【書籍化作品】無名の最強魔法師
主人公がお縄になった件について
結局、ウラヌス十字軍が攻めてきた理由については、村の皆に説明はしなかった。
魔物が攻めて来たということ事で、そのまま押し通した。
ヤンクルさんをはじめとする数人の大人達には、『いらぬ騒ぎは起きない方がいいと』と口止めをした。
あとは俺が作った壁と堀は残される事となった。
外部からの敵の侵入を防ぐ役割を持つこの壁は、この村の周囲の魔物に対しても有効だからだ。
ほぼ村人の満場一致で残す事が決まった。
そして、村の出入りする際の場所も一箇所だけの方が守りやすいからと言う理由で、エメラダ様がお帰りになる際に通られた南門だけとなった。
きっと、不便を感じるのは、山に狩りにいく仕事をしている俺くらいなものだろう。
村まわりの壁と堀を残す事と、出入り口を南門のみに絞って残す事を決めた時には、時刻はすでにお昼を過ぎようとしていた。
俺は家で食事を取った後、一人で村の内と外の堀を眺めながら傾斜をつけていた。。
俺の中の知識では、水は流れていないと淀んで腐ってしまう。
その為に、川と繋げる事で堀の水を循環させることにした。
少しずつ川底に傾斜をつけていく。
そして傾斜をつけたあとには、川底の分子配列の組み替えを行いコンクリートで覆っていく。
それが終わった後には、村の近くの川から水を引き込む通り道を作っていく。
そして循環後には、水が出ていく通り道を魔法で作る。
全てが終わった頃には、すでに日が暮れようとしていた。
「やっと終わった……」
俺は一人で呟きながらアライ村の南門に通り、自宅に向かっていると村の中央に人だかりが出来ていた。
俺は、何かあったのか?と思い近づくと俺に気が付いたリリナが小走りで近寄ってくる。。
そして――。
「ユウマ君、大変だよ!」
――語ってきた、リリナの……その表情は切羽詰まっていた。
「どうした?何かあったのか?」
俺の言葉にリネラスは、頷く。
「実はね2週間以上、外部と連絡が繋がってなかったじゃない?」
俺は頷きながら思う。
そういえば、定期的に各村の村長は定期的にイルスーカ侯爵様へ情報を送っているとエメラダ様から聞いたな。
もしかして……それで?
「それでね、その事を不審に思ったイルスーカ侯爵様が、村で何か起きたんだろうと軍隊を派遣してきたの」
軍隊を?今更か?
「そうか……」
でも、問題はすでに解決したはずなんだが……。
「それで村長に用事があるらしくて……。ユウマ君を出せって派遣された騎士団長さんが言っていて……ユウマ君とかいなかったじゃない?」
そういえば昼から外で、ずっと作業していたな……。
まあ、その作業も全部、終わったが……。
「それでね……。どうして村長がいない?という話しになってね……騎士団長の人が、私達を疑ってきたの。それで……」
つまり、エメラダ様が率いる騎士団と、村に派遣された騎士団はすれ違ったと言う事か?
それはまた面倒な……。
やはり中世時代だと情報のやり取りに齟齬が起きるな。
「それでどうなった?」
周りを見ても騎士団の連中がいない。
100人近い村人が集まっているのに騎士団の連中がいないのはおかしい。
俺の言葉に――。
「ユウマ君のお父さんと、私のお父さんが、騎士団の人に説明したの……」
――リリナは話してきた。
周りを見るが、親父もヤンクルさんの姿は見当たらない。
「つまり、親父とヤンクルさんは、俺が村長代理をしていると説明したけど納得を得られずに捕まったと言う事か?」
リリナが頷くのを見て、俺は閉口した。
「ユウマ君の言うとおり、『我々、騎士団を謀っているのか』と言い出してね……お父さん達が捕まったの」
だから村の人だかりができていたのか……。
「でも、よかったよ。ユウマ君がいれば相手もすぐに納得してくれる……「それはきびしいな」……え、どうして?」
リリナは、言葉の途中で俺に否定された事で訳が分からないといった表情を見せてくる。
俺も自分の身の潔白を証明したい所だが、それを証明する村長代譲渡書をエメラダ様が不審者の取り調べに使うと言う事で渡してしまっている。
つまり潔白を証明するための書簡が今、手元にない。
こんな事態になると思っていたら、エメラダ様に何か用意してもらっていたんだがな……。
事実は小説より奇なりと言うが……どうしたものか……。
打開策が思い浮かばないな。
「それじゃどうすればいいのかな?」
リリナが不安そうな表情で聞いてくる。
とりあえず安心させておくか……。
「大丈夫だ。俺に任せておけ」
俺はリリナの頭の上に手を載せながら自信を持って言った。
そうだ、何かあったら俺には奥の手がある。
「それでその騎士団長と言うのはどこにいるんだ?」
「村長の家にいるけど……どうするの?魔法で吹き飛ばすの?」
吹き飛ばさないからな。
「そんなことしたら大変なことになるぞ?イルスーカ侯爵軍どころかアルネ王国まで敵に回すことになるぞ?」
俺の言葉にリリナが、神妙そうな顔をして頷く。
ようやく理解して――。
「つまり全員を殺ったあとに、埋めてそんなのは来なかった。いいね?って状況にすればいいのね?」
――くれてないな。
っていうか……。
「やらねーよ!お前の中での俺は一体どんな風に見えているんだよ!」
思わず突っ込みを入れてしまった。
「どんな風にって……魔法の練習って言って動物や魔物を狩りまくっているユウマ君とか?」
いあいあ、それでも人間を動物や魔物と一緒に考えたらダメだろう?
俺がそんな人間に見えるのか?
まったく俺は平和を愛する一般市民だぞ?
「わかった、わかった! もういいからな……とりあえず、村長の家にいくから! リリナは着いてくるなよ?」
リリナがついてきたら纏まる話しも纏まらないからなと言う言葉は言わずにおいた。
「う、うん……がんばってきてね!」
リリナの言葉に頷き、その場を後にした。
村長の家が見えてくるところで俺は眉を顰める。
そして《身体強化》の魔法を発動と同時に《探索》の魔法も発動させる。
それにより騎士団の数を確認。
人数は60人。
視界の範囲内に見えるのは50人、
10人は、どうやら隠れているようだ。
俺は溜息をつきながら村長の家に向かって歩くことにした。
村長宅が近づくに連れ、騎士の姿がくっきりと見えてくる。
着ている鎧の形はエメラダ様が率いていた騎士団とほぼ同じ。
すると俺の姿を見つけた騎士の一人が近づいて来た。。
「アライ村の住民と、捉えた男達から聞いた特徴と一致する。黒髪に黒い瞳……貴様がユウマか?」
ふむ。まあ嘘をついても仕方ないな。
「はい、それで今回の事態の話しに窺いました」
俺の言葉に騎士は頷くと身振りする。
すると隠れていた騎士立を含めて俺の方へ向かってきた。
そして俺の周りを円を描くように固めると一人の男が集団から歩み出てきて――。
「この男がそうか?」
――と俺を指さして、先ほど俺に話しかけてきた騎士に確認をしている。
その騎士が『ユウマと彼が名乗っていました』と答えているのを聞いていると。
「貴様には現在、容疑がかけられている。侯爵家の遠い血縁であった村長を不当に追放したという容疑だ。詳しく事情を聞かせてもらおうか?」
と男は言うと俺を縛り上げるように指示を出している。
おれは両腕を体の後ろに回されて縄で縛られた。
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