【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

エルフガーデン(10)

「――お前が、エルフ達の族長なのか?」

 俺は、目の前に座っている緑色の髪をした耳の長い美少女を見ながら言葉を紡ぐ。
 目の前の美少女は、どう見積もっても12歳かそこらにしか見えない。
 そんなのが、族長とは些か信じられなかったりするのだが……。

「そうです」

 俺の問いかけに目の前の少女は答えてくる。
 どうも俺には理解ができない。
 基本、族長ってのは部族の指導者である。
 そのためには豊富な経験が必要だ。
 その経験が、この少女にあるとはとても思えないんだが……。

「私は1000年以上生きております。ですから、疑いの眼差しを向けるのはやめてほしいのですが?」

 エリンフィートと名乗った美少女は俺を真っ直ぐ見つめながら、こちらが思っていた事に対しての答えを提示してきた。
 1000年以上生きてると言うのは些か理解というか度を超えている。
 ただ、相手が嘘をついてるようには見えない。
 まあ、どちらにせよ、相手が名乗ったのだ。
 こちらも名乗らないと問題だろう。

「俺は、ユウマという名前だ。一応、冒険者ギルドに登録している。職業は魔法師といったところだな」

 俺の言葉にエリンフィートは、微笑みかけてくると。

「はい、聞き及んでおります。それに代々、巨大な魔力を持つ聖人様はこの地を通り大陸を巡礼をしていくのが過去からの定めですので……」

 巨大な魔力ね……。
 たしかに俺は、人とは違う魔法行使を行う事ができるが……。
 それが巨大な魔力と繋がりがあるかどうかと聞かれれば、あるんだろうな。
 リンスタットさんも同じ様な事を言っていたし。

「大陸を巡礼?」
「はい」

 俺の問いかけに即答でエリンフィートは頷いてきた。
 そして、巡礼という言葉に思わず――めんどくせーという考えが浮かんでくる。
 するとエリンフィートは立ち上がり俺の両手を触ってくると端正な眉根を寄せて俺の目を見てきた。

「あの……ユウマ様。エルフ達より魔法が使えると聞いておりましたが――」
「ああ、使えるな」
「えっと……すると、エルフガーデンの外に出ているエルフに祝福を受けたのですか?」
「いいや、受けてないな」

 問いかけに答えるとエリンフィートの顔色が陰り「え? ――聖人様は、エルフの祝福を受けないと土地神からの力を受けられず魔法が使えないはず――」と呟いている。

「まぁ、もしかしたら俺が普通の聖人で無いという可能性もあるからな。それに、そもそも俺とか魔王だし!」
「ま、魔王!?」

 エリンフィートは、頭を傾げて俺を見てくる。
 どうやら、エルフの族長は魔王という言葉を知らないようだな。
 まあ、知らなければ知らないで別にいいが……。

「つまりだな……」
「ユウマ様は、すでに魔法が使える。つまり、すでに聖人として覚醒していると?」
「いや、俺は他人の為に動きたいとか全然思ってないからな。聖人からは程遠いと思うぞ? それに聖人という存在が、どんな存在かすら知らないからな。念のため聖人は何が出来るか教えてくれるか?」

 俺の言葉に、エリンフィートの緑色の瞳が僅かに揺れ動く。
 聖人という存在がどういうものかを教えていいのか考えてるような節が見られる。
 エリンフィートは、しばらく考えたあと。

「わかりました。説明させていただきます。まず、聖人様は回復魔法が得意です」

 ふむ。――たしかに回復魔法は得意だな。
 俺の回復魔法というか、肉体細胞蘇生の無理やり回復させる魔法はかなりの物だし。
 さらにエリンフィートの語りは続く。

「次に品行方正で、誰にでもやさしく戦いを望まない方です」

 男女平等ってことでいいのか? それなら女でも殴れるユウマさんだからな。
 品性公平だな。それに、相手がきちんと接してくればやさしくするし戦いは俺からはあまり仕掛けないからな。

 そう考えると、俺ってかなり男女平等だな!

「次に攻撃魔法が苦手ですが、仲間を作る才能があるそうです」

 ふむ……。
 仲間を作る才能は、よくちびっこ共にお菓子を上げた時には、ユウマさんユウマさんと尊敬されていたな。
 どうやら聞けば聞くほど、俺は聖人ぽいな! 

「それと聖人がいる土地は、豊かに実り魔物からの襲撃も受けなくなります」

 そんな事をウカル司祭様が言っいた気がするな。

「最後には巡礼の旅をして世界を救うと言われています」

 旅はしているが、ウラヌス十字軍の目を妹から逸らせるためだからな。
 世界を救うかどうかは、知らんな。

「どうですか? ユウマ様――聖人様というのは、どのような方か分かりましたか?」

 俺はエリンフィートの言葉に力強く頷く。

「ああ、まるで俺みたいな奴の事だな! むしろ俺こそが魔王にして聖人で間違いないと思う!」
「ええー……」

 エリンフィートは、嫌そうに叫んでいる。

 さて、エリンフィートが言っていた巡礼の旅をして世界を救うかどうかといった話だが…………そんなメンドクサイ事を俺がするはずがないだろうに。
 そんな、問題は勇者とかそういう存在にやらせておけば……そういえば、ウラヌス十字軍にユークラトスという勇者がいたな。
 あいつも一応、敵だからな……。
 そう考えてしまうと、勇者に世界を救ってもらうのも問題があるか?
 まったく困ったものだな。

 まぁとにかくだ。
 目の前の、エルフガーデンに住まうエルフ達の長老は、俺が聖人だと思って接触してきたと思って間違いないな。

「エリンフィート、俺を呼んだのは魔力が強い俺を聖人だと思って呼び寄せたという理由で間違いないか?」
「はい、一部そうです」
「一部?」

 俺はエリンフィートの言葉を聞きながら首を傾げる。

「実はお願いがありまして――」
「お願いがあるなら、冒険者ギルドを通してくれないか? 冒険者ギルドの規約で勝手に受けると色々と問題があるらしいからな」
「そ、そうですか……」

 エリンフィートは、一瞬だけ苦虫を潰した表情をすると俺に見られていたことに気が付いたのか、すぐに表情に笑みを浮かべて俺を見てきた。

「それではお話だけでも……」
「まぁ、受けるかどうかは別でいいなら話くらいは聞いてもいいが――」
「ありがとうございます。実は、エルフ特有の病についてなのですが――その病から村を救っては頂けませんか?」

 ふむ、病か……。俺も病だけは、どうにもできないからな。
 ――っていうか、俺が病にかかったら大変だな。
 さっさと、エルフの村を見捨てて別の町に向かってもいいかもしれないな。



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