【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

エルフとの交渉(後編)

「だが、もしその降伏が嘘だった場合には、どうなるか分かってるだろうな?」
「はい……」

 サマラは、俺の問いかけに含みのある答えを返してきた。
 すぐにリネラスを追おうと俺は【探索】の魔法を発動させる。
 すると リネラスと思われる緑色の光点は、しばらく移動をしていたが移動が止まってからは動いていない。
 そしてリネラスのいる付近には、10個の灰色の光点が表示されている。
 リネラスの光点自体に移動が見られないと言う事は、灰色の光点とリネラスは知り合いか何かの可能性が高い。
 俺はそこで一息つく。

「おい、サマラ」
「何か御用でしょうか?」
「ああ、そうだな……」

 俺は自分が殴ったマルタという女エルフと、大樹に張り付けにあっている女エルフへ視線を向ける。
 二人とも死んではいないがかなりの重症な事は一目でわかる。
 自分で自覚してないだけで思ったよりも俺は強くなってしまったようだ。
 今度からは【身体強化】の魔法は使わない方がいいかもしれないな。

「まずは2人の治療を優先しよう」

 俺が提案すると、エルフ達も自分たちの仲間が死ぬのは嫌なのかすぐにボロボロな姿になったエルフを連れてきた。エルフは、仲間を連れてくると「お待たせしました」と、俺の前の地面に寝かせていく。
 大樹に張り付けにあったエルフは両手両足も胴体も酷い事になっていた。
 すぐに【肉体修復】の魔法で直した後、マルタと言う女性の体も魔法で治す。

「はぁ……」

 俺は溜息をつきながらエルフ達の方へ視線を向ける。
 するとエルフ達は、俺を見ながら先ほどまでの怯えとは違う目で見上げてきている。

「もしかして聖人様なのですか?」

 サマラから聞きなれない言葉を聞いて首を傾げていると、セイレスが俺とエルフ達の間に割って入ってくると黒板をエルフ達に見せていた。
 その黒板の内容は俺からは見れないが黒板を見たエルフ達は一斉に表情を青くして何度も頷いている。

 エルフ達の様子を何度か見たあと、セイレスが振り向いて黒板に文字を書くと俺に見せてきた。
 そこには、「ユウマさん、交渉は終わりましたのでリネラスを追い掛けてください」と書かれている。

 エルフ達の方へ視線を向けると体を震わせて俺から視線を反らしてきた。
 セイレスがどうやら説得をしてくれたようだな。

「セイレス、俺はリネラスを追う。後は任せたぞ」

 俺は、セイレスが頷くのを確認したあと、【探索】の魔法で場所を確認しておいたリネラスのがいる方角へと向かう。
 リネラスは、先ほどから移動せずに止まっている。

 エルフガーデンの森の中を走っていると、突然に視界が開けた。
 そこには、どこかで見た記憶がある石作りのしっかりとした作りの建物が存在していた。
 俺は建物の細部まで確認していきようやく気が付く。

「ああ、フェンデリカの冒険者ギルド支部と同じ作りをしているのか」

 俺は一人呟きながら建物に近づく。
 建物は、少し風化しているが綺麗に清掃されている。 
 ただ気になるのが、どうしてこんな辺鄙な場所に冒険者ギルドの支店があるのかだ。
 そこだけが不思議でならない。

「とりあえず入ってみるか?」

 冒険者ギルドと思われる建物入り口まで近づき扉を開けようした所で、扉が内側から開くと中から4歳から9歳くらいの子供達が10人ほど出てくると興味津津な瞳で俺を見上げてきた。

「お兄ちゃん誰?」

 子供達が俺に話しかけてくる。
 俺は【探索】の魔法で確認した灰色の光点が子供達だと確認しつつ建物内にリネラスの緑色の光点と、もうひとつ灰色の光点があるのを確認する。

「俺は、ユウマと言うんだ。リネラスはいるか?」

「リネラスお姉ちゃんは、建物の中にいるよ!」と、子供達は言ってくると元気よく森の方へと走り去ってしまった。
 子供達の言葉には気になった内容があった。
 リネラスの事をお姉ちゃんと言っていた事だ。
 10人以上も兄妹を持ってるような印象をリネラスからは受けなかったのだが、色々と事情があるのかもしれないな。

「えーと、あなたが娘から聞いていたユウマさんかしら?」

 考え込んでいると声をかけられた。
 視線を向けると、そこにはリネラスを少し大人にしたような金髪の美女が経っており、手には籠をもっていて中には洗濯物が入っていた。

「……えっと、そ、そうです。ユウマですが……貴女は?」

 俺の言葉に女性は首を傾げて笑いかけてくる。
 その仕草は、とても可愛い。
 いやいや……まて、落ちつけ。
 さっき、目の前の女性は娘と言っていた。
 それはリネラスの事ではないのか?

「あの……娘というのはリネラスの事ですよね?」
「ええ、そうよ。でも呼び捨てにするという事はそういう関係なのかしら?」
「いえ、想像してるような関係ではないと思いますが……」

 俺は女性の言葉に曖昧にこたえる。
 すると女性は、木の枝で編まれた洗濯籠をもったまま俺の周囲を回ると「ふーん、すごい魔力ね。これなら問題ないと思うけど、どうなのかしら?」と一人呟いている。

「まぁいいわ。娘の話とは少しちがうみたいだし」
「はあ……? それよりも貴女はリネラスのお母さんでいいんでしょうか?」

 俺の言葉に女性は、はっとした表情を見せてくる。
 その表情は、とてもリネラスの母親とは思えないほど若々しく愛くるしい。

「まだ名乗っていなかったわね。私はリンスタットと言うの。娘のリネラスがいつもお世話になっているわね。それと、ここは私と子供達の家。家と言っても元冒険者ギルド、エルフガーデン支部よ。今は、ここに私達は住んでいるのよ」




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