【書籍化作品】無名の最強魔法師
イルスーカ侯爵令嬢エメラダの奮戦(中編)
イルスーカ侯爵領の主都イルティアの人口は3万人を超す。
他領主の首都などは、魔物の襲撃が多い為に壁の内側に生活の場を作る必要がある。そのため、1万人も入ればいい方で大体が数千人規模の都市となっている。
アルネ王国王都は人口10万人を超えるが、王都を抜かすなら首都イルティアの人口が一領主の都市としては最も人口が多い。
その理由は、都市部を守る壁を作っておらず過去存在していた壁内は行政区画、その外には無尽蔵に広がる畑や建物が存在してるからだ。
イルスーカ侯爵領では15年もの長い期間、正者の森の魔物からの襲撃が無く、魔物の襲撃が無いから出来る発展であり、アライ村周辺の村々からも農作物が安定に供給されてきていることもあり、極めて治世は安定している。
そんな首都イルティアの騎士団詰め所は、旧外壁の箇所に作られており私は今、部下と共に北詰め所に向かっている。
数分で北詰め所に辿りつくと馬から降り、すぐに詰め所の中へと向かう。
「エメラダ様、お待ちしておりました」
部下が起立をして私に話しかけてくる。
「うむ。ごくろう、してそちらが?」
私の言葉に部下は『はい、こちらがその者になります』と答えてくる。
私は、老夫婦と40歳ほどの男へ視線を向ける。
「違うんじゃ、これは何かの間違いなんじゃ」
老人が何かを言っているが、私は部下が持ってきた老夫婦の荷物を調べていく。
「エメラダ様、実はこの短剣を売ろうとした所で店の主人がおかしいと気が付き、我々に報告をしてきたのです」
「そうか……」
私は、部下から渡された短剣を手に取り鞘から抜く。
儀礼用の短剣。斬るには向いてはいないが、燃える石と呼ばれる赤い宝石が柄に埋め込まれている事から売ろうと思えば高く売れるであろう。
問題は、鍔の部分に我がイルスーカ侯爵家の家紋が彫られている事だ。
我がイルスーカ侯爵家の家紋が彫られている短剣を持つ者には、村や町の代官を任せてある。
その者が、家紋入りの短剣を売るという行為そのものが我がイルスーカ侯爵家と敵対するという証になるわけだが、目の前の老人はまだ気が付いていないようだ。
「さて、ご老人。名前は?」
私は、短剣の刀身を鞘に納めなら話をする。
「あ、アルフレッドじゃ」
私は短剣の柄に書かれているアライと暗号化された文字を読む。
「そうか、正直に話してくれずに非常に残念だ。アライ村長、私が一介の騎士だと思ったか?短剣に書かれている内容を理解できぬと思ったか?」
「なんじゃと?」
私は、兜を脱ぎ顔を見せる。
「そ、その髪に赤い瞳……エメラダ様……」
ようやく私の事に気が付いたのかアライは、項垂れてしまう。
私はすぐに兜を被る。
「さて、イルスーカ侯爵家に多大な損害を与えたアライよ。せめてもの温情として廃嫡で止め置かれ村長として封ぜられたと言うのに何故、このような場所にいる?アライ村はもっとも自然、収穫に恵まれた土地であったろうに……」
「そ、それが……ユウマに言われたんじゃ!ウラヌス十字軍数千の軍勢が村に向かってきていると。じゃからワシ等はその事を、伝えるために……「伝える為に?代官の証である儀礼用の短剣を売る必要があるのか?」……いや、それは……」
私は途中でアライの言葉をバッサリと切り捨てる。
「そうじゃ!旅費がなくてそれで仕方なく売ろうと!」
私は部下が持ってきておいた壺を開けて中を見る。
金貨がギッシリと詰まっている。少なく見ても6000枚は下らないはず。
「旅費がない?ここにあるではないか?それに辺境の村でどうしてここまで金貨が貯められた?貴様、収入をごまかして着服までしていたな?」
私の言葉にアライは顔を真っ青にしている。
「アライに、ユカ、アドルドは、イルスーカ侯爵家当主の沙汰があるまで、ここで暮らしてもらおう」
私の言葉に3人とも体を震わせている。
いくら、血の繋がった者と言えどこれは明らかな反逆罪だ。
こんな事を、許していたら統治に揺るぎが生じかねない。
極刑は免れないだろう。
3人は部下に連れていかれ取り調べ室から退出した。
「エメラダ様、先ほどのウラヌス十字軍の話ですが……」
私は部下の言葉に頷く。
「ああ、強ち嘘とも言い切れないのが困るな。一度、アライ村に出向いて現状を確認した方がいいのかもしれん。すぐに部隊の召集をかけてくれ」
「わかりました。30分もあれば用意が出来ると思います」
部下が取り調べ室から出ていった後に、私は一息つく。
あのアライと言うのが同じ血を引いてるとは思いたくはないが、お父様から以前に聞かされていた。
我がイルスーカ侯爵家で問題を起こして廃嫡された男の話を。
まさか、そのような男と話す時が来ようとは思ってもみなかったが……想像以上に酷い男であった。
「さてと……」
私は椅子から立ち上がり、詰め所を出る。
するとすでに20人近い部下達が用意を終えていた。
あとは号令を出すだけのようだ。
「いいか!今からアライ村の視察に向かうぞ!」
私の言葉に全員が頷くのを確認した後、馬に跨り移動を開始する。
すると部下の一人が近づいて話しかけてきた。
「エメラダ様、ウラヌス十字軍の話は伝えないのですか?」
「ああ、伝える必要はないだろう。どちらにせよ、ウラヌス十字軍の話を半分と聞いておくとして千を超える軍なのは変わりない。そんなのを数十騎の騎士が止め置く事など不可能だ。本当にウラヌス十字軍が攻めてきているのだとしたら、とっくにアライ村は地獄と化しているだろう。我々はそのまま見つからないように撤退するしか出来ない」
私の言葉に部下が唾を飲み込むのが分かる。
魔物が出ないイルスーカ侯爵領に、冒険者ギルドは存在しない。
冒険者ギルドが存在しないと言う事は、一時的に戦力を水増しする事ができない。
そして、王家に願い出て軍勢を集めるにも一か月以上はかかってしまう。
国軍が整うまで、平和が長く続いたイルスーカ侯爵領が単独で他国の軍と戦う。
それがどれだけ大変な事なのか部下は理解したのだろう。
「それに、アライにウラヌス十字軍が向かってきていると言ってきたユウマという人間にも興味がある」
私の言葉に部下が頷く。
「たしかにそうですね。あの夫婦の話によりますと向かってきていると報告を受けてから、あそこまで支度をして村を出る余裕があったととすると……。他国の間者か実力者の可能性があります」
私は部下の話を聞きながら馬をアライ村に向けて走らせる。
他領主の首都などは、魔物の襲撃が多い為に壁の内側に生活の場を作る必要がある。そのため、1万人も入ればいい方で大体が数千人規模の都市となっている。
アルネ王国王都は人口10万人を超えるが、王都を抜かすなら首都イルティアの人口が一領主の都市としては最も人口が多い。
その理由は、都市部を守る壁を作っておらず過去存在していた壁内は行政区画、その外には無尽蔵に広がる畑や建物が存在してるからだ。
イルスーカ侯爵領では15年もの長い期間、正者の森の魔物からの襲撃が無く、魔物の襲撃が無いから出来る発展であり、アライ村周辺の村々からも農作物が安定に供給されてきていることもあり、極めて治世は安定している。
そんな首都イルティアの騎士団詰め所は、旧外壁の箇所に作られており私は今、部下と共に北詰め所に向かっている。
数分で北詰め所に辿りつくと馬から降り、すぐに詰め所の中へと向かう。
「エメラダ様、お待ちしておりました」
部下が起立をして私に話しかけてくる。
「うむ。ごくろう、してそちらが?」
私の言葉に部下は『はい、こちらがその者になります』と答えてくる。
私は、老夫婦と40歳ほどの男へ視線を向ける。
「違うんじゃ、これは何かの間違いなんじゃ」
老人が何かを言っているが、私は部下が持ってきた老夫婦の荷物を調べていく。
「エメラダ様、実はこの短剣を売ろうとした所で店の主人がおかしいと気が付き、我々に報告をしてきたのです」
「そうか……」
私は、部下から渡された短剣を手に取り鞘から抜く。
儀礼用の短剣。斬るには向いてはいないが、燃える石と呼ばれる赤い宝石が柄に埋め込まれている事から売ろうと思えば高く売れるであろう。
問題は、鍔の部分に我がイルスーカ侯爵家の家紋が彫られている事だ。
我がイルスーカ侯爵家の家紋が彫られている短剣を持つ者には、村や町の代官を任せてある。
その者が、家紋入りの短剣を売るという行為そのものが我がイルスーカ侯爵家と敵対するという証になるわけだが、目の前の老人はまだ気が付いていないようだ。
「さて、ご老人。名前は?」
私は、短剣の刀身を鞘に納めなら話をする。
「あ、アルフレッドじゃ」
私は短剣の柄に書かれているアライと暗号化された文字を読む。
「そうか、正直に話してくれずに非常に残念だ。アライ村長、私が一介の騎士だと思ったか?短剣に書かれている内容を理解できぬと思ったか?」
「なんじゃと?」
私は、兜を脱ぎ顔を見せる。
「そ、その髪に赤い瞳……エメラダ様……」
ようやく私の事に気が付いたのかアライは、項垂れてしまう。
私はすぐに兜を被る。
「さて、イルスーカ侯爵家に多大な損害を与えたアライよ。せめてもの温情として廃嫡で止め置かれ村長として封ぜられたと言うのに何故、このような場所にいる?アライ村はもっとも自然、収穫に恵まれた土地であったろうに……」
「そ、それが……ユウマに言われたんじゃ!ウラヌス十字軍数千の軍勢が村に向かってきていると。じゃからワシ等はその事を、伝えるために……「伝える為に?代官の証である儀礼用の短剣を売る必要があるのか?」……いや、それは……」
私は途中でアライの言葉をバッサリと切り捨てる。
「そうじゃ!旅費がなくてそれで仕方なく売ろうと!」
私は部下が持ってきておいた壺を開けて中を見る。
金貨がギッシリと詰まっている。少なく見ても6000枚は下らないはず。
「旅費がない?ここにあるではないか?それに辺境の村でどうしてここまで金貨が貯められた?貴様、収入をごまかして着服までしていたな?」
私の言葉にアライは顔を真っ青にしている。
「アライに、ユカ、アドルドは、イルスーカ侯爵家当主の沙汰があるまで、ここで暮らしてもらおう」
私の言葉に3人とも体を震わせている。
いくら、血の繋がった者と言えどこれは明らかな反逆罪だ。
こんな事を、許していたら統治に揺るぎが生じかねない。
極刑は免れないだろう。
3人は部下に連れていかれ取り調べ室から退出した。
「エメラダ様、先ほどのウラヌス十字軍の話ですが……」
私は部下の言葉に頷く。
「ああ、強ち嘘とも言い切れないのが困るな。一度、アライ村に出向いて現状を確認した方がいいのかもしれん。すぐに部隊の召集をかけてくれ」
「わかりました。30分もあれば用意が出来ると思います」
部下が取り調べ室から出ていった後に、私は一息つく。
あのアライと言うのが同じ血を引いてるとは思いたくはないが、お父様から以前に聞かされていた。
我がイルスーカ侯爵家で問題を起こして廃嫡された男の話を。
まさか、そのような男と話す時が来ようとは思ってもみなかったが……想像以上に酷い男であった。
「さてと……」
私は椅子から立ち上がり、詰め所を出る。
するとすでに20人近い部下達が用意を終えていた。
あとは号令を出すだけのようだ。
「いいか!今からアライ村の視察に向かうぞ!」
私の言葉に全員が頷くのを確認した後、馬に跨り移動を開始する。
すると部下の一人が近づいて話しかけてきた。
「エメラダ様、ウラヌス十字軍の話は伝えないのですか?」
「ああ、伝える必要はないだろう。どちらにせよ、ウラヌス十字軍の話を半分と聞いておくとして千を超える軍なのは変わりない。そんなのを数十騎の騎士が止め置く事など不可能だ。本当にウラヌス十字軍が攻めてきているのだとしたら、とっくにアライ村は地獄と化しているだろう。我々はそのまま見つからないように撤退するしか出来ない」
私の言葉に部下が唾を飲み込むのが分かる。
魔物が出ないイルスーカ侯爵領に、冒険者ギルドは存在しない。
冒険者ギルドが存在しないと言う事は、一時的に戦力を水増しする事ができない。
そして、王家に願い出て軍勢を集めるにも一か月以上はかかってしまう。
国軍が整うまで、平和が長く続いたイルスーカ侯爵領が単独で他国の軍と戦う。
それがどれだけ大変な事なのか部下は理解したのだろう。
「それに、アライにウラヌス十字軍が向かってきていると言ってきたユウマという人間にも興味がある」
私の言葉に部下が頷く。
「たしかにそうですね。あの夫婦の話によりますと向かってきていると報告を受けてから、あそこまで支度をして村を出る余裕があったととすると……。他国の間者か実力者の可能性があります」
私は部下の話を聞きながら馬をアライ村に向けて走らせる。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
75
-
-
141
-
-
440
-
-
147
-
-
381
-
-
841
-
-
29
-
-
59
-
-
63
コメント