【書籍化作品】無名の最強魔法師
司祭ウカルの演説
いつまでも平和を謳歌出来ると思っていた。
どこまでも恵みを享受出来ると信じて疑わなかった。
どこの村よりも豊かで災害からも程遠く疫病も発生しない。
そのような平和な時が15年も続いた。
ただ、それは幻想であった。
綻びは些細な物で、最初は緑あふれる森に赤みが差した程度の物であったがヤンクルにはすぐに理解できた。
ユウマ村に急いで戻ったヤンクルは、新しく作られた教会に驚きながらも……。
「ウカル様!森に瘴気が!」
「思ったよりずっと早いですね。すぐに村の皆さんを教会の地下に避難させてください。戦える人は武器を取り北側の壁に集まるように伝えてください」
「わかりました」
ウカルの言葉にヤンクルは頷くと村民達が集まっている場所へ向かう。
するとそこは地獄であった。
死霊が発する瘴気に耐えられない村人が倒れていた。
特に子供や老人への影響が大きく全員の意識が朦朧としている。
「すぐに教会へ運び入れてくださいとのウカル様からのご支持です!教会なら瘴気から身を守れるとの事です」
冒険者クラスや戦闘職、聖職者や特技持ちでない限り、この濃度の瘴気に耐えられる者はいない。
それをヤンクルは冒険者をしていた経験から理解していた。
そんなヤンクルの視界の隅でウゾウゾと動きながら倒れてる村人を介護しながら教会に向かって運んでいるスライムがいた。
それも1匹や2匹では効かない。100匹は居る。
「これはユウマ君が作り出したスライム?どうしてこんなに増えて?」
「ヤンクルさん、これは一体どういうことなんですか?どうして森から魔物が攻めてくるんですか?ここ15年間こんな事なんてなかったのにどうして……」
男の言葉にヤンクルは、頭を振る。
そんな事は、ヤンクルにも分からない。
「私、聞いたわよ。ハネルト大司教様とウカル様が、あの子がユウマが村から離れたら魔物が襲ってくる可能性があるって話しをしていたの聞いたわよ!」
女の言葉に意識を失った子供を抱きかかえてる女性が目を見開く。
「それじゃなんだい?ユウマがこの事態を引き起こしたっていうのかい?」
「ユウマが居なくなったから攻めて来るって事はユウマが何らかの力で抑えていたと考えた方が……」
「何だよ!村の人間なのに何で村から出ていくだよ!」
「普段から迷惑しかかけてないのに、どうして俺達にこんな事するんだ!」
「子供が……ユウマのせいで……」
「今は、そんな事を言ってる場合ではないだろう!すぐに教会へ避難するんだ!」
ヤンクルの言葉に住民が着の身着のまま教会に駆け込んでいく。
それを見ながらヤンクルはため息をついた。
ユウマが作った巨大な神殿は地下室も作られており400人の村人が暮らすには十分な広さをもっていた。
地下室と言ってもユウマが考えたのは地下貯蔵庫であったが、それが生かされていた。
村で取れた多くの麦や冷暗室としての役目を果たしている部屋にはユウマが刈り続けた多くの動物の肉が貯蓄されていた。
村人が全て逃げ込んだすぐ後に、村の家々は飛翔してくる巨大はスケルトンワイバーンにより破壊されていく。防衛をメインのスライムに任されていたスライム達は1000匹ほどの数が置かれていたが万の数を相手にするには力不足であった。
その頃、ウカル司祭はハネルト大司教よりこの地を1週間死守するように言い付かっていた。
「無理です。ハネルト大司教様もご覧なられたでしょう?今、攻めてきている不死の魔物は以前よりも数を増しています。15年前でも万単位の兵と冒険者を投入して抑えきれなかったのに、一週間も持たせられる訳がありません!今だってユウマ君が作り出したスライム達が必死に魔物の進行を抑えてるのに、戦える者なんて今、この村ではおりません!」
「……分かっている。だが、もうすぐイルスーカ侯爵家の騎士団団長ブルームが戻る」
ハネルトの言葉にウカルは眉を潜める。
「たった300人の騎士団で万を超す魔物にどれだけ対抗できるか分かっていますか?ハネルト様は戦場をご理解しているのですか?これは計算ではないのです。人の命がかかっているのですよ?」
「分かっておるが、エメラダ様が率いるイルスーカ騎士団の本隊が到着するまで少なくとも3日はかかる。その後の王国軍と冒険者、神殿騎士団の編成をどんなに急いでも一週間はかかってしまう。それまでは既存の戦力でやりくりするしかあるまい」
ウカルは頭を抑える。
15年前と違って、この村に存在しているのはユウマ君が残した空飛ぶ魔物すら寄せ付けない結界が張られている教会。
ただ、その効力も5日持てばいいほうだろう。
それに……病も蔓延し始めている。
体力の無い者から次々と倒れていっている。
このままでは、数日で村は陥落する。
「ハネルト大司教様、ウカル様。イルスーカ侯爵家の騎士団団長からの命によりご報告を伝えにきました。」
「そうか!きたか!」
ハネルト大司教は立ち上がるって喜びの声を上げる。
だが。ウカルには、その血まみれの甲冑を着た様子の男からは嫌な予感しかしなかった。
「騎士団長ブルーム、正者の魔物ドラゴンゾンビにより右腕を失い戦線離脱。ブルームが率いておりました騎士団はデーモンゾンビなどに襲われ部隊は壊滅しました」
「……ば、ばかな……ドラゴンゾンビにデーモンゾンビだと?そ、そんな古の上位魔物がなぜ……」
ハネルトは力が抜けたように椅子の上に倒れこんだ。
さらに別のアース教会の者が部屋に駆け込んでくる。
「ウカル様、大変です。一部の村人がユウマ殿がこの事態を引き起こしたと暴動を起こそうとしています」
それを効いてウカルは唇をかみ締める。
そしてすぐに教会の礼拝堂に到着すると80席はある長椅子には全て村人が横たわっていた。
絨毯の上にも多くの村民が力なく座りこんでいる。
そして、ウカルの姿を見た村民達は、思いつめた表情でウカルに詰め寄った。
「ウカル様、ユウマがまた何かをしたんですか?」
「ユウマがこの事態を引き起こしたんですか?」
ウカルは呼吸を落ち着けると礼拝堂内に響き渡るように落ちつた声で村人に語りかける。
「皆様は、誤解されていますが今回の問題にユウマ君は関係はありません」
ウカルの断言する物言いに村人達の声のトーンが下がる。
「ですが安心してください。ここの教会にいる限り魔物が襲ってくる事はありません。地下に十分な食料貯蔵庫があり地下井戸もあります。
それに村人全員が暮らせるだけの居住区も地下には用意されております。
これらは、ユウマ君が一人で作ったものです。アース神教は、彼に来るべき時のためにこの教会を作って頂けるように依頼していたのです。全てユウマ君がもてる力を使い作った結果なのです。」
ウカルの言葉に礼拝堂内のザワつきが酷くなっていく。
そして……。
「そうだ!村を囲むほどの壁を作ったんだからユウマなら何とかしてくれるんじゃないか?」
「いつも俺達に迷惑をかけてるんだからこういう時に働いて貰わないとな!」
「だが朝からユウマの姿を見かけないぞ?」
「どこかに隠れてるんじゃないのか?」
「ユウマの両親に聞けばどこにいるか分かるんじゃないのか?」
村人全員の目がその場に居たユウマの両親に向けられる。
全員から目を向けられたユウマの両親は小さい悲鳴を上げて縮こまってしまう。
それを見てウカルはすぐに話を続ける。
「落ち着いてください。ユウマ君はすでにこの村にはいません。ユウマ君には教会本部で修行を積んでもらう事になっています。そのため、朝には村を出立していました」
ウカルの言葉に村人達は怒り出す。
「ふさげるな!教会は何の権利があって俺達の生活を脅かすんだ!」
「そうよ!あの問題児が一人頑張ったらそれでよかったのに!」
「そうだ、あのスライムに村から逃げ出す手伝いをさせれば?」
「教会はこの村をどうするつもりなの!こうなる事が分かっていたんじゃないの?」
「ふざけるな!ユウマを行かせたのはお前達教会の失態だ!責任取れー!」
「そうだそうだ!お前らは自分勝手だ!俺達がどうなっても良いと思ってるんだろ!」
「一人の生贄で救われるならそれでいいじゃないの!あの子を呼んできてよ!」
「ふざけないでください!あなた達はどれだけ偉いんですか?あなた達にユウマ君を攻める資格はありません。壁を作って村のために、貴方達のために不眠不休で頑張っていたのを貴方達は見なかったんですか?血を吐きながらも村のために頑張っていたその姿を見て、どうも思わなかったんですか!?」
普段は温厚なウカルが怒鳴りつけた事で、村人達は呆気に取られた表情をして静まり返ってしまう。
ウカルの言葉はまだ続く。
「村の中央に井戸を作ったのも、湯浴み場を作ったのも全てユウマ君ですよ?貴方達の体の健康のためにあの子は一生懸命作ったのです。村の灌漑用水路を整備したのも、道を平坦に均したのも全てユウマ君が小さい頃から村のために貴方達のために一生懸命頑張ってきた結果です」
誰もが項垂れて表情を見せない。
それでもウカルは言わないといけない事は言う。
「貴方達は知っていますか?学べると言う事のすばらしさを。勉強と言うのは、余程恵まれた境遇の方か教会本部直属の孤児院以外では受けれません。何故なら子供は立派な稼ぎ手だからです。働けるようになれば有無を言わさず貴方達は子供に畑仕事をさせていましたよね?」
「貴方達の子供達が、文字の読み書きが、算数が出来るようになったのは、誰のおかげか考えた事がありますか?全てユウマ君が私と取引をしてあの子が自ら教えていたのですよ?働き手になる前の小さい頃から彼は勉強を子供達に教えていたのです。その結果、この村の子供達の識字率はこの国一番です。
多くの子供達が教会にスカウトされ送られてきたお金で貴方達は贅沢をしていましたよね?」
何人かの大人がウカルから視線を逸らす。
それを見たウカルは表情に出さずとも心の中でため息をつく。
「それに対して、ユウマ君は貴方達に対価を求めた事が一度でもありましたか?」
だれもが頭を左右に振る。
「それに、貴方達が食べていた食料である肉も他の村の数倍の量が配られていた事を知らないとは言わせませんよ?それだけの量を狩猟するのはどれだけ大変かはヤンクルさんがこの村に来る前から居る方は分かりますよね?」
「で、でもあの子がいればこの状態から抜け出せる……「いいかげんにしなさい!」……」
ウカルが女性の反論を切って捨てる。
「自分達に都合が良ければ利用して都合が悪くなったら切り捨てる、そんな真似をしていて恥ずかしくないんですか?それに貴方達はまだ分かっていない。今、村を守っているのはユウマ君が作って置いて行ったスライムと言う獣魔なんですよ?」
「だ……だが、あれはアリアちゃんが契約したんじゃ?」
「違いますよ。アリアさんが契約したのは名前を与えて存在固定させただけです。魔力供給が無ければスライムは体を維持できません。魔力を供給しているのはユウマ君です。彼は村を離れても貴方達のために戦ってくれているのですよ?」
そしてウカルは、ユウマの両親に目を向けた。
二人とも、自分達の息子であるユウマが何をして来たのかようやく理解したのだろう。
ユウマが残した手紙を彼らは握っていた。
どこまでも恵みを享受出来ると信じて疑わなかった。
どこの村よりも豊かで災害からも程遠く疫病も発生しない。
そのような平和な時が15年も続いた。
ただ、それは幻想であった。
綻びは些細な物で、最初は緑あふれる森に赤みが差した程度の物であったがヤンクルにはすぐに理解できた。
ユウマ村に急いで戻ったヤンクルは、新しく作られた教会に驚きながらも……。
「ウカル様!森に瘴気が!」
「思ったよりずっと早いですね。すぐに村の皆さんを教会の地下に避難させてください。戦える人は武器を取り北側の壁に集まるように伝えてください」
「わかりました」
ウカルの言葉にヤンクルは頷くと村民達が集まっている場所へ向かう。
するとそこは地獄であった。
死霊が発する瘴気に耐えられない村人が倒れていた。
特に子供や老人への影響が大きく全員の意識が朦朧としている。
「すぐに教会へ運び入れてくださいとのウカル様からのご支持です!教会なら瘴気から身を守れるとの事です」
冒険者クラスや戦闘職、聖職者や特技持ちでない限り、この濃度の瘴気に耐えられる者はいない。
それをヤンクルは冒険者をしていた経験から理解していた。
そんなヤンクルの視界の隅でウゾウゾと動きながら倒れてる村人を介護しながら教会に向かって運んでいるスライムがいた。
それも1匹や2匹では効かない。100匹は居る。
「これはユウマ君が作り出したスライム?どうしてこんなに増えて?」
「ヤンクルさん、これは一体どういうことなんですか?どうして森から魔物が攻めてくるんですか?ここ15年間こんな事なんてなかったのにどうして……」
男の言葉にヤンクルは、頭を振る。
そんな事は、ヤンクルにも分からない。
「私、聞いたわよ。ハネルト大司教様とウカル様が、あの子がユウマが村から離れたら魔物が襲ってくる可能性があるって話しをしていたの聞いたわよ!」
女の言葉に意識を失った子供を抱きかかえてる女性が目を見開く。
「それじゃなんだい?ユウマがこの事態を引き起こしたっていうのかい?」
「ユウマが居なくなったから攻めて来るって事はユウマが何らかの力で抑えていたと考えた方が……」
「何だよ!村の人間なのに何で村から出ていくだよ!」
「普段から迷惑しかかけてないのに、どうして俺達にこんな事するんだ!」
「子供が……ユウマのせいで……」
「今は、そんな事を言ってる場合ではないだろう!すぐに教会へ避難するんだ!」
ヤンクルの言葉に住民が着の身着のまま教会に駆け込んでいく。
それを見ながらヤンクルはため息をついた。
ユウマが作った巨大な神殿は地下室も作られており400人の村人が暮らすには十分な広さをもっていた。
地下室と言ってもユウマが考えたのは地下貯蔵庫であったが、それが生かされていた。
村で取れた多くの麦や冷暗室としての役目を果たしている部屋にはユウマが刈り続けた多くの動物の肉が貯蓄されていた。
村人が全て逃げ込んだすぐ後に、村の家々は飛翔してくる巨大はスケルトンワイバーンにより破壊されていく。防衛をメインのスライムに任されていたスライム達は1000匹ほどの数が置かれていたが万の数を相手にするには力不足であった。
その頃、ウカル司祭はハネルト大司教よりこの地を1週間死守するように言い付かっていた。
「無理です。ハネルト大司教様もご覧なられたでしょう?今、攻めてきている不死の魔物は以前よりも数を増しています。15年前でも万単位の兵と冒険者を投入して抑えきれなかったのに、一週間も持たせられる訳がありません!今だってユウマ君が作り出したスライム達が必死に魔物の進行を抑えてるのに、戦える者なんて今、この村ではおりません!」
「……分かっている。だが、もうすぐイルスーカ侯爵家の騎士団団長ブルームが戻る」
ハネルトの言葉にウカルは眉を潜める。
「たった300人の騎士団で万を超す魔物にどれだけ対抗できるか分かっていますか?ハネルト様は戦場をご理解しているのですか?これは計算ではないのです。人の命がかかっているのですよ?」
「分かっておるが、エメラダ様が率いるイルスーカ騎士団の本隊が到着するまで少なくとも3日はかかる。その後の王国軍と冒険者、神殿騎士団の編成をどんなに急いでも一週間はかかってしまう。それまでは既存の戦力でやりくりするしかあるまい」
ウカルは頭を抑える。
15年前と違って、この村に存在しているのはユウマ君が残した空飛ぶ魔物すら寄せ付けない結界が張られている教会。
ただ、その効力も5日持てばいいほうだろう。
それに……病も蔓延し始めている。
体力の無い者から次々と倒れていっている。
このままでは、数日で村は陥落する。
「ハネルト大司教様、ウカル様。イルスーカ侯爵家の騎士団団長からの命によりご報告を伝えにきました。」
「そうか!きたか!」
ハネルト大司教は立ち上がるって喜びの声を上げる。
だが。ウカルには、その血まみれの甲冑を着た様子の男からは嫌な予感しかしなかった。
「騎士団長ブルーム、正者の魔物ドラゴンゾンビにより右腕を失い戦線離脱。ブルームが率いておりました騎士団はデーモンゾンビなどに襲われ部隊は壊滅しました」
「……ば、ばかな……ドラゴンゾンビにデーモンゾンビだと?そ、そんな古の上位魔物がなぜ……」
ハネルトは力が抜けたように椅子の上に倒れこんだ。
さらに別のアース教会の者が部屋に駆け込んでくる。
「ウカル様、大変です。一部の村人がユウマ殿がこの事態を引き起こしたと暴動を起こそうとしています」
それを効いてウカルは唇をかみ締める。
そしてすぐに教会の礼拝堂に到着すると80席はある長椅子には全て村人が横たわっていた。
絨毯の上にも多くの村民が力なく座りこんでいる。
そして、ウカルの姿を見た村民達は、思いつめた表情でウカルに詰め寄った。
「ウカル様、ユウマがまた何かをしたんですか?」
「ユウマがこの事態を引き起こしたんですか?」
ウカルは呼吸を落ち着けると礼拝堂内に響き渡るように落ちつた声で村人に語りかける。
「皆様は、誤解されていますが今回の問題にユウマ君は関係はありません」
ウカルの断言する物言いに村人達の声のトーンが下がる。
「ですが安心してください。ここの教会にいる限り魔物が襲ってくる事はありません。地下に十分な食料貯蔵庫があり地下井戸もあります。
それに村人全員が暮らせるだけの居住区も地下には用意されております。
これらは、ユウマ君が一人で作ったものです。アース神教は、彼に来るべき時のためにこの教会を作って頂けるように依頼していたのです。全てユウマ君がもてる力を使い作った結果なのです。」
ウカルの言葉に礼拝堂内のザワつきが酷くなっていく。
そして……。
「そうだ!村を囲むほどの壁を作ったんだからユウマなら何とかしてくれるんじゃないか?」
「いつも俺達に迷惑をかけてるんだからこういう時に働いて貰わないとな!」
「だが朝からユウマの姿を見かけないぞ?」
「どこかに隠れてるんじゃないのか?」
「ユウマの両親に聞けばどこにいるか分かるんじゃないのか?」
村人全員の目がその場に居たユウマの両親に向けられる。
全員から目を向けられたユウマの両親は小さい悲鳴を上げて縮こまってしまう。
それを見てウカルはすぐに話を続ける。
「落ち着いてください。ユウマ君はすでにこの村にはいません。ユウマ君には教会本部で修行を積んでもらう事になっています。そのため、朝には村を出立していました」
ウカルの言葉に村人達は怒り出す。
「ふさげるな!教会は何の権利があって俺達の生活を脅かすんだ!」
「そうよ!あの問題児が一人頑張ったらそれでよかったのに!」
「そうだ、あのスライムに村から逃げ出す手伝いをさせれば?」
「教会はこの村をどうするつもりなの!こうなる事が分かっていたんじゃないの?」
「ふざけるな!ユウマを行かせたのはお前達教会の失態だ!責任取れー!」
「そうだそうだ!お前らは自分勝手だ!俺達がどうなっても良いと思ってるんだろ!」
「一人の生贄で救われるならそれでいいじゃないの!あの子を呼んできてよ!」
「ふざけないでください!あなた達はどれだけ偉いんですか?あなた達にユウマ君を攻める資格はありません。壁を作って村のために、貴方達のために不眠不休で頑張っていたのを貴方達は見なかったんですか?血を吐きながらも村のために頑張っていたその姿を見て、どうも思わなかったんですか!?」
普段は温厚なウカルが怒鳴りつけた事で、村人達は呆気に取られた表情をして静まり返ってしまう。
ウカルの言葉はまだ続く。
「村の中央に井戸を作ったのも、湯浴み場を作ったのも全てユウマ君ですよ?貴方達の体の健康のためにあの子は一生懸命作ったのです。村の灌漑用水路を整備したのも、道を平坦に均したのも全てユウマ君が小さい頃から村のために貴方達のために一生懸命頑張ってきた結果です」
誰もが項垂れて表情を見せない。
それでもウカルは言わないといけない事は言う。
「貴方達は知っていますか?学べると言う事のすばらしさを。勉強と言うのは、余程恵まれた境遇の方か教会本部直属の孤児院以外では受けれません。何故なら子供は立派な稼ぎ手だからです。働けるようになれば有無を言わさず貴方達は子供に畑仕事をさせていましたよね?」
「貴方達の子供達が、文字の読み書きが、算数が出来るようになったのは、誰のおかげか考えた事がありますか?全てユウマ君が私と取引をしてあの子が自ら教えていたのですよ?働き手になる前の小さい頃から彼は勉強を子供達に教えていたのです。その結果、この村の子供達の識字率はこの国一番です。
多くの子供達が教会にスカウトされ送られてきたお金で貴方達は贅沢をしていましたよね?」
何人かの大人がウカルから視線を逸らす。
それを見たウカルは表情に出さずとも心の中でため息をつく。
「それに対して、ユウマ君は貴方達に対価を求めた事が一度でもありましたか?」
だれもが頭を左右に振る。
「それに、貴方達が食べていた食料である肉も他の村の数倍の量が配られていた事を知らないとは言わせませんよ?それだけの量を狩猟するのはどれだけ大変かはヤンクルさんがこの村に来る前から居る方は分かりますよね?」
「で、でもあの子がいればこの状態から抜け出せる……「いいかげんにしなさい!」……」
ウカルが女性の反論を切って捨てる。
「自分達に都合が良ければ利用して都合が悪くなったら切り捨てる、そんな真似をしていて恥ずかしくないんですか?それに貴方達はまだ分かっていない。今、村を守っているのはユウマ君が作って置いて行ったスライムと言う獣魔なんですよ?」
「だ……だが、あれはアリアちゃんが契約したんじゃ?」
「違いますよ。アリアさんが契約したのは名前を与えて存在固定させただけです。魔力供給が無ければスライムは体を維持できません。魔力を供給しているのはユウマ君です。彼は村を離れても貴方達のために戦ってくれているのですよ?」
そしてウカルは、ユウマの両親に目を向けた。
二人とも、自分達の息子であるユウマが何をして来たのかようやく理解したのだろう。
ユウマが残した手紙を彼らは握っていた。
コメント
ノベルバユーザー333169
ウカルうっかりいい司祭になりましたね♪
ノベルバユーザー208117
司祭いい人すぎる
ノベルバユーザー69968
というかこんなクズしかいない村なら崩壊してしまえ
急激に魔力が減っているってスライムの増殖に使われていたのか
ノベルバユーザー69968
アライ村からいつ追い出したはずのユウマに名前が変わったんです?