【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

エルフガーデン(3)

 リネラスの言葉に、イノンとユリカが俺を見てきた。
 ただ俺としては、ウラヌス十字軍と戦ってるだけであって、相手が特に絡んでこない限りはこちらから手を出すつもりもない。
 だいたい、俺が戦争に参加した時点で戦力の傾きは決定的になる。
 そんな事態になるのに俺が関わるのは良くはない。

「前から言っているが、他国の問題に俺が関わることはない。その上で、これからの問題について話し合いをしたいと思う」

 俺の言葉に「そうですか……」とユリカとイノンが、俯いて答えてくる。
 少し空気がしんみりとしたところで、テーブルの上に人数分の木のコップに入った白湯が置かれ「少し休憩にしましょう。煮詰めても仕方ないと思うしからね」と、リンスタットさんが語りかけてきた。
 俺たちは、少し間を取るために互いに顔を見た後に飲み物に口を付ける。
 その水は、味もそっけもない物で――。

「これは、魔法で出した水ですか?」
「そうよ、エルフは精霊眼があるから魔法を簡単に扱う事ができるのよ?」
「なるほど……少し魔法を見せてもらっても?」
「ええ、いいわよ」

 リンスタットさんはコップに向けて、「水の精霊よ、命の雫をここに有れ」と、語っている。すると空中に水が生成されるとコップの中に落ちていった。

「魔法陣も触媒も必要ないのか」
「そうね。人間が使う魔法には魔法陣と触媒が必要だものね」

 リンスタットさんが、俺の言葉に頷きながら相槌を打ってくる。

「それで、ユウマはどうするの?」 

 俺とリンスタットさんが話していると、リネラスが話しかけてきた。

「そうだな……とりあえずは……」
「とりあえずは?」
「しばらく様子見だな。俺たちも特に急いでる訳でもないからな」

 俺の言葉を聞いたリネラスが「エルフガーデンの族長からの対談はどうするの?」と、質問してくるが、それは別に待たせておけばいいだろう。支援を受けるなら早急に会う必要性が出てくるが、こちらの状況を相手に知らしめてまで支援を受けるというか取引をする必要性も感じないからな。
 だからこそ、今後の食糧やそれに類する物資をどこで集めるかが重要になってくる。
 俺一人だけなら山に籠って、魔物や動物を狩って捌いて焼いて食べてれば生きていけるのだが、セレンや他の女性陣もいるからな。
 そう考えると、普通の食料品の安定供給は必須条件だろう。

「とりあえず、エルフガーデンを周辺の町や村がどう思っているのかの情報収集が必要だな」
「――え? で、でも……」

 リンスタットさんらしくない歯切れの悪い戸惑った口調で俺に語りかけてくる。そんなリンスタットさんと同じくしてリネラスも何やら言いたい事があるらしく口を開けたり閉じたりしている。

「何か問題があるのか?」
「問題というか問題だけしかないと思うよ?」

 俺の質問に答えてきたのはリネラスでもリンスタットさんでもなく、ユリカであった。

「問題だけしかない?」
「うん、だってエルフっていろいろと性的にアレだから。男エルフもいないし、奴隷とか購入して子孫を残したりしてるから、あまりいい印象がエルフガーデン付近の街や村にはないはずだよ?」
「まじか?」

 俺はリネラスの方を見て、セイレスの方を見て、リンスタットさんの方を見る。
 3人とも頷いていることから、ユリカが言ったことは本当の事だということが分かる。

「リンスタットさん、もしかしてエルフガーデンのエルフは……結構恨まれていたり?」

 俺の言葉にリンスタットさんは頷きながら「……はい、ですので外部から来る方には過剰な反応をしてしまうエルフが多いのです」と、答えてきた。
 自業自得とはいえ、エルフガーデンにもいくつか問題があるな。
 もしかして、エルフガーデンに来たのは早計だったか……。

 

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