【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

不正をする者たち!

「……ありがとうね、ユウマ」

 リネラスは、俺が渡したハンカチで顔を拭いてから俺を見上げてくる。

「気にするな、俺たちは仲間じゃないか! 仲間を守ることは当然だろう?」

 俺の言葉にリネラスは頭をコテンと横に倒す。

「……なんか、ユウマらしくない……」

 リネラスは、少し考えると俺の手をガシッと握り締めてきた。

「ねえ、ユウマ? 何か隠してることない?」

「何を言ってるんだ? 俺たちは仲間だろう? 仲間同士で隠し事なんてするわけがないだろう?」
「……」

 まったくリネラスの疑い深い所は、よくないところだな。

「あ、あれだ! ほら! ギルドマスターが困ってたら無償で手助けするのもギルドメンバーとして当然の行為じゃないか? ほら、わかるだろう? アハハハハハ」

「……」

 段々とリネラスが俺を見る目がきつくなってきている気がする。
 やばい、このままでは俺がダンジョンコアを持ってきた事がバレてしまう。
 そんな事になれば、とても大変な毎日がスタートする予感がする。
 むしろ全ての元凶が俺だと言う事までバレてしまうまである。

「……ねえ?ユウマ。どうして私に花を買ってくれようとしたの?」

 ま……まずい。これは完全に疑いモードに移行していらっしゃる。

「普段から、リネラスに迷惑をかけてるからな、そのお礼だ」
「へー……」

 リネラスは俺の手を掴んだまま、イノンの方へ顔を向ける。

「イノン、ユウマに花壇使っていいって言ったよね?」

 おい! イノンに話を振るんじゃない!

「はい、言いましたけどそれがどうかしたんですか?」

 イノンは頭を傾げながら不思議そうな顔をしている。 

「ねえ?イノン。その時の会話思い出せたら教えてくれない?」

 リネラスの言葉にイノンは頷くとしばらく考えた後。

「えーと……たしか、『そうだな、それでイノンに聞きたいことがあるんだが、この『移動式冒険者ギルド宿屋』の花壇は、移動する時も一緒に収納されるのか?』って聞いてきました」

「そう、なるほどね……ユウマ?」

「ナンデショウカ」

「どうして、いままでユウマはまったく花に興味がなかったのに花壇の話をイノンにしたのか説明してもらってもいいかな?」
「……ほ、ほら!気分転換ってやつだよ! そうだよな? イノン!」

「はい、そう聞きましたけど……やっぱり何を植えるのか気になっていたので遠くから見てました、お花の育成は大変ですから、少しでもアドバイスできるかと思って……」

 ……なんだと? まさか……まさか……。

「イノン、ちょっと用事があるから少し外に出ないか? 話したいことがあるんだが!」

 このままではまずい、決定的な証拠が証拠があああああ。

「それで何を植えていたのか分かる?」

 リネラスの言葉にイノンが頷く。

「はい、青い一抱えくらいある丸い水晶を花壇に植えてました」

「……ユウマ?」
「はい……」
「正座してね?」
「はい……」

 リネラスの言葉に素直に俺はその場に正座した。
 そしてリネラスは俺とセレンとイノンとセイレスを見た後に。。

「これより、被告人ユウマくんの裁判を行います」

「被告人っておかしいぞ! 俺は悪くない! 悪いのはリネラスだろ? 普段から金にがめついからこうなったって理解しろよな」
「はあ? ユウマ、あんたが今回の原因でしょう? 誰かを主犯に仕立てないと冒険者ギルドの失墜に繋がるわ! 今回は、ユウマが全部悪いんだから責任取りなさいよ!」

「まて! その理屈はおかしい。部下の責任は上司の責任だろ? なら! お前にも責任があるはずだろ? 監督不行き届きって責任があるだろ!」
「冗談じゃないわ!よく考えて! ギルドマスターの資格が剥奪されたらここの権限とか私の給料とか将来設計が全部吹き飛んじゃうのよ? ユウマならすぐSランクになれるでしょう? だから一回冒険者ギルドを脱退してから責任取りなさいよ! さっき責任は取らないといけないとか言ってたわよね?」
「……まて落ち着けリネラス。俺が処分されたとしよう、そしたらお前にもある程度とばっちりは来るんじゃないのか?それにお前がダンジョンコアがどのような物か伝えなかったんだから、やっぱりお前の職務怠慢だろ!」
「はあ? あんた何言ってんの? 人に罪を押し付けるなんて、ちょっと引くんですけど?」

 リネラスとユウマが互いの引かずに意見を言い合っているのを見て、「このギルドは本当に大丈夫なんだろう?」と小さくセレンが呟き、セイレスは黒板に「喧嘩は駄目ですよぉ」と書いている。
 そして……。

「あの……はやく宿屋の修理を……」

 小さくかすれるように呟いたイノンの言葉は誰にも聞こえない。

「……ハァハァハァ。やるわね、ユウマ……」
「……ハァハァハァ。リネラス、お前こそな……なあ? リネラス、思ったんだが、無理に主犯を決めなくていいんじゃないか? あくまでも自然発生した魔物って事で瞬殺してダンジョンコアを破壊すれば……この国にギルドマスターはリネラスしかいないんだからさ、俺たちが黙ってればバレないんじゃないか?」
「……ユウマ。私が、そんな不正に加担するとでも思っているの?」
「よく考えるんだ、自然発生した魔物だとすれば討伐すれば懸賞金も貰えるしギルドの知名度も上がる。リネラスも給料が上がるかもしれないだろ?」
「……リネラスさん!不正はだめだってあれほど言ってましたよね?」

 セレンが輝く目でリネラスを見る。

「大丈夫よ、セレン。だから少しだけここで待っててね。私は、ユウマと外で話をつけてくるから!」



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