【書籍化作品】無名の最強魔法師
エルフガーデン崩壊
叫んで近づいてくる3メートルを超える漆黒色の蜘蛛を【風刃】の魔法を発動させ真空の刃で斬り裂いて倒す。
ダンジョンの6階層に降りてから蜘蛛ばかり現れて襲撃してくる。
まだ時間としては5分も経過していないというのに100匹近く倒してる事から遭遇率はとても高い。
「しかし……6階は蜘蛛の巣だらけだな……」
俺は一人呟きながら、通路のいたる所に張られている蜘蛛の糸に引っかかるたびに思いっきり引っ張って、引き千切っている。。
俺の生まれた時から持っている知識の中には、自然界の蜘蛛の糸は、鉄よりも切れ難いとされている。
そして実際、超人的な肉体を持つ俺の力を持ってしても蜘蛛の糸を普通に引き千切る事はできない。
仕方なく魔法で肉体を強化し引き千切っているわけだが、どういう訳かそういうことをすると遠くから「シギャアアアア」と言いながら大蜘蛛が近寄ってくるのだ。
しかも2本の死神のような鎌を構えているのが特徴で、かなり切れ味がいい。
俺に飛びかかってくる蜘蛛を見ながら。
「まったく、しつこいな――」
俺は右回し上段蹴りで蜘蛛の上半身を吹き飛ばす。
辺り一面に蜘蛛の残骸が降り注ぎ……紫色の液体が6階層の白い壁を染めていく。
まだ200メートルも動いていない事から、このままのペースで向かったら数日かかりそうだ。
「さて、リンスタットさんやセイレスにエルフ達の発情も何とかしないといけないからな……あまり時間はかけられないな。さて、どうしたものか?」
迷宮に降りて来てから考えていた。
どうやって早く迷宮を攻略しようかと。
だいたいの攻略法はもう決まっているんだが……それを実行していいのかどうかを考えていた。
ただ、ゆっくりと歩いているとかなり時間がかかる。
ここは、時間短縮をするのがいいだろう。
まずは地面に手をつけて想像する。
起きる現象は地面の陥没、起きる現象は地面の爆発。
【地殻崩落】の魔法を発動。
発動した魔法は地面の分子結合を斬り話し崩落を誘発させていき……。
辺り一面の壁や床が砂に変化して地面の下に吸い込まれたと思った瞬間、迷宮が崩落した。
――迷宮99階層最深部
次々と崩落していく土砂は莫大な重量となり最深部の階層へと押し寄せる。
ユウマが最深部に到達する直前に、侵入者を迎撃しようと、存在していた守護者やダンジョンコアは完膚なきまでに破壊され尽くした。
俺は崩壊し落下していく大き目の石などを足場にして、落下速度を軽減させつつ最深部に到着した。
「あぶなかったな――ちょっと魔力操作をミスったか」
俺は周囲を見渡しながら【探索】の魔法を発動させる。
「地下へ潜るような階段はないな……と言うことは、ここが最深部か? その割には……ダンジョンコアみたいなモノが見当たらないな? どうなってるんだ? 生命体も存在していないと……動くものも見当たらない? 【海の迷宮リヴァルア】とは違うのか?」
普通なら守護者とかドラゴンが守ってるようなモノだと思っていたが、がっかりだ。
これだと、攻略方法が分からないダンジョン探索を任されたようなものだ。
どうしたものか……。
俺が一人悩んでいると突然、「――ダンジョンコアが破壊されました。当施設は、機密保持のために爆発処分いたします」という音声がダンジョン内に流れ始める。
「え? 機密保持? ダンジョンコアが破壊された? 爆発処分? というかこれって……俺の知識にある機械音声だよな……一体、どういうことだ?」
俺は戸惑いながらも必死に現状を考察し、あらゆる角度から分析を行う。しかし、「――繰り返します。当施設は機密保持のため爆発処分いたします」と、言う無情な音声が流れる。
「と、とにかく、どう考えても……この爆発処分ってのは迷宮の事で間違いないはずだ……」
まったく誰だ? 余計な事をした馬鹿やろうは! そんな人の迷惑も考えない奴がいたってことか?
ま……まさか……ウラヌス教国の奴らが? だが奴らに……エルフガーデンに入れるだけの力があるとは到底思えないんだが……。
とにかく、誰か知らないが俺を罠に嵌めたって事は間違いない。
もしかしたらユゼウ王国のエルンペイア王の配下のSランク冒険者かも知れないからな。
俺がクルド公爵とかを倒したのを逆恨みしたって可能性もありそうだし。
「とにかく地上まで上がるしか――。お……おい……こ、これは……さすがに無理だろ!」
上空を見ると垂直に何百メートルもの高さが存在している。
いくら俺でも、跳躍してこの高さを飛ぶのは無理が……いや、壁を走っていけば何とかなるか?
【身体強化】の魔法を最大レベルまで引き上げ助走をつけて走り壁を垂直に上る。
――カウントダウンを始めます。10……。
音速の壁を突破したおれは僅か数秒で迷宮1階へと躍り出る。
そして通路をダッシュしエリンフィートの部屋の扉を蹴り飛ばす。
手で開けてる暇なんてない。
俺の姿を見たエリンフィートは、唖然とした表情と顔を真っ青にした表情をミックスし累乗したよく分からない表情で俺を見ていたがすぐに表情を真っ赤に染めると。
「ユウマさん! あなたはなんて――「今は、それどころじゃない!」――ぐふぇ」
エリンフィートの洋服の襟元を掴むと腕に抱え込み部屋から出て前方に、【大爆発】の魔法を発動させ迷宮1階から地表までの通り道を作りだし、外へと出て迷宮から離れるために走り迷宮から離れたところで、地面に手をつき土の中の分子を金属結合さて俺とエリンフィートの四方に鉄の壁を作り出す。
「これで、一応は安心だな……」
俺は腕に抱えていたエリンフィートを地面の上に下ろす。
するとエリンフィートが地面の上に、いろいろと吐きだしていた。
そういえば、音速で走ってる時に【身体強化】の魔法をエリンフィートにかけるのを忘れていたな。
俺もかなり動揺してるようだ。
そして俺の気持ちを余所に、迷宮の方から機械音声で「――5、4、3,2……」とカウントダウンが聞こえてくる。
まったく……どこの誰だか知らないがやってくれる。
迷宮を破壊して爆破するなんてテロもいいところだ。
さらには、ひきこもりのエリンフィートまでも外に出すという、少しは見習いたいその手腕。
中々なものだ。
しばらく、いろいろと地面の上に口から出していたエリンフィートが、俺を親でも殺されたかのように睨みつけてくる。
まったく俺が迷宮を破壊したと言わんばかりの目だ。
ひどいものだな。
誤解だと言うのに……。
俺がそんな事をする訳がないだろ?
とりあえず誤解を解くのが先決だろう。
妹に無い事無い事言われても困るからな。
「エリンフィート、どうやら誰かがダンジョンコアを破壊したようだ!」
「だから、それあんただから! あんたが破壊したんだからあああああああああ!」
どうやら、エリンフィートも突然の事に動揺していて普段の口調を忘れてしまっているらしい。
まったく――俺の敵対は中々やってくれる!
今まで不敵に笑っていたエリンフィートをここまで錯乱させるほどとはな。
そこで「――1、ゼロ!」とカウントが終わったようだ。
少しだけ鉄で作った壁の上から広場の方を見る。
エルフガーデンの広場が、カウントゼロの機械音声が響いた瞬間、白い閃光と共に大爆発を巻き起こすと、とんでもない爆風が俺達の方へと押し寄せてくる。
俺は咄嗟に鉄で作った壁の中に隠れる。
すさまじい爆風だ! まったく……えらいことをしてくれたものだな。
――爆発から数時間後。
どうやら、迷宮が爆発した影響でエルフガーデンの大樹は全て倒れていた。
もちろん樹上に存在していた町も壊滅しエルフガーデンは、その原型をまったくとどめないほどひどい有様になっている。
人的被害はほぼゼロであったのが唯一の救いと言って良いだろう。
俺は、辺り一面に転がる大樹を見て、俺が来たことで引き起こされた事に少し憤りを感じていた。
「これから、エルフは大変だな……」
「あんたのせいよー! 返しなさいよ! エルフガーデンを返しなさいよ! 返しなさいよおおおおおお!」
後ろでエルフ達に羽交い絞めにされているエリンフィートが何か叫んでいる。
まぁ、土地神としてエルフ村の村長として思う事があるんだろう。
あまりにもショックで錯乱してしまうのも仕方がない。
きっとエリンフィートが、言いたいことを言えて八つ当たり出来るのは俺くらいなものだからな。
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