【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

エルフガーデン(4)

「しかし、他種族から疎まれている状態はきびしいな」

 俺は思考しながら一人呟く。

「ならどうするの?」

 俺の言葉を聞いていたリネラスが問いかけてくる。

「どうすると言われてもな……生活をしていく以上、物資の買い出しは必要だろう。だが問題は、他種族から疎まれているエルフガーデンのエルフと仲良くしておくのも対外的に考えるとあまり良くはないんじゃないのか? いっそのこと、エルフガーデンの外部エルブンガスト付近に腰を据えて活動した方がいいような気もするな」
「だけど、生活に必要な物資はどうするの? エルフガーデンのエルフと取引をしないと大変だと思うけど……」
「別に問題はないだろう? リンスタットさんやリンスタットさんが面倒を見ている子供達も、こんな辺鄙なところで暮らしているのだから俺達が暮らせないわけがないだろ?」

 俺はリネラスの問いかけに答えたあとにリンスタットさんを見る。

 するとリンスタットさんが「ユウマさん、私達は一応、表沙汰にはされてはいないけどエルフガーデンのエルフ達から少し支援を受けているの。さすがに生んだ子供を、捨てる事はあっても罪悪感はあるみたいで……」と、話しかけてきた。

「あ、そうなんですか……」
「ごめんなさいね。言いにくくて……」

 リンスタットさんは申し訳なさそうに呟いてくるが、俺が勘違いしていただけでリンスタットさんは悪くはない。

「いや、俺が勘違いしていただけですし、気にしないでください」

 どうも、俺はリンスタットさんには強く物が言えない。
 と、とにかく……リンスタットと子供達は完全に自給自足をしているわけではないということだ。

「コホン! とりあえずだ。イノン、俺達の食糧はどのくらい残っている?」
「そうですね。あと3日分ほどというところでしょうか?」

 3日分か――思ったよりも少ないな……。

「香辛料の類とかは大丈夫か?」
「塩が残り少ないです」
「そ、そうか……」

 思ったより物資が切羽詰まっているな。
 そういえば、海の港町カレイドスコープから一か月間、どこの町や村にも立ち寄ってないからな。
 そう考えると物資が不足してしまうのも仕方ないな。

「おにいちゃん!」
「ん? セレン。どうかしたのか?」

 元気よく手を挙げてくるセレンを見る。

「えっと、コレ!」

 セレンは、セイレスが首から掛けている小さな黒板を俺に見せてきた。
 そこには白いチョークで「エルフガーデンのエルフは、手を出してこないと思いますので、町へ行かれたらいかがですか?」と、書かれておりセイレスの方を見ても微笑んでいる。

「はぁ……なら、一度買い物にいくか?」

 「わーい!」と、セレンが両手を上げて喜んでいる。
 まぁ、一か月近く、馬車で移動していたからな。
 まだ子供のセレンが喜ぶのも仕方ないと言えば仕方ないか……。

「それじゃ明日、町に買い出しに向かおうとしよう。リンスタットさん、エルフガーデンの近くで商品の買い出しが出来るような規模の村や町はありますか?」
「あるわよ、レグラントの町になるわね。エルブンガストの渓谷を超えて南西に3時間ほど向かった場所かしら」
「なるほど……それじゃセレン。明日にレグラントの町に向かおう」
「うん!」

 セレンは元気よく頷いてきた。
 さて……あとは……。

「リンスタットさん、明日にエリンフィートに会いにいくという約束をしたのですが、明日、迎えに来ると思うので、数日待っていただけるように伝えて頂けますか?」
「え? 嫌よ。だって娘が帰ってきたんですもの。たまには私も町に行きたいわ
「ええー……お母さん!? それじゃ妹や弟たちの世話は?」

 リネラスの抗議にリンスタットさんは、ニコリと微笑むと、「たまには英気を養わないといけないからね」と、お茶目に語っているが、その後に俺に目線を向けてくるのはやめてほしい。
 そういう意味ありげな目線を向けられると、リネラスだけじゃなくてセイレスやイノンからもキツメの目で見られるからやめてほしい。

「――と、とにかくだ。明日の午前中に、帆馬車でレグラントの町に買い出しに向かうから行きたい奴は決めておいてくれ」




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