【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

エルフガーデン(15)

「【樹上の妖精庭園エルフガーデン】か……」

 俺はサマラの言葉を復唱しながらあとをついていく。
 樹上同士を繋いでいる木と鶴で作られた道を歩いていくと思ったよりしっかりとした作りになっていることに気が付く。

「まったく揺れないな……」
「はい。私達エルフガーデンに住まうエルフは、木や草花と言ったエルフに馴染みのある植物から力を借りる魔法に長けていますから――」
「なるほどな……」 
「はい! ユウマさんは、どんな魔法が得意なんですか?」
「どんな魔法と言われてもな……」

 何と説明していいか困ってしまう。
 俺の魔法は、物理現象を頭の中で構築して漢字を思い浮かべる事で発動させる魔法だ。
 普通の魔法師が使う魔法は、魔法陣、詠唱、発動言語が必要になる。
 そしてエルフを見てる限り、魔法を使う際には言葉だけで発動してるように見えた。

「そうだな、俺の魔法は物理現象に沿った魔法だな」
「物理現象に沿った魔法ですか?」

 サマラの言葉に俺は頷く。
 ただ、詳細を説明するのは止めておく。
 こちらの弱点を無闇に教えるのは得策ではないから。

 しばらく歩いていると、樹上の上に存在している建物の中でも一際高い建物が見えてきて――。

「ユウマさん、こちらは展望台です」
「展望台か……」

 俺の言葉にサマラは元気よく「はい!」と、答えてくると俺の腕を掴んできた。

「それではユウマさん、上りましょう?」
「やれやれ――仕方ないな……」

 サマラに腕を引かれるようにして木材だけで作られている螺旋状の階段を上っていく。

「おおっ――かなり見晴がいいな」

 塔自体の高さは10メートルほどだが、遮るモノがない樹上の上は遠くまで見える。

 風景は緑一面、海の上に町が存在してるように見えて、夕日の光を反射して、とても神秘的に見えた。

「ユウマさん……」
「――ん?」

 語りかけてきたサマラは、頬を赤らめていて。

「どうしたんだ? 風でも引いたのか?」

 俺はサマラの額に手を当てる。
 ふむ……。特に熱はないようだな。
 サマラの頬が赤いのも夕日のせいかもしれない。

「そろそろ塔を降りるとするか?」

 すでにサマラは俺の腕を離していたので、階段を降りようとすると洋服の裾を引っ張られてバランスを崩す。
 とっさに、体を反転させたことで押しつぶすような結果にはならなかったが――。

「ああ、悪い。サマラ、ちょっとどいてくれないか?」

 俺の上に乗るような形になってしまっているサマラに退いて貰うように伝えると、サマラは一瞬、顔を伏せると潤んだ青い瞳で俺を見てきて「え、えっと……あの……ユウマさんは…………」と、呟いてきたところで言葉を止めてしまう。

 そこで俺はようやく気が付く。
 サマラの様子を見てる限り潤んだ瞳、赤い頬で俺に言い寄るのは……まるでセイレスに酷似しているように見える。

 これは――エルフ特有の病気なのではないだろうか?

「お、おい――サマラ、落ち着け! じつはお前はエルフ特有の病気に今かかって!」
「そんなことないです! あの……ユ、ユウマさんの力強い戦いを見ていまし――「サマラ様! 宴の用意が出来ました!」――ええ!?」

 声がした方を見ると、そこにはアンネが立っていて顔を真っ赤にして俺たちを見てきていた。

「あ、あの――サマラ様は、何を抜けがけじゃなくて、何をこんなところでしてるんですか? サマラ様の様子から絶対に恋人の誓いの塔に居るかもって言っていた人がいましたけど! いくら族長代理とは言えひどいです!」

 それだけ言うとアンネは走り去ってしまったが――。
 なんだかメンドクサイことに巻き込まれるようにしか思えない。
 サマラは、名残惜しそうに俺の上から退くと「ユウマさん、それでは宴まで案内しますね?」と語りかけてきたが――。

「なあ。俺、帰ってもいいかな?」

 何だか宴にいっても嫌な予感しかしないんだが。

「――え!? そ、そんな……」

 サマラは振り返って、顔色を真っ青にすると「お願いします、これでユウマさんが来られなかったら大変なことに――」と言ってきているが正直、サマラがどうなっても俺にはあまり関係なかったりするわけで。

「まあ、あれだ貸し一つな!」
「…………は、はい。ありがとうございます」

 俺の言葉に、サマラは頭を下げてきた。

 



コメント

  • ノベルバユーザー307224

    だな(笑)

    0
  • ノベルバユーザー243713

    木と鶴は木と蔓では?

    0
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