【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

女同士の戦い

「おい!お前たちも武器を仕舞え」
 女性騎士の言葉に武器を仕舞っていく騎馬兵士達を見て俺はため息をついた。

「すまなかったな。半信半疑であったが領内で捕らえた不審人物共が村から追い出されたと言い訳をしていたからな、気になり来てみたのだ……そうだな。兜をつけたままでは。誠心誠意の対応とは言わないだろう。」
 女性騎士は、バイザーのついた兜を脱ごうとした際に、一瞬躊躇した後に脱いだ。
 すると長い銀色の髪が、太陽の光を反射しキラキラと光りながら重力にそって絹糸のように垂れる。
 髪の毛の一部が、額に張り付いており頭を振って両手を使って美しい髪の毛を整えると俺に視線を向けてきた。
 俺は、彼女の容姿を見て息を飲んだ。
 整った鼻筋に、気弱でいてやさしい印象を与える垂れ目がちな瞳。
 瞳の色は赤くルビーのように美しく、桜色の唇は瑞々しい。
 リリナも相当の美人だと思っていたが、上には上がいた。
 もう、これは……美人と言う単語だけでは言い表せない。

「私の名前は、エメラダ・フォン・イルスーカと言います。エメラダと呼んでくださいね?一応、アルネ王家より、このこのイルスーカ侯爵領を治める事を許されたイルスーカ侯爵家の次女になります。よろしくお願い致しますね」
 兜をつけていた時とまったく違う言葉使いに俺は驚きつつ――。

「はい。こちらこそよろしくお願いします」
 ――と挨拶をした。
 すると。エメラダ様は俺をジッと見たあとに言葉を紡いできた。

「ユウマさんは、私の姿を見ても表情を変えないのですね?」
 エメラダ様は、悲しそうな表情をして顔を伏せて話してくる。
 俺はそれを見ながら頭を傾げた。

「変えないですか?」
 俺の言葉にエメラダ様は無言になったあと、話かけてくる。

「はい、本当なら私のような容姿……この老婆のような髪は忌み嫌われるものなのです。ですけど、ユウマさんはお気にしていらっしゃらないようでしたので……」
 気にしてないって言われてもな……。
 アルビノなんてとても綺麗だと思う。
 それが俺の率直な感想だ。だから――。

「とても美しい色の髪だと思いますよ?」
 ――素直に答えるとエメラダ様は顔を真っ赤に染めた。

「――え?そうですか?本当に?」
 エメラダ様は、両手を頬に当てて顔を真っ赤にしている。
 瞳は潤んでいてとても綺麗だ。

「――あ、あの!ユウマさんは……女性が騎士を男の人の真似事をしているのを見てどう思われますか?」
 どう思われると聞かれても……。
 俺の知識の中には、男女雇用均等法というのが存在している。
 だから女性がどんな職業をついてもいいと思っている。
 それに仕事は人それぞれだからな……。

「そうですね。憧れると思います」
 俺の言葉にエメラダ様は、

「憧れるですか?」
 茫然と答えを返してきた。
 俺はさらに語る。

「はい、自分の好きな職業についてそれを信念として貫き誰かを守る姿は騎士としての鑑ではないでしょうか?俺はそういう人をカッコいいと思いますし素敵だと思います」
 最後まで言い切った。

「……そ、そうですか……」
 エメラダ様は、花が咲くような頬笑みを俺に見せた後、瞳を潤ませながら何かに気が付いたように頭を 振ってから俺を見てきた。

「ゴホン!えっとユウマさん。、この村を本来治める村長一家、不審人物達ですけど、彼らからのお話では、アライ村には、目の前にあるような防壁があるとは聞いておりませんでしたが、これはどうされたのですか?」 
 エメラダ様は壁と堀を指差した後に俺に聞いてくる。

「実は俺が魔法で作りました」

「そうですか……」
 エメラダ様はそれだけ言うと脱いでいた兜をつける。

「貴様!私はあまり冗談は好きではないと言う事を、理解している上で言ってると受け取っていいのだな?」
 理解しているだろうなと言われても、エメラダ様と出会ってまだ10分も経ってない。
 長年仕えている家臣みたいな扱いをされても困る……。
 ……仕方ないな。なけなしの力を使うか。

「エメラダ様、今から証拠を見せますので見ていてください」
 俺の言葉にエメラダ様は、何をするのだろうかと、いぶかしげに俺を見てくる。
 掘の外に近づき地面に手を当てる、
 そして《橋構築》の魔法を発動させる。
 すると地鳴りと共に、地面が盛り上がり掘りと壁を越えて村の中まで繋がる全長100メートル以上の立派な橋が出来上がった。

 そこでフラっと意識が遠のく。体中から力が抜けていく。

「これはやばい……」
 思わず一人でに呟いてしまう。そして、ふらついた所を後ろから男騎士に支えられた。
 支えられた俺を見ていたエメラダ様は頭を下げてきた。

「ユウマ、申し訳なかった。村を覆うこの壁も掘りも全てユウマが作ったのだな」
 本当にすまなそうな雰囲気で謝られてくるとこちらとしても強気では出れない。

「いいですよ、誰でもおかしいと思いますよね?」

「……そんなわけにはいかない!ユウマは私の内面を見てくれたのに、私はユウマの外面しか見ていなかった。最初は、お前のような若く強そうでもない男に、目の前に存在するような壁と堀を作る事なんて出来るわけがない!と思い込んでいた。それは、私が一番嫌いな事であったのに本当に済まない」
 頭を下げてくるエメラダ様を見て、俺は溜息をついた。
 こんなに真っ直ぐに謝罪してくる人間を見たのは初めてな気がする。

「大丈夫ですよ。俺は気にしていませんから、それよりもウラヌス十字軍が北にいるのですぐに橋を渡って村に入りましょう」
 俺の言葉に、エメラダ様は頷きながら。

「ユウマは心が広いのだな。わかった、お前たち村に入るぞ!」
 と叫んだ。するとエメラダ様の言葉に30人の騎士団は無言で頷くと、俺が作った土の橋の上を渡って村に入った。
 村に入るとフイッシュさんやリリナが、騎士団と話しに行った俺を、心配してくれていたのか緊張した表情で俺を見てきた。

「ユウマ君!」
 走りよりながら、リリナは俺に近づいて来ようとしたが、リリナの前にエメラダ様が慌てて立ちふさがった。

「娘。ユウマは、しばらくイルスーカ侯爵所属の騎士団で取り調べをすることになった。悪いがユウマには近づかないでもらおうか?」
 俺と話していた時よりも、遥かに剣呑とした雰囲気をエメラダ様は醸し出している。
エメラダ様の言葉に、リリナがうろたえる。
どうしたらいいのか迷った表情で、馬の上でうつ伏せになっている俺を見上げてくる。
 俺は、リリナの表情を見て、言葉を紡ぐ。
 エメラダ様は、何故かリリナを見た瞬間に雰囲気を変えた。
 きっとリリナ、はここから離れた方がいい。

「大丈夫だ。すぐに開放されると思うから妹にも伝えておいてくれ。それとヤンクルさんにも見張りを継続しておいてくれるように伝えてくれ」
 俺の言葉にリリナは……。

「でも、ユウマ君!そんなに疲れている顔をしているのに……そんな言葉聞けないよ!」
 リリナが涙目で俺に語りかけてくる。
 だが。相手は侯爵令嬢だ。
 ゴタゴタすると後が問題になりそうだ。
 今は、分かってもらいたい。
 俺はリリナの隣にいるフイッシュさんへ視線を向ける。
 そして。フイッシュさんは、俺の視線に気が付いたようで頷いて来た。

「リリナ君、私達は一度ここから離れよう。イルスーカ侯爵様の騎士団は他の領地の騎士のように無暗に平民に手を上げることや暴力を振るうことはない。ここは、私達が無理にいるほうがユウマ君に迷惑がかかるから、離れよう」
 フイッシュさんの言葉に、リリナが唇を噛みしめている。
 動こうとしないリリナの肩に、フイッシュさんは手を置く。
 そして、頷きながら何度も振り向いて俺たちから離れていった。

「エメラダ様、少しいいでしょうか?」
 俺とリリナの間に立っていたエメラダ様に声をかける。

「どうかしたのか?」

「実は、外部からの敵を防いでいますので、俺達が通ってきた橋を壊しておきたいと思います」
 俺の言葉にエメラダ様は頷きながら――。

「そうだな、ウラヌス十字軍が布陣しているのなら必要な措置だな」
 ――許可を出してきた。 
 許可をもらった俺は、なけなしの力を使い《橋破壊》の魔法を発動させる。
 それにより、俺が土で作り出した橋が崩壊していくと同時に、意識を失いかける。
 体中から力が抜け倒れかけた所で、エメラダ様に体を支えられた。

 倒れた体を支えてもらったエメラダ様の方を見る。
 兜をつけていたエメラダ様の表情を窺う事はできない。
 おそらく、余計な負担をかけさせた事で印象を悪くさせたかもしれないな。
 そんな風に思っている俺に彼女は……。

「ユウマ、掘りが2重になっているのは理解したが、内堀の水を動かすのは止めたほうがいいのではないか?これは持続魔法だろう?これだけの大規模な魔法を持続していたら魔力がすぐに枯渇してしまうのではないのか?」



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コメント

  • そら

    すごく読みやすいです。

    0
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