウの復讐相手だという。


「……クロウの復讐とは初めて聞いたが、アメリアと夜は聞いていたのか?」


どうにも情報の共有ができていない。
ここ最近はバタバタしていたし、アメリアが攫われたりしてゆっくりと話す時間もなかったからな。


「それを聞いたのはアウルムに攫われる日。夜から聞いた」

「それについてはそっちで話せ。俺は聞きたくない」


余程嫌な話なのか、クロウはそっぽを向いた。
アメリアに俺は後でと目配せする。


「それで、そのグラムとやらはどういう風にきな臭いんだ?」


俺の言葉に、そっぽを向いていたクロウがこちらに目を向けた。


「どういう風にも何も、あいつは悪党の塊みたいな奴だ。ちょっと探っただけで不正やら裏との取引やらがザクザク出てくる」


悪党の塊。
たしかに言い得て妙だ。


「横領、人身売買、窃盗、誘拐、監禁……。殺人以外の犯罪はコンプリートしているな。殺人だけは部下にやらせているようだが、同じようなものだ」


誘拐、監禁、人身売買はエルフ族にか。
だが、つつけばすぐにホコリが出てくるような奴が、なぜ野放しにされているのか。
その答えはすぐに分かった。


「王族だからか」


クロウが頷く。
アメリアが唇を噛んだ。
同じ王族として許し難いだろうな。


「奴は自分が現王の甥だという立場を利用して宰相だった時代から様々な悪事を働いていた。それが一度バレて宰相を下ろされ、ギルドマスターになっても続けている」


俺は視線を下ろして茶の薄い黄色を見つめた。
本当にそんな奴がこの世に存在しているとは……。
レイティスの王女よりもさらに酷いな。


「王族だから。それだけで奴は何も罰せられずにいる。噂によると、暗殺しようとしても手練の傭兵を雇っていて、そいつが全部片付けてしまうらしい。……生きている価値のない奴だよ」


生きている価値がない、か。
それだけ聞いていればたしかにそう思ってしまうな。
だが俺は魔王の妻を殺した自称英雄のようにはなりたくない。
俺自身でも調べる必要があるかもな。


「そいつがブルート迷宮に魔族を手引きしたことと何の関係があるんだ?」



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