【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

別れ

「――と、いうことがあったんだ」

 俺はカークスとの会話の一部始終をエルスに話す。
 すると、エルスがため息をついていた。

「ユウマは、人を怒らせる天才だな。カークスが怒るのは珍しいんだぞ?」

 エルスが俺を窘めてくるが、そんな事を言われても困る。

「元を辿れば全ては、エルスが誤解されるような言い方をしたからだろ?」
「……ユウマが全部悪いってことでいいよな?」
「いや、よくねーよ! ――っていうか何でそもそも俺のせいになっているんだよ」
「それは私が楽だからか?」
「……まあ、いい。それよりも以前、聞きた時に村の位置は教えられないって言ったよな?それなら、この国の事情を教えてもらえないか?」
「聞いてどうするんだ?」
「そんなのはきまっているだろう? 判断材料につかうんだ。今、自分が置かれている現状が分からないと、どうにも出来ないからな。せめてこの国の事情くらいは大まかに知っておきたい」

 俺の言葉にエルスが眉元を顰めてくる。
 そしてしばらく思考したと思うと、重々しく口を開いてくる。

「ここはユゼウ王国なのは、ユウマも知っていると思う。ユゼウ王国はエルアル大陸の4国の中でも、もっとも多い3つの迷宮を抱えている。そのうちの一つがユゼウ王国の東側位置する死霊の森になる。面積は広大で隣国のアルネ王国まで続いている。生身で超えることはまず不可能と言われていて東方の隣国であるアルネ王国までは海岸線沿いを船で航海して一週間ほどの旅になる」
「ふむ……」

 俺の頷きにエルスは話を続ける。

「だから、ユウマは死霊の森で倒れている時は驚いたんだ。まさか死霊の森に挑む者がいるなんて思っても見なかったからな。今日、ユウマとパーティを組んでいた奴らから話を聞いた限りユウマは腕の立つ弓士だったんだろうとアタイ達は考えている」
「わかった。前振りはいい。それでこの国の情勢はどうなってるんだ?」

 俺の言葉にエルス額に手を当てたあと、語るように話始めた。

「ユゼウ王国の先代の国王は殺されたんだ。その時に王位継承権を持つ人間は全員殺された。ただ、外部から王家の一員として入れられた王女だけが残った。だが、王女は王位継承権をもってはいなかった」
「王位継承権をもってない?」

 俺は首を傾げる。
 王位継承権は、生まれた時の母親の実家の爵位や生まれた順序で継承権の順位が変わる事はあったとしても持ってないと言うのはあり得ない。
 外部から入ったとしても……そんな事がありえるのか?

「ああ、ユゼウ王国の王家は他国と違って特殊なんだ。そこで王家の血筋であったアルド公爵家当主エルンペイアが王位を継ぐ事になったんだ。その後、圧制を敷き民に重税をかけたのだ。もちろん王女も……いやなんでもない。つまり今は国が荒れていると言う事なんだ」
「なるほどな……」

 つまり国王になった奴が圧制を敷いたから国内はゴタついているって事か?
 なら俺にとってはそれは逆に好機なんじゃないだろうか?
 身分を証明できる物がないがない現状としては、国が荒れている所る対が一番動きやすいだろう。
 なにせ、身分照会をするための通常のインフラが動いてない可能性もありそうだしな。
 それに内乱状態なら、最悪落としたとか適当な村をでっちあげて身分証を作る事も可能だろうし。

「だいたい理解した」

 俺はエルスに礼を言う。
 礼を言われたエルスは照れていたが、あまり身を隠していても意味がないからな。
 俺は、エルスが寝付いたのを確認してから【防音】の魔法を使いながら家を出た。
 すでに深夜帯と言う事もあり周辺はとても暗く見通すこともむずかしい。

 俺は、エルスの家を見張っていた人間を誘導するように移動する。
 【探索】の魔法で、俺を監視していたのは分かっていたからだ。
【身体強化】の魔法を発動しながら南西に数分走った後、追跡者がくるのを待つ。

 そして、追跡者が追いついてきたのを確認する。

「それでなんのようだ?」
「ユウマ! お前は一体何者だ? 何の為に俺たちの村に来た?」
「何のためか……そうだな、俺は実は追われているんだ」
「追われている?」

 俺はカークスの言葉に頷く。

「カークス、俺はウラヌス十字軍に狙われているんだ。だからお前たちと一緒に行動をしていると迷惑がかかる」
「ウラヌス十字軍と?一体、何をしたんだ?」

 カークスは俺を見ながら聞いてくる。

「猟師をしていて矢を打ったらウラヌス十字軍の遠征していた司教に刺さっただけだ。あいつらは俺がいる場所が分かる魔法を使ったようで執拗に追ってくるんだ。だから迷惑がかかる前に村から出ようと思ったんだ」
「そうか。俺達は、お前の事をエルンペイアが送り込んだ手先だと思っている。お前の話を鵜呑みにする訳にはいかない」

 まぁたしかに……一個人に国の軍隊が動くなんて現実的ではないよな。
 それでも納得してもらわないと困る訳だが。

「俺はエルンペイアの手先ではないが……証明する方法もない。だから信じてもらうしかない。それにお前らと付き合っていると問題ごとに引きずり込まれそうだしな」

 これ以上、こいつらに関わるのは面倒ごとしか起きないと思っている。
 ただ、彼らの雰囲気が引き下がるという印象を俺に与えてこない。

「仕方無いな……」

 【風刃】の魔法を発動。
 周囲の木々を20本ほど纏めて木を切り倒す。

「カークス、これは警告だ。俺に関るな、おれと関われば必ずお前らは大変な事に巻き込まれる」

 俺は彼らを見ながら話す。

「ユウマ。お前は攻撃魔法師なのか?触媒も魔法陣も詠唱もつかわずにか?」

 カークスは震えながら恐怖の表情で俺を見ながら言葉を紡いでくる。
 だが、カークスが何を思うと俺には関係ない。

「もう一度言う。俺はエルンペイアって奴はしらん。だから、俺の事は放っておいてくれ」

 俺は、追いかける事ができなくなったカークス達に告げるとその場を後にした。


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コメント

  • ノベルバユーザー250446

    それは心に響く方

    1
  • ノベルバユーザー69968

    エルンベイアなのかエルンペイアなのか

    0
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