暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第118話 〜祭り5〜 朝比奈京介目線



コンテストは順調に進んでいき、俺の焦りもだんだん増していく。
突然現れた魔族のせいで、俺たちの計画は狂い始めていた。

計画では、確実に優勝を狙えるであろうアメリア王女に俺と女子たちが護衛にあたり、もしかしたら優勝するかもしれない佐藤に和木、津田、七瀬がつく。
本命であるアメリア王女の方が手薄に見えるかもしれないが、いざとなればこちらには晶と夜もいるため、戦力としては申し分ない。
警戒すべきはグラムというギルドマスターの手下たち。
津田が入手した情報によると、グラムの手下たちはみんなウルクの紋章をどこかにつけているらしい。
晶に気づかれないようにしながら、血眼になってウルクの紋章、丸の上に三本の爪痕を探しているとラティスネイルとかいう魔族が現れたのだ。

グラムが魔族と繋がっているらしい噂は本当のようで、警戒すべき対象が一人増えたというのでも頭を抱えたくなるのに、晶はその魔族を全然警戒していなかった。

嘘や差別的なことを言わなければ大丈夫だと言われたが、俺は魔族を信用していない。
夜に聞いたが、俺たちが船で獣人族領に向かっているとき、アメリア王女が攫われ、奪還しようと追った晶は魔族のせいで死ぬ寸前まで追い込まれたらしい。
クロウさんが間に合わなければ、本当に死んでしまうところだったとか。

晶は一度殺されかけたのに、あの魔族に心を開きつつある。
とても危険だ。
何度か忠告をしようと声をかけようと思ったが、魔族がベッタリと晶にへばりついていて、話すことが出来なかった。


「あの魔族、ホンマに大丈夫なん?」

「津田くんが言っていた臓器売買の買取手はほとんどが魔族らしいからね。あの魔族もそれ関係で来たのかな」


上野と細山が心配そうに話しているのが聞こえた。
二人も俺と同意見らしい。


「やっぱりそう思うか」


晶たちに聞こえないように低い声で問うと、二人はこくりと頷いた。


「時期が時期やし、怪しんとちゃう?」

「アメリアさんのことは私たちに任せて、朝比奈くんはあの人の近くにいて」


細山の言葉に頷く。
俺もそれを提案しようと思ったのだ。
二人ならともかく、俺だったらあの魔族の近くにいる晶と話していてもおかしくはないからな。

俺が近づくと、楽しげに話していた二人は同時に顔を上げた。


「お、京介、もうそろそろあいつらの番か?」


晶の言葉に頷く。
二人はアメリア王女と一緒にステージの方に行った。
回ってくるのに時間がかかると思ったが、意外と早かった。
まあ、アメリア王女の顔を見て真っ青になった女が数人出ていったのを見たから、理由は分かる。
あの美貌とタメを張れる顔があるなら見てみたい気がするけどな。
と、俺はフードを被った魔族を見た。


「お前は行かなくていいのか?」


魔族はハッとした後、急いでステージの方に向かっていった。
アメリア王女や上野、細山が順番に近いのならその後に来た魔族もすぐに出番となるだろうと思ったのだが、当たっていたらしい。
俺は苦笑する晶と並んでステージを見上げた。


「……晶、お前また上野たちの名前忘れただろう」


先程しっかりと名前を呼ばなかったのを俺は見逃さない。
晶はビクリと肩を跳ねて、笑った。


「京介に隠し事はできないな」

「当たり前だ。晶は覚えてないかもしれないが、付き合いは長い」


約十年、佐藤と晶を見てきたのだから。
と、笑っていた晶の眼が鋭くなった。
ぞわりと背筋が凍る。


「なら、お前も俺に隠し事はできないよな。俺は他人に興味がないが、お前のポーカーフェイスなら少しは分かるようになったぞ。……なぁ京介、一体何を企んでる?」


おおよそ友人に向ける目ではない。
日本にいたころの晶にはなかったものが確かにあった。


「何のことだ?」


とぼけて首を捻ると、晶はさらに視線を鋭く尖らせた。


「少なくとも、関西弁女子と調教師は俺の目の届かないところに行かせるべきだったな。コンテストが始まってからあの女はずっとソワソワしていた」


確かに、上野と和木はわかりやすいからな。
でも、二人だけどこかに行かせると、それはそれで怪しまれるのだろう。


「そんで、お前もだ。ラティスネイルが来てから、ずっと焦ってるだろ。もう一度聞くぞ?何を企んでる?……いや、これから何がある?」


鋭い指摘に、思わず感嘆の声をあげる。
我が友達は探偵にでもなったのだろうか。
これが死線をくぐった者の直感か。

俺は肩を竦めてステージの上でこちらに手を振っている上野を見た。


「俺だけで考えて実行している計画なら迷わず晶に言っただろうが、これはパーティー全員で考えたことだ。俺の一存で話すことはできない」


ただ、と俯きながら言葉を続ける。
裏切っているわけではないが、それでも晶に隠し事をしなければならないというこの状況がとても苦しい。


「これから確実に何かが起きる。それは確かで、それにはグラムが噛んでいる。……気をつけろよ晶。アメリア王女をちゃんと見とけ」

「……分かった」



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