【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

海の迷宮リヴァルア攻略(2)

 海の迷宮リヴァルア内部に足を踏み入れると、中はまるで別物であった。
 海の中に存在しているのだから、迷宮内に海水が詰まっていると思ったのだが、空気が存在している
 うれしい誤算だ。
 最悪、空気の比率を考えながら生成しないといけないと思っていたが助かった。
 俺は迷宮の入り口から階段を降りていく。
 すると、しばらくして通路に降り立った。
 通路の高さは5メートル、横幅5メートルはあるだろうか?
 通路には、無数の成人男性と同じくらいの半漁人がいるのが見える。
 そして俺を見ると同時に一斉に襲いかかってきた。

 半漁人は空中に浮いている分際で尾ひれは使い空中を泳ぐように迫ってくる。
 俺は迫ってきた半漁人の頭を掴み後続へ投げつける。

「おい、言葉が分かるなら聞け! 俺はユウマと言う。この迷宮を攻略にしにきた。邪魔をすれば殺すし邪魔をしないなら殺さない。戦意が無い奴は武器を捨ててここから去れ!」
 
 俺の言葉に半漁人達は攻撃してきた。

「最後の通告だ。攻撃をこれ以上、攻撃をしてくるなら殺す」

 俺は投げつけられた槍を、素手で弾きながら言葉を発する。
 【流星】の魔法により鍛えられた俺の動体視力から見たら、彼らがどんなに早く槍を投げようが止まっているようにしか見えない。
 そして彼らは俺の言葉を聞かずに再度、攻撃をしかけてきた。
 どうやら言葉は理解してくれないらしい。

「仕方ないな」

  俺は一人呟きながらも、クルド公爵邸で出会った男用に開発した新魔法【極小竜巻】を試す事にする。
  手のひらに極小の超高速回転する竜巻を作り出す。
  それを維持した状態のまま、半漁人に肉薄し突かれてきた槍を掴み引っ張り相手の体のよろけた所で、半漁人の体に超高速回転している小型の竜巻を当てる。
  すると、超高速回転していた竜巻は一瞬で力を解放され当てられた半漁人の体は粉々に吹き飛んだ。

 吹き飛んだ半漁人の肉片は辺り一面に散らばり迷宮内を赤く染めてあげていく。
 しかも至近距離だったことで、俺はモロに血を被った。
 魔法で水を作りだし体中の血を流した後、半漁人の方へ視線を向けながら【身体強化】の魔法を解除しつつ【肉体修復】の魔法ではなく【肉体再生】の魔法を常時発動状態にする。

 そして、俺は半漁人との戦闘を本来の自分自身の身体能力のみで戦うことをした。
 戦って戦い続けた後には20匹近い半漁人が空中に浮いていた。
 俺は、その場で座り込む。
 疲労感がすさまじい。
 多勢に無勢と言う事もあり、即死することはなかったがかなりの傷を負った。

 俺は、石で作られた壁に体を預けたまま、ゆっくりと床に座りこんだ。

「右手切断、大腿筋断裂、腹部損傷、左手骨折、胸部裂傷か……。これまで、どれだけ魔法に頼っていたか分かるな」

 俺は一人呟きながら自分の体を見る。
 服は、あちらこちら破けており、服の意味を成していない。

 しばらくして肉体の再生が終わったのを確認すると、俺はまた迷宮を歩きだす。
 1階層にいるのは半漁人ばかりで槍を突くか投擲するかの2パータンで攻撃が構成されているのが分かってきた。
 俺は横に移動しながら最小の動きで攻撃を躱す。
 そしてかわしきれないのは体に突き刺さる。
 そして【肉体再生】の魔法で強靭な肉体へと再生させていく。
 それをただ、愚直に繰り返す。

 何時間経過したのだろうか?
 俺は疲労感に襲われながらも、修練を続ける。

 そして、下の階層に降りる階段を見つけたところで休むことにした。
 壁を、魔法で崩し中に小部屋を作り中に入った後、入り口を【土壁生成】の魔法を使い塞ぐ。
 中の小部屋の壁に背中を預けながら、俺は、この迷宮に入ってからの初めての休みを取った。

 どのくらい寝たかは分からないが体調はある程度、回復している。
 俺は次の階層に続く階段を降りていく。
 通路の広さこそ1階層と変わりなかったが3メートルを越す蟹がいた。
 海の港町カレイドスコープを襲ってきた蟹と同種だと思う。

「そういえば食事がまだだったな?」

 俺は襲い掛かる蟹に視線を向ける。
 とりあえず……こいつは、焼けば食えるのか?
 俺と視線が合った蟹が逃げ出そうとしたので走って退路を断つ。

「知らなかったのか? 魔王ユウマからは逃げられない」

 退路を立たれた事でパニックに陥って体当たりしてきた蟹を受け止める。
 そして思いっきり蟹の腹部を殴りつける。
 コブシと腕が折れる音が聞こえてくるが、無視しながら殴り続けると甲羅を貫通した。

 蟹の魔物は聞こえない音で鳴く。
 俺は、蟹の中で【炎】の魔法を発動させる。
 ただの分子運動からの熱エネルギーで炎を生み出しただけが。
 蟹は内側から炎で焼きつくさていき、迷宮内には香ばしい良いにおいが立ち込めた。

 そこで俺は腕を蟹から抜く。

「はぁ……」

 よく見ると、自分の腕が炭化しており、骨が剥き出しになっている。
 そして発動していた【肉体再生】の魔法の影響ですぐに肉が盛り上がり腕が再生した。
 そして蟹を食べながら、力任せでは駄目だなと考える。
 もっと効率よく魔法を使えるようにしないといけない。
 魔力を変質させて風の対流を利用することで上手く出来ない物だろうか?

 俺は右手に微細な粒子を纏わせ空気を振動させる。
 そしてそのまま壁を撫でるとスッと迷宮の壁に切れ込みが入った。

「よし、これを【超振動手刀】もとい【ユウマソード】と名づけよう」

 粗方、食事を終えて立ち上がると俺は迷宮を進む。
 すると時たま、蟹が近づいてくるが全て【ユウマソード】で断ち切って始末していく。
 ただし、肉体強化魔法は使っていない事から攻撃を受けると半漁人とは比較にならない程のダメージを受ける。
 食事をしてから、5時間以上迷宮内を探索をしていたが、まったく下へ降りる階段が見つからない。
 仕方無く、俺は1階の時のように小部屋を作って体を休める事にした。

 そして2日後。
 ようやく下へ降りる階段を見つけることが出来た。

 3階層には2メートルを越す伊勢海老がいた。
 そう、伊勢海老がいた。
 大事な事だから2回言った。

「これは……食べるしかないな」

 俺の言葉に反応したかのようにイセエビが丸くなり俺へ突っ込んできた。
 目で追えるギリギリの速度、だが! 目で追えるからと言って避けられるとは限らない。
 俺は、突っ込んでくるイセエビを避けようとしたが避けきれず吹き飛ばされ壁に張り付けにあった。
 辛うじて頭を守ることは出来たが、指一本動かすことが出来ない。

 追撃してくるイセエビを見ながら【風刃】の魔法で、イセエビをバラバラに切り裂いた。
 しばらくしてから、肉体再生が終わると俺は石で作られた床の上に倒れこんだ。

 今のは、やばかった。
 下手したら死んでいた。
 何が、食べるしかないなだ……。

「もっと集中しないと……」

 体を持ち上げようとしたが、その場で倒れこんでしまう。
 どうやら、四肢どころか脊髄まで破壊された事で体が一時的に言う事を効かないようだ。
 俺はその場で、迷宮の壁を魔法で作り変え小部屋を作るとそこに身を転がしながら入り小部屋の入り口を魔法で閉じた。

 そして俺は目を閉じる。
 迷宮内に水が詰まっていたのなら大規模破壊魔法で破壊していたが、水が詰まっていないなら格好の修行場になると魔法の制限を行い戦っていたが、今まで自分がどれほど魔法に頼っていたのかを痛感させられる。

 とりあえずは、最小限の魔法だけで自分を鍛える。
 少しだけ……休んでから修行をまた始めるとしよう。



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