暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第150話 〜ウルクの冒険者ギルド〜
ウルの冒険者ギルドは酒場を改装して使われている割には清潔に保たれていた印象があった。
ウルクの冒険者ギルドはその反対で、薄暗くて小汚い。
壁の所々には赤黒いシミがついていて、酒に酔った冒険者が暴れたりするのだろうと察することが出来た。
悪い意味で、想像したとおりの冒険者ギルドの姿だな。
ギルドマスターの性格がそのままギルドに出ている気がするのは俺だけか?
冒険者ギルド内には大きなカウンターがあり、中では職員たちが忙しそうに働いていた。
ウルクよりも職員の数が少なく、依頼も掲示されていない。
おそらく、魔物の部位の買取も依頼の受理とランク分けも職員がカウンター内でしているのだろう。
明かに効率が悪く、合理的ではない。
一方冒険者たちは冒険者ギルド内にある休憩スペースのようなところで酒をあおっていた。
どこの冒険者もこれは同じだな。
朝っぱらから酒飲むなよ。
俺が扉を開けて中に入ると、まず俺に視線が集まり、次にアメリア、夜に移った。
歩いていているとき、いつもこんな感じなのだから、いい加減慣れるというものだ。
「ウルク冒険者ギルドへようこそ。本日はどういったご用件で?」
アメリアを見て顔を青ざめさせた職員がカウンターから出て駆け寄ってきた。
アメリアの顔はあのコンテストで広く知られている。
おかげで外に出れば視線が集まりまくって、本人は一切気にしていないが俺としては居心地がとても悪い。
「あれってアメリア王女だよな……」
「……なんでまだ攫われていないんだ?コンテストで優勝した人は絶対にいなくなるのに」
「どうせ偽物だろ」
酔っ払いたちの声が冒険者ギルド内によく響いた。
わざと聞こえるように言っているのだろう。
酔っ払いというものはどうしてこう、面倒な奴らばかりなのか。
夜への悪口が聞こえないのは位置的に見えていないからのようだ。
まあ、夜の悪口を言われれば俺も黙ってはいないが。
「それに、護衛っぽい真っ黒男、見るからに弱っちいし、あれじゃあ攻撃を防いだらぶっ飛んじまうんじゃないか?」
少し離れた席いた赤毛の男がそう言った時、アメリアの眉がピクリと動いた。
俺は気にしないのだが、アメリアの気に障ったらしい。
ギルドの職員に答えているのに目線はその冒険者に向いていた。
「大した用はない。獣人族最大国家の冒険者ギルドがどんなところなのか見に来ただけ。だけど、どうやらここの冒険者は女々しい人しかいないみたい。冒険者ギルドも朝から騒がしくされていい迷惑ね」
こういうときのアメリアの目はまさに絶対零度という表現が正しい。
怒るだけで部屋の温度を変えてしまうなんてアメリアにしかできない芸当だろうな。
近くにいた職員がヒィと声を上げて一歩下がった。
「んだと!?言っとくけどな、俺は銀ランク冒険者のラウル様だぞ!旋風のラウルだ!!誰が女々しいだコラ!!」
椅子を蹴って立ち上がるライオンの冒険者に一言言いたい。
だからどうした。
冷めた目で見ていると、アメリアも同じことを思っていたのか目を細めた。
「だから?銀ランク冒険者で二つ名だったら何をしてもよいと?何を言ってもよいと?思い上がるのもいい加減にしなさい」
セリフは母親のような、やんちゃな子供に言い聞かせるような言葉なのに、寒気がするような威圧が含まれているのははっきり言って怖い。
俺なら即座に謝るのだが、この冒険者は違うらしい。
「うるせえうるせえうるせえ!!」
子供のように喚いたライオンの冒険者はアメリアに拳を振り上げた。
他の冒険者たちが静止の声を上げるも、その手は止まらない。
「……流石にそれは見逃せないな」
後ろからアメリアを抱き寄せてその拳をパシリと受け取めた。
吹っ飛ぶどころか、俺の身体はミリも動いていない。
俺としては赤子が殴ってきたのと同じくらいの衝撃だ。
ラウルといったか、ライオンの冒険者はそれを信じられないという目で見ていた。
「アメリア、挑発しすぎだ。……騒がしくしてすまないな。だが、お前たちの首が物理的に飛ぶかもしれないから余計なことは言わない方がいい。アメリアは本物のエルフ族の王女だしな」
腕の中にいるアメリアに一言言ってから酔っ払いどもに目を向ける。
そう忠告すると、酔っぱらっていた者たちは自分が何を言っていたかを思い出して顔を青くさせた。
アメリアのことを胡乱な目で見ていたギルドの職員も視線を逸らす。
「てめぇ、そんなことよりも俺の手を放せ!!」
他の人間なんか知ったこっちゃないとばかりにガオガオと吠えているラウルに目を向ければ、くすんだ金の瞳が俺を睨みつけていた。
夜の方がきれいな金だな。
「嫌だね。離せばまた殴り掛かってくるかもしれないしな。お前、相手の実力も分かっていないのに殴り掛かってくるなよ。あと、物は大切にしろと親に教わらなかったか?」
蹴り倒した椅子を見て言う。
椅子は蹴り倒された衝撃で足の一本が折れてしまっていた。
ラウルは話を聞かずに身をよじって俺の手から拳を引き抜こうとしているが、俺の手もラウルの手もピクリとも動かない。
「分かったから離せっての!!」
本当に俺に言っていることが理解できているのか分からないが、とりあえず手を放してやった。
「すいません!ラウル君馬鹿だから、相手の力量を図るなんて器用なまねできないんです!」
ギルド職員の中から車椅子のようなものに乗った、山吹色の髪をした人族の女の子が出てきて俺たちに頭を下げた。
というか、すごい真剣な声で馬鹿にしたな。
「んだと!?ケリアコラ!俺のどこが馬鹿なんだ!」
「その誰にでも喧嘩を吹っ掛けるところとか、挙げたらきりがないよ!」
ラウルが車椅子の女の子にそう言って詰め寄るが、ケリアと呼ばれた女の子は頬を膨らませて拳を握った。
「はは、またやってらぁ」
「毎日毎日飽きねぇよな」
いつものことなのか、俺たちのせいで張り詰めていた冒険者ギルド内の空気が緩んだ気がした。
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