【書籍化作品】無名の最強魔法師
物理的な御話合い(前編)
主に貿易航路が開かれているのは商業国家エメラスやアルネ王国である。
そのため、他国の文化が流入し町の建築物にも影響を与えており伝統工芸品、香辛料や食料、繊維製品などが大量に船により運びこまれ市場には多くの商品が並ぶ豊かな港町であったとリネラスが帆馬車の中で俺に説明してくれていたが……。
「全然、これっぽっちも活気があるようには見えないな……」
「う、うん……」
リネラスは俺の言葉に、小さく頷きながら相槌を打ってくる。
現在、俺とリネラスは港町カレイドスコープの様子を確認するために2人で町中を歩いている。
街中の通りは人通りが極端に少なく、市場も閑散としており、店舗が開いていても商品は殆ど置かれてはいない。
「商品の品薄なのもエルンペイア王が特定の商人を徴用してるからか……」
「……そうね」
さすがのリネラスも、他国へと通じる玄関口である海の港町カレイドスコープが、ここまで廃れているとは思っていなかったらしく元気がない。
俺は、内心めんどくさいなと思いながらも。
「とりあえず冒険者ギルドに行ってみないか? 冒険者ギルドが存在しているのなら情報がもらえると思うからな」
俺の言葉にリネラスは「そうね」と力なく頷いてきた。
「それにしても、港町カレイドスコープの冒険者ギルドの場所を知らないとは思わなかったな」
「仕方無いじゃない! でも……前に来た時はこの辺に建っていたと思うんだけど……」
リネラスの案内で、来た場所には瓦礫の山があるだけで建物のような物は、民家か野菜や果物を取り扱うような店舗しか見当たらない。
冒険者ギルドの場所は、フィンデイカ村の冒険者ギルドと同じだとリネラスが言っていた事から見間違えるはずは無いと思うんだが……。
「仕方無いな……」
「ユウマ、どうかしたの?」
俺の一人ごとにリネラスが問いただしてくるが、俺は近くの果物と野菜を取り扱っている商店に近づく。
「すいません」
「なんですか? 冷やかしなら帰ってもらえますかね?」
「いや……冷やかしではないんだが……」
俺は店主の男に話ながらリンゴを1個手にとると金貨を1枚弾いて投げる。
金貨を受け取った店主は俺を見て「あまりデカイお金を渡されても困るんだが?」と言ってくるが。
「いや、少し情報がほしい。この町の冒険者ギルドはどこにあるか教えてもらえないか?」
「ああ……そういうことですか」
ようやく俺が金貨を投げて渡した理由を察してくれたようだ。
つまり金貨は情報料。
「冒険者ギルドですか。それなら、そこの瓦礫の場所が冒険者ギルドですね」
俺は店主の言葉を聞いて振り返る。
そして瓦礫の山に近づくと、【海の港町カレイドスコープ冒険者ギルド:サーファー】と書かれている看板が出てきた。
その看板を見てリネラスは茫然としたまま、「うそ……」と呟いていた。
「そこの者達! うごくな!」
リネラスがショックを受けて茫然としていた所で、突然に声をかけられた。
振り返ると、30人近い兵士達が俺達を取り囲んでいる。
着ている鎧は、全員同じ色と形をしており、それだけで町の衛兵か兵士だと言うのが分かる。
俺は、町に来てすぐ兵士達に声をかけられた事に嫌な予感が止まらなかった。
ネイルド公爵領から来たばかりで、まだ町の様子すら把握しきれていないのに、兵士に声をかけられるなと、あまり良い事とはとても思えなかった。
「そこの男! 名前を名乗れ! 冒険者ギルドの関係者か?」
なるほどな……。
どうやら雰囲気から冒険者ギルドと敵対している連中らしいな。
俺は人数を数えていく。
近接の兵士は27人で、【探索】の魔法で確認したかぎりでは周囲の建物の屋根上に数人の弓兵を配置していると……。
俺も、町に来たばかりでゴタゴタに巻き込まれるは得策でないくらいは理解してるつもりだ。
ここは穏便に話をして情報を聞き出してから、お引き取り願うことにしよう。
「俺の名前か。……ふむ、名前はユウマだな」
「なるほど……ユウマか。それでは何故、冒険者ギルドの瓦礫を触っている? 触れてはいけない事はクルド公爵様より通達があったはずだろう?」
通達ね……。
そんなのは知らないな。
「いや、俺達は近くの村から買いだしに来ただけなんだ。だから、この町の決まりは知らないんだ」
「嘘をつくな! クルド公爵領の全ての村、町には冒険者ギルドの建物には触れるなと通達が言っているはずだ! それに他領地からの入領は禁止されている!」
あー。そういえば、他の領地への移動は制限されているとかリネラスとイノンが俺に説明していたな。
スッパリと忘れていたな……。
「話は、詰め所で聞かせてもらおう。手荒な真似はしたくない! 着いてきてもらえるな?」
「だが、断る!」
「な、なんだと……?」
兵士は、俺が断ったことに驚いているようだが俺が捕まるのはいい。
俺は冒険者だからな。
だが、リネラスは冒険者のギルドマスターだ。
ギルドマスターが殺されている国で、リネラスが居る状態でこいつら兵士の指示に従うのは得策ではない。
「わかった……貴様がそういうつもりなら力づくで!」
俺と話していた男が手を上げると、全員が腰からブロードソードを抜き出し俺に向けてきた。
まぁ、向こうが俺と殺し合いをしたいなら仕方無いな。
殺るなら徹底的に相手を殲滅するか。
「仕方無いな……」
俺は両拳を鳴らしながら兵士達に語りかける。
「この俺に武器を向けるってことは、お前達も殺される覚悟があるってことなんだが理解しているだろうな?」
そこまで話した所で、俺は名案を思いつく。
情報が欲しいなら、こいつらから聞き出せばいいんじゃないのか? と……。
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ウォン
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ノベルバユーザー225818
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