【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

従属神襲撃(2)

「ユウマ、エルフガーデンの族長。エリンフィートが用事あるって来て――」

 室内に響き渡る声が途中で止まる。
 俺は恐る恐る声が聞こえてきた方へ視線を向けた。
 そこには、リネラスとエリンフィートが立っており。

 エリンフィートは険しい表情と視線で、俺とサマラを見てくる。
 そしてリネラスは一瞬、呆けたかと表情を見せたあと、目元に涙を浮かべると「ユウマのばかあああ」と走り去ってしまった。

「ユウマさん、すぐにリネラスを追いかけてください!」
「エリンフィート?」
「早く!」
「わ、わかった……」

 エリンフィートは、険しい表情をしたまま俺に語りかけてくる。
 どうやら、俺に怒っている訳ではないようだが……。

 俺は下着姿のまま、自分の部屋から出て【探索】の魔法を発動。
 緑の光点と灰色の光点が表示されていく。

「灰色?」

 俺は眉を潜める。
 エリンフィートが居る俺の部屋に灰色の光点が表示されているが……もう一方は緑の光点――。

「エリンフィートの光点をチェックしたことがなかったな――まぁ、今はそれよりも確認が必要だな……」

 俺の【探索】の魔法は万能ではない。
 きちんと確認を取る必要がある。 
 【移動式冒険者ギルド宿屋】の廊下を入り口に向かって走る。
 するとすぐに突き当りに酒場兼食堂が見えてくる。
 俺は、右手に併設されている冒険者ギルドカウンターへ視線を向ける。

 宿屋の中を走ってきた俺を見てセレン、セイレス、ユリカの3人が不思議そうな顔で俺を見てきた。

「3人とも! リネラスは、こっちにこなかったか?」

 俺の問いかけに「来ていませんよ」とユリカはすぐに答えてくる。セイレスやセレンもユリカの答えに同意するかのように頷いてきた。

 俺は首を傾げる。
 探索の魔法では、緑色の光点が建物から出ていった様子がない。

「イノン!」

 冒険者ギルドカウンターエリアから、酒場兼食堂へ入ると同時に声を張り上げると、イノンが丁度、朝食の準備をしているようで――。

「は、はい! 何でしょうか?」
「リネラスを見なかったか?」
「リネラスさんですか……?」
「いや――知らないならいい」
「…………ユウマさん、エルフガーデンにずっと居られるつもりなのですか?」
「――今はそれよりも」
「答えてください! まだ、戦いが――内戦が終わるまで……ユウマさんは何もせずにエルフガーデンに引きこもってるおつもりなのですか?」

 イノンは、何故か強い口調で俺に問いかけてくる。
 その言葉には、何か強い意思が含まれているかのようで――。

 何と答えていいか分からないところで、「お兄ちゃん!」と、セレンが酒場に入ってくると同時に話しかけてきた。

「こ、これ、リネラスさんの冒険者ギルドマスターのカードだよね?」

 セレンが差し出してきた冒険者ギルドカードを受け取ると、そのカードは確かにリネラスの冒険者ギルドマスターのカード――身分証であり本人の物であると思って間違いない。

「これはどこに?」
「中庭の……」
「中庭? ――ま、まさか?」
「ユウマさん!」

 走り出そうとした所で、イノンが話しかけてきたが、今はエルフガーデンに滞在するかどうかなんて話をしている場合じゃない。
 俺の【探索】魔法に反応しないってことは、俺の魔法が届かない領域にいるって事になる。
 それは、つまり――。
 中庭に出ると、たしかに芝生が踏まれた後があり中庭のダンジョンの方へ誰かが向かったのが分かる。

「何を考えているんだ! 冒険者ギルドマスターなら危険だと言うことくらい理解できてりるはずだろうに!」

 俺は呟きながら花壇を見る。
 その花壇には、俺が作ったダンジョンがある。
 そしてダンジョンコアを利用して作ったダンジョンは、フィールドダンジョンと違って内部と 外部が空間的に断絶しており完全に別空間として独立をしているとリネラスが依然が言っていた。
 つまり、別空間として存在しているということは――音の反響を利用した【探索】の魔法が内部まで届かないことになる。

「ここでリネラスの冒険者ギルドカードが落ちていたんだな?」
「――う、うん」

 セレスが驚いたような表情で頷いてくる。

「絶対に誰も入ってこないように言っておいてくれ!」
「わかったの」

 セレスが頷いたのを確認したと同時に、俺はダンジョンの中に足を踏み入れる。
 何段か迷宮に入っただけで周囲の景色が切り替わる。
 周囲は、上下左右を石で覆われており、【海の迷宮リヴァルア】とは、まったく違った様相を呈していた。




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