【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

海の港町カレイドスコープの再建!(前編)

 海の港町カレイドスコープは、卑劣な水竜の津波攻撃により壊滅した。

 そして……町の外まで津波に流された俺を含んだ義勇兵の皆さんは、先に避難していたカレイドスコープの住民に助け出されていた。

「ユウマさん、大丈夫ですか?」
「ああ、イノンか……」

 動こうとすると、どうやら津波に呑み込まれ意識を失った後、町の建物に体中をぶつけていたようで体中に激痛が走った。
 俺は、【肉体修復】の魔法で体中を直して立ち上がる。

「イノン。死人とかは?」
「出ていないようです。怪我人はいるみたいですけど……エルメトス教会の方々が回復魔法で治療を行っているので問題はないとアレフさんが言っていました」
「アレフ?」

 たしか、義勇兵の人間もアレフが義勇団を作ったとか言っていたな。
 もしかしたら、町の有力者なのかもしれない。

「それよりも、一体何があったんですか?」

 イノンが心配そうな顔をして俺に問いかけてくるが、俺としては何と言うべきか考えてしまう。
 まさか、俺が自重しない魔法で隕石を海に落としたから津波が起きたとは言えないし……。

「ああ、俺もよくは知らないんだが! 俺に負けそうになった魔物が津波を引き起こして俺達を攻撃してきたんだ!」
「えええ!?」
「なんだってー!」

 イノンが大げさに驚いてくる。
 そして、その後ろには髭を生やした体格の良い初老に差しかかった男も驚いている。

「えっと……お前は?」

 俺はイノンの後ろに立っていた男に声をかける。
 すると男は一度、咳をつくと。

「私の名前はアレフという。海の港町カレイドスコープを治める為に、クルド公爵に任命された代官だが……彼らの横暴には私も困っていたのだ。だが、ようやくクルド公爵の息が掛った兵士達が居なくなったと思ったら、この有様だ。どうしたらいいか分からないよ」

 俺はアレフが指さした方へ視線を向けると、海の港町カレイドスコープは見事なまでに破壊し尽くされていた。
 海水が引いたと言っても畑に吸い込まれた海水の含まれた塩は堆積するだろうし、畑は使い物にならなくなってしまう。
 そして何より1万人以上が暮らす町が壊滅したのだ。
 その影響は大きい。
 良く見るとアレフは、途方に暮れているように見える。

 さすがの俺も、魔物に――水竜に怒りを禁じえない!
 水竜がいなければ、こんな事になっていなかったのに……。

 だが! しかし! こうなってしまうのもやはり世の宿命であり形在る物は何れ壊れるのが世の常だから仕方無いと諦めよう。
 たとえ、少しだけ俺が悪かったとしても仕方が無い……世の中は綺麗事ではうまくまわらないのだから。

「そうですか、心中察します。それでは失礼いたします。イノン、帰るぞ!」
「え? あ、ハイ」

 イノンは慌てながらも返事をして俺に近づいてきた。
 俺とイノンは、帆馬車へ向かう。
 どちらにせよ、もう町がこんなになってしまっては情報収集どころではないだろう。
 ほんとうに大変な事になったもんだ。

「ところでユウマ殿」

 俺は、男の言葉に足を止めた。
 どうして、俺の名前を知っている? と……。
 俺は男の方を振り向く。

「これを落とされましたよ?」
「あ、これはご丁寧にありがとうございます」

 俺は、男から冒険者ギルドカードを受け取る。
 すると、男は俺を見て。

「その冒険者カードの発行日、そしてSランク冒険者の称号。しかもエルンペイア王と結託していないと言う事は……生き残りのギルドマスターがいるのですね」
「何のことか分からないな」

 俺の言葉に男は眉根をひそめて。

「いえ、依頼をしたいのです。もちろん、お代はお支払い致しますし冒険者ギルドの建物の再建も致しましょう。どうでしょうか? お願い出来ませんか?」
「……」

 そんな事を俺に言われても困るんだが?
 そもそも、そういう面倒事には巻き込まれたくない。

「いいわ! その依頼を受けてあげる!」

 俺が断りを入れようとした矢先、移動式冒険者ギルドがある方角に金髪碧眼のまな板娘リネラスが立っていた。
 そしてリネラスは、大声でアレフの依頼を受ける事を宣言していた。


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