【書籍化作品】無名の最強魔法師
猟師ユウマの日常
終始、私はあなたのことが心配なのよと聞く耳を持ってくれない。
でも母親が言っている言葉が嘘だって事くらいは分かる。
何故なら、あれだけ蔑んでいたヤンクルさんの家に俺が入り浸ることになるのだ。
母親としては、周りの目もあるから、断固として反対しているのだろう。
だから、もう母親を説得する事は諦めた。
俺は母親に「行ってきます」と言って家を出たが母親は言葉を返してくれなかった。
「……」
母親は不機嫌さを隠そうとしていない。
まあ、父親の話だと年齢はおそらく20台後半なのだからまだ若く気持ちの整理がつかないのだろう。
俺は水が入っていない瓶を持ち上げるといつもどおり川まで水を汲みにいき、道中にいたウリボウを狩り家に戻った。
そして教会で子供たちに勉強を教えるという講師活動を終えた後に、ヤンクルさんの家にリリナと一緒に向かった。
リリナの家に着くとヤンクルさんが待っていた。
「こんにちは、今日からよろしくお願いします」
「…ああ、私が冒険者時代に学んだ事をなるべく教えられるようにがんばるよ」
ヤンクルさんの話し方は、とても腰が低い。
「それじゃ、村長に君が私に弟子入りした事を説明しないと駄目だから着いてきてくれるかい?」
「わかりました」
俺は頷きながら歩き始めたヤンクルさんについて行こうとすると、
「お父さん、私も一緒に行っていい?」
後ろからリリナがヤンクルさんに懇願してきた。
俺はそれを見ながら、リリナも親の後を継ぎたいのかと思いつつリリナに語りかける。
「リリナ、狩猟は男の仕事だ。だからリリナには、ヤンクルさんの奥さんみたく家で俺の帰りを待っていてほしい」
俺の言葉にリリナは顔を真っ赤にして『う……うん』と言ってすぐに自分の家に入っていってしまった。
きっと俺が余計なことを言った事で怒ってしまったのだろう。
それでも、狩猟のことで口を出したり移住してきたばかりの人が村長の家に大勢でいくのは良くない。
だから、ここは心を鬼にしておこう。
「ユウマ君は、天然なのかな?」
そんな俺にヤンクルさんは呆れた顔で語りかけてきたが、俺はこの人は何を勘違いしているのだろう?と内心突っ込んだ。
勘違いも何も俺はリリナが村長の家についていくのは、良い印象を与えないから言っただけなのに天然と言われる意味が理解できない。
そして結局のところ、アライ村長の許可を得ることが出来た。
まぁ、元冒険者であるヤンクルさんも何時かは年を取るわけで俺がその後を継いで、動物とか魔物を狩れればいいと打算から許可が下りたとは思うが。
そして、それからというもの、朝起きて川で水を汲んで道中にいたら獲物を狩り、教会で子供達に勉強を教えた後、ヤンクルさんと共に山で狩猟見習いとして動物や魔物を狩る仕事をした。
その間に得たのは、動物の解体方法や格上の魔物や動物と出会った時の対処方。
山で遭難したときの立ち回り。
森の中で迷子になった時の方角の割り出し方。
食べられる薬草やキノコ、飲める水の見分け方、獲物を追う際の方法など多くの事をヤンクルさんに教えてもらった。
――それから、5年の月日は過ぎた。
「ユウマ、気をつけて行ってくるのよ」
「行ってきます」
もはや母親は諦めの極致に達したらしく何も言わなくなっていた。
ヤンクルさんは、狩猟の仕事をすでに引退しており、俺が狩猟の仕事を引き継いでから2年が経過している。
ちなみに、ヤンクルさんの畑は俺が土壌改良の魔法などを夜中の内に使い少しずつ広げていった場所があてがわれた。
そして畑を持つと言うことは、村民として受け入れられるという事でもある。
ヤンクルさんの家は、村の平均的な家と遜色ない規模に拡張されていた。
そして、台所兼玄関も床は俺が作ったセメントで覆われている。
そして部屋の中の床もきちんとした木材に張り替えた。
俺は家から出ると瓶を持ったまま足に魔力を込め走る。
すると数分で川が見えてきたので、そのまま瓶に水を汲んだ後に、探索魔法に引っかかった獲物に向けて小石を投擲する。
もちろん『疾風螺旋』の魔法を纏わせているので威力は申し分ない。
投擲された小石は、回転しながら丁度茂みから出てきたイノシシの脳天を貫き即死させた。
そして俺は2メートル近いイノシシを片手で抱き上げると家に戻った。
「母さん……イノシシだけど、血抜きしておいたから、ここに置いておくね」
俺は台所に血抜きしたイノシシを置く。
ヤンクルさんに教えてもらった血抜きの方法を、血流操作の魔法を使い簡単に血を抜けるように魔法が組めるまでかなり時間が掛ってしまったが、いまならワイバーンの血ですら本来は1時間はかかる血抜きを10秒ほどで抜けるくらい上達している。
母親は、俺が台所に置いた血抜きが済んでいるイノシシをを見て。
「はいはい」
と母親は俺の方を見てまたなの?という顔を見せた後、適当な返事をしてくる。
俺はイノシシを外に置いたあとに水の入った瓶を台所の床のセメントの上に置いた。
「それじゃ狩りに行ってきます」
「気をつけていってくるのよ?」
「はい」
俺は教会の前を通るルートで村の中を歩いていくと教会に入っていくリリナやアリアの姿が見えた。
村での勉強会の講師は1年前からリリナが俺に代わって行っており、15歳以下の識字率は100%という、この世界ではとんでもないチート的な村になりつつある。
それにアリアが引き寄せる魔物や動物を魔法の練習で間引きしてる事もあり、いままで多少なりとも作物の被害があったがそれも無くなっている。
そして、動物性たんぱく質つまり肉が俺の乱獲のせいで毎日各家庭にかなりの量が配られている。
そのため、アライ村の食料事情はとてもいい。
おかげでうちの村に限っては、狩猟の職業は、裏では何か言われているかも知れないが表立って悪口を言われる事は無くなっていた。
「お兄ちゃん!」
俺の姿を見つけた妹のアリアは、俺を見つけるとすぐに近寄ってキラキラした眼差しで俺を見上げて抱きついてきた。
妹ももうすぐ11歳になると言う事もあり美幼女ぶりがすばらしい。
俺はロリコンではないが、世のお兄ちゃん達が妹は、かわいくないと言っている理由が俺にはさっぱり理解できない。
「はいはい、そこまでよ?」
幼馴染のリリナが抱きついていたアリアを俺から引き剥がした。
俺から引き剥がされたアリアは、俺に背を向けると。
「どうして部外者のリリナさんが、お兄ちゃんと私の仲を邪魔するんですか?」
アリアの言葉に、リリナが眉根を顰めて話し始めた。
「部外者だからこそって理解してくれないかな?アリアちゃんは、ユウマ君の妹なんだからその辺もわかっているでしょう?」
リリナの言葉に今度は、アリアが俺から顔を背けた。
「リリナさんの言葉って難しくて良く分からないです!」
アリアの言葉にリリナは
「そう?やっぱり雌には分からないのかな?」
何か動物の話しをしているのだろうか?
時折、妹とリリナの話の内容が分からない時がある。
そういう時によく使われる言葉が『妹』『幼馴染』『雌』『発情期』だ。
そんな単語が含まれてくると妹とリリナの会話がいつもおかしな方向へ向かっていく。
「わかりません!何を言っているのかさっぱりでーす。リリナさんだってお兄ちゃんに相手されてない事くらい理解したらどうですか?」
……ふむ。言葉遊びは結構なことだが……。
「まぁまぁ二人とも……仲がいい事は結構だが……リリナもアリアもそろそろ勉強の時間だろ?リリナも一応は俺の代わりの講師なんだから頑張ってくれよ?」
まぁ喧嘩するほど仲がいいと言うが、あまりあれだと本当の喧嘩になってしまうからな。
ここは、幼馴染として兄としてきちんと仲を取りもたないと。
「……鈍感……」
「お兄ちゃんは何も分かってないのです」
仲裁をすると最後にはいつも、鈍感や何も分かってないのですと言われて話をうやむやにされてしまう。
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コメント
Kまる
……鈍感……
ノベルバユーザー188803
今日 初めて読ませてもらいました
読んでいて気になったことが一つ 主人公が鈍感過ぎることですね。タグには「勘違い」とありますが 「鈍感」のタグも付けた方が良いかと!