【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

月夜の朝焼け(後編)

 リネラスの細い腕を掴んだまま、しばらく向かいあっていると「ユウマは、お母さんが好きなの?」と、リリナが唐突に話を振ってきた。
 俺はリリナの言葉に、リンスタットさんとの関係性を間違いなく誤解している事に気がつく。

「いや、まったく! そんな気はない!」

 俺とリリナの母親であるリンスタットさんとの間にはそんな感情は一切ないし、リンスタットさんだって、性欲が抑えられないのは若いエルフだけだと言っていた。
 つまり、俺とリンスタットさんの間には、男女関係のようなものは一切存在しない。

「うそ! ならどうして朝帰りしたの!?」
「いや……疲れてるからって膝枕してもらったらそのまま寝てしまって……」 

 俺の言葉を聞いたリネラスは、いまだに不信感のあるような表情で俺を見てきている。
 その表情から察するに、きちんと説明しないと理解が得られないのは容易に察しがつく。 
 溜息をつきつつ、リネラスの目を見ながら俺は。

「実は、昨日の夜にお前の母親が俺のところに訪ねてきたんだ。で、お前の事や冒険者ギルドのエルフガーデン支部に子供たちがたくさん居た理由。そしてエルフガーデン特有のエロフの特性などの説明を受けていたんだ」
「……私の事をお母さんから?」
「ああ……」

 俺の言葉を聞いたリネラスの表情は曇り「それなら私が魔法を使えない理由も? エルフとして欠陥品であるということも全部聞いたの?」と尋ねてくる。俺は頷きながら「ああ、全部聞いた」と、打ち明けた。

「それじゃ、ユウマはお母さんとは本当に何もなかったの?」
「ああ、何もない。俺がお前に嘘をついたことがあったか?」
「……」

 リネラスが俺の事を不信感ありありな目で見てくる。

「おい! お前、どうしてそこで俺が嘘をついてるような目で見てくるんだ?」
「――え? ユウマは自分の胸い手を当てて考えた方がいいと思うけど……でも、本当にお母さんとは何もなかったの?」
「ああ、何もない。だいたい、俺が女にモテるような男に見えるか? まったく……」

 俺の言葉を聞いたリネラスは大きくため息をつくと。

「あーあ……もう、私ったらバカみたい……昨日の夜にユウマのところに――」
「俺のところに?」

 聞き返したところでリネラスは口を閉じてから顔を真っ赤にして、「何でもない! この鈍感!」と、叫んできたが意味が分からない。
 まったく、泣いたり怒ったりとせわしない奴だ。

「ほら、とりあえず瞼が腫れてるんだから、少し冷やさないとな……タオルが何かあるか?」
「うん……」

 リネラスは、緑色のスカートのポケットから可愛らしく刺繍されたハンカチを取り出して俺に手渡したきた。
 俺は、ハンカチを受け取る。
 そして、魔法で大気中の原子構成を組み替えてから酸素原子と水素原子を結合させに水を作りだしてハンカチに染み込ませ絞ってからリネラスに渡す。

「ユウマの魔法って、本当に良くわからないね。普通だと、どんな魔法を使うときも空中か地面への魔法陣の展開と詠唱が必要なのに……」

 半分ほどリネラスは呆れた声色で俺に語りかけてくる。
 俺はリネラスの言葉に頷きながら「まあ、一応は魔王を自称しているからな!」と、だけ告げると、「魔王ってバカみたい」と、リネラスはようやく苦笑いしながらも笑顔を見せてきた。

「さて、これで少しは落ち着いて話ができるな?」

 リネラスを追いかけてきていたら、【移動式冒険者ギルド宿屋】から少しばかり距離が離れた森の中に来てしまった。
 これなら、他の奴らにも聞かれる事もないだろう。

「まず、リネラスが朝帰りした俺に対して、どうして激怒してリンスタットさんに詰め寄ったのか? という疑問点からなのだが……」
「――!?」

 俺の言葉を聞いたリネラスの顔が真っ赤に染まっていく。
 それは比喩でなく耳まで真っ赤だ。

「いいの! 別にいいの! ユウマが気にすることはないの!」
「いや、そうは行かないだろ? リネラスだって実の母親に言い寄るほどの事だったわけだからな。ここはきちんとしておいた方がいいだろ? 今後、エルフガーデンで暮らしていく上でも、そういう事は蔑ろにしておいたら後々問題になるかもしれないし」

 リネラスは顔を真っ赤に染めたまま、何度か口を開いて何かを言おうとしているが言葉にならないらしい。
 やはり2人きりになっても言えない内容らしいな。
 どうしたものか……。

「うう……そ、それは……」
「それは?」
「す……だからよ」
「――? よく聞こえなかったんだが?」

 歯ぎしりをしたリネラスが俺を睨んでくる。

「ギルドマスターだからよ! ギルドメンバーがどこに行ってたか把握してないなんて冒険者ギルドマスターとして失格だからよ!」
「いや、それはおかしい。だってリネラスは母親につめよ――な、なんでもないです」

 何故か知らないがリネラスは親の仇を見るような眼差しで俺を睨んできた。
 俺のアライ村での15年もの人生経験から、これ以上質問するようならどうなるか分かってるだろうな? という眼をした女性を問い詰めると決まって最後には俺が殴られる事になるのは、リリナで証明されている。
 もうここは話の内容を変更した方がいいだろう。

「ところで、これからの俺たちの立ち周りだがどうするんだ?」
「……そうね……ユウマはエルフの事は、どこまでお母さんに聞いたの?」



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コメント

  • ノベルバユーザー322977

    やっとコメが現れた!

    0
  • ノベルバユーザー218610

    何となく作者は冴えカノが好きな気がした(リリナ)

    1
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