【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

イルスーカ侯爵令嬢エメラダの恋事情(後編)

 私の言葉を聞いてユウマは思案顔を見せたあとに、『そうなんですか?』と聞いてきた。
 ――そうだ。と私が頷くとユウマは村の内堀に視線を向けたあとに突然、口から血を吐きだした。
 支えていたユウマの体が、ゆっくりと地面に倒れた。

 一体、何が起きている?
 頭の中が突然の事で混乱してしまい、現状をうまく理解できない。

「エメラダ様、これは恐らく魔力反衝です」
 部下の一人が私に症状をつげてくる。
 魔力反衝……たしか使用しようとしていた魔力量が体内の保有魔力量より多かった場合に体内の器官を傷つける事がある症状。
 血を吐いたということは……。

「ユウマ!ユウマ!しっかりしろ!!」
 ユウマに語りかけるが反応がない。
 これでは、満足に魔力を譲渡することもできない。
 私の魔力量は微々たる物だが、それでも力を振り絞れば……。

「お前たち、一度、村の様子を見てこい!」
 私の言葉に団員達は一斉のその場から離れていく。その際に部下の一人が頑張ってくださいと言ってきたが余計なお世話と言うものだ。

 魔法の才能がない者が、魔力が枯渇してる者に魔力を譲歩する際に必要な手順はいくつか存在するが、もっとも重要なのは粘膜接触になる。
 接吻でいいと授業で習った事があるが、まさか……私が……。

「何を悩んでいる!これは救助だ。私がきちんと説明しなかったから起きた事なのだ。決してヤマシイ気持なんてない!うん、そうだ!」
 倒れているユウマを抱き上げようとしたところで、接吻をする上で鎧が邪魔な事に気がつく。たしか授業では、貴金属は魔力の譲渡を妨げる恐れがあると言っていた気がするな……。

 鎧を脱ぎ、兜を脱ぎユウマの頭を膝の上に乗せてサラサラした黒髪を撫でながら、接吻をしようとするけど、あと10センチと言うところでとまってしまう。

 普段は、物事を効率よく進めてきたのに、こんなことで躊躇してしまうなんて……。

「仕方ありません。こうなったら……」
 先人も言ってたではありませんか!女は度胸だと……。
 ドクドクドクドクと高鳴る心臓を無理やり抑えつけながらユウマさんの顔に私の顔を近づける。
 唇接触まであと数センチで顔をあげてしまった。

「無理無理無理、こんなの無理です!だって……殿方と接吻するなんて……」
 私が悩んでる間にもユウマの容体はどんどん悪化していく。

「……ううう……やるしかないんですよね?」
 もう、ユウマさん。きちんと責任とって下さいね。
 私がきちんと説明しなかったからこんな事になっているのに、どうしても心の中で相手を悪く言ってしまう。そう言わないと踏ん切りがつかない。
 私は、本当に嫌な女です。
 ごめんなさいね、ユウマさん。
 私は自分の長い髪を右手で抑えながら、ユウマさんの唇に接吻をする。

 「んっ……んんっ!?ん、はぁ……。」
 すごい、接吻ってすごい……茫然としたまま自分の唇に指をあててしまう。
 ドキドキが止まらない、自然を頬が熱をもってしまう。
 落ち着いて、落ち着くのよエメラダ。これは救助活動なの。だから接吻はしてもノーカン、ノーカンなの。必死に自分に言い訳をしながら、何度も繰り返し接吻をしては唾液と一緒にユウマさんの体に私の魔力を注ぐ。
 私の魔力をユウマさんの体が受け止めて、ユウマさんの唾液が私の体に入り込んでくる。
 水音がその場に鳴り響き、意識を失ったユウマさんの体調が良くなったのを確認出来たころには日はすっかり沈んでた。
 結局、部下はだれも帰って戻ってこなかった。
 しかたありません。今日は、仕事の怠慢だと扱かずにおいてあげましょう。

 膝の上で、頭を少し動かしたあとにユウマさんは目を覚ました。

「起きられたのですね?良かったですわ」
 私は、ユウマさんの額の上に置いて熱を測る、
 とくに問題はないみたい。
 しばらくすると、ユウマさんが寝返りをしてきた。

 寝返りを打たれた事で思わず、怒ってしまったけど、まだ目を覚ましたばかりで意識がはっきりしていないのに、私ときたら……もう、こんなんじゃ嫌われてしまいます。
 するとユウマさんが私の胸を揉んできて『なんだ、これは?』と独り言を呟いていてきた。私は頭の中がフリーズしてしまい意味不明な言葉を呟いていた。

 私は両手で自分の胸を隠しながら、苦情を言うとユウマさんが謝罪してきた。
 うう……胸を揉まれた。でも、今回の事は私にも、問題があったので……。

「胸のことは、緊急でしたから今回は不問にしてさしあげます。それよりもお体の方が如何ですか?」
 とお話をするをすることにした。

「……はい、まだ体に力はほとんど入りませんが大丈夫みたいです」
 ユウマさんは私の言葉に頷きながら言葉を返してきてくれた。

「――そうですか!それはよかったです」
 本当によかった。
 ユウマさんが倒れた時、私は本当に驚いたんですからね。

「それよりもさっきのアレは駄目ですよ?自身の持つ魔力以上の魔力を行使するのは命を削る行為なのです。ですからああいう時は少しづつ止めていかないと駄目です。魔法師育成学校でもそのくらいは習うでしょう?基本ですよ!基本!」
 ユウマさんは本当にアンバランスな方です。
 魔法はすごいのに、基礎が出来ていないというかそんな感じを受けます。

「ということはエメラダ様が俺を助けてくれたんですか?」

「ええ、そうですわよ。本当に気をつけてくださいね」
 私は照れながら彼の言葉に頷きながら答える。

「ありがとうございます。エメラダ様に回復の魔法を使わせてしまって申し訳ありません」
 回復魔法ではないんですけどね。
 ええっと、接吻……経口接触になるわけですけど……顔が真っ赤になるのが自分で分かってしまう。何時間も接吻をしていたから……。
 あーもう!顔をまともに見れないです。

「――え、ええええええええと。そ、そうね……今度からは、気をつけないと駄目ですわよ?」
 言葉使いがめちゃくちゃです。
 自分でも分かるくら動揺してます。心臓の鼓動がダンスを踊ってるかのよう。
「はい!本当にありがとうございます。つかぬ事をお伺いしますが……」

「なんですの?」

「俺みたいな症状の人はどうやって回復させたのですか?」

「――そんな事言える訳ありませんのー!」
 私はつい床で寝そべっていたユウマさんの頭を踏んでしまっていた。

 ――ああ……やってしまった。

私は、ユウマさんに文句を言われる前に、土の上に置いておいた鎧や兜にレイピアを両手で抱えて部下達が建てたテントに走って向かった。
テントの中に入ると誰もが私の姿を見て驚いている。
いつも遠征の時、訓練の時、仕事の時どんな時でも鎧を外すことはない。

「それで、あの青年とは上手くいったんですか?」
 部下の言葉に私は先ほど、ユウマさんを踏んでしまった事を思い出し、一気に落胆してしまう。

「もう……」

「もう?」
 私の言葉のあとに部下が疑問を呈してくる。

「もう、おしまいですー。きっと嫌われました!うあああああああん」
 その日の夜は、部下が用意してくれた果実酒を飲んで、マントを羽織って寝た。
 明日からどんな顔をして、ユウマさんに会えばいいのか分からないです。

 私は本当に肝心な時には何もできない意気地なしです……。



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