【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

秘密は蜜の味(中編)

 セイレスの黒板を見て、俺は小さく頷く。
 その様子に気がついたユリカとセレンは意味深な表情を向けてきた。
 俺は、とくに訂正する必要もないと思い席を立つと食堂から出で通路でセイレスを待つ。

「ユウマさん?」

 通路の壁に背を預けていると、窓を拭いていたイノンが話しかけてきた。
 まぁ作ったばかりと言っても一日経てば、汚れるからな……。

「ああ、すまない。直したら知らせるはずだったんだが……いろいろあってな……」

 ダンジョンコアの問題とか、ダンジョンコアの問題とか、ダンジョンコアの問題とかな。

「ハイ……リネラスさんが抱きついて何か言ってましたよね!」
「え?」
「抱き合ってましたよね!?」
「いや……あれば……そんな事じゃないんだが……」

 そうか……第三者から見ればリネラスは俺に抱きついているように見えるしお互いに何か告白じみた話をしているように見えるのか。

「いや……あれはな……」

 俺はイノンの手を握る。

「え……ええ!? ユウマさん!?」

 イノンの手を握ったまま中庭の花壇まで連れていくと、イノンは花壇を見て。

「――ええ!? ユウマさん!? これって……一体何なんですか?」

 驚いた顔で俺を見てくるが、その表情からは戸惑いが見える。
 イノンは瞳に涙を貯めながら。

「こ、これって……地下室何ですか? 花壇に地下室を作ったんですか?」
「いや……そうじゃないんだ……」

 たしかに、普通に地面の下に通じる階段を見たら地下室を作ったと思うよな……。
 ただし、地下室は地下室でもただの地下室ではないのだよ。

「実は、ダンジョンが出来たんだ!」
「ダンジョン? ダンジョンってあのダンジョンですか? モンスターとか宝箱とか出たりするあのダンジョンですか?」
「そうだ! そのダンジョンだ!」
「……あっ……「お、おい!」」

 力なく倒れかけたイノンの体を抱きしめた。
 腕の中で力なく横たわるイノンは、どうやらショックのあまりに気絶したようだった。

「はぁ……どうするんだよ、コレ……」

 途方に暮れていると、肩を叩かれた。
 後ろを振り返ると、頬を膨らませたセイレスが黒板を俺に向けてきている。
 「ユウマさん! 大事な話をしようと言ったのに何をしているんですか! ぷんすか!」と黒板には書かれている。さらに黒板にチョークで文字を書いて俺に見せてくると、そこには「寝込みの女性を襲うなんて最低です! ぷんぷん!」と書いてある。

「いや……実はな……」

 俺は顎でダンジョン入り口の方をセイレスに教える。
 するとセイレスはダンジョン入り口を見て黒板にチョークで文字をカリカリを書くと俺に向けてきた。「こんな状況でダンジョンを増やすなんて何を考えているんですか!」と書いてある。

「そうじゃないんだよ。リネラスが私利私欲のためにダンジョンを作ろうと言ってきたんだよ……」

 俺がそこまで言うと首からかけてある紐付きの黒板を両手から離すと、セイレスは両手を柏手で叩くとナルホドーと言う顔を見せてきた。

 すると黒板を俺に見せてくる。そこには、「実は、ユウマさんに話したい事というのは、その事に関してのお話なんです」と黒板には書かれている。
 リネラスが駄目な理由ね……。
 でも、それは……。

「セイレス、人の秘密を……その人間が知らない場所で教えるのはマズイ。それは……裏切りになるだろう? だから俺はリネラスが自分から言うまでは待つつもりだ」

 俺の言葉を聞いたセイレスは一瞬、呆けた顔をした後に、「そうですか……まるでユウマさんは模範的な解答ばかりしてるように見受けられます。ですが……悪くはないと思いますよ」と、黒板に書いて見せて来た後、頭を下げると移動式冒険者ギルド宿屋の中に入って行った。




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