【書籍化作品】無名の最強魔法師
深層心理の迷宮(1)
「わかったなら……邪魔をするな」
エリンフィートを、振りほどくと俺はゆっくりとアルグージャに歩み寄る。
両腕と足たる尻尾を失った目の前の魔物は、身体を振るわせて何かを呟いているが……何を言ってるのか理解が出来ないな。
「お前は……俺の仲間に手を出した。だから……」
頭を掴み持ち上げ、そのまま手のひらに力を入れようとしたところで腕に無数の枝が突き刺さる。
すぐに【肉体修復】の魔法により修復されていくが。
「エリンフィート、何のつもりだ?」
周囲の魔力を全て支配下に置いている俺にとって、微細な魔力の動きでも今が感じ取る事が出来る。
そこから、俺に攻撃を仕掛けてきたのはエリンフィートだと言うのが分かった。
「その者は、従属神です。人が神を殺せば――その因果は……その呪いはユウマさん、あなたを蝕み――「邪魔をするなと言ったはずだが?」――ッ!?」
俺は、エリンフィートの言葉を、切り捨てるように途中から殺気を乗せた言葉を紡ぐ。
「呪い? それがどうかしたのか? 俺にとって、そんなのはどうでもいい。俺のモノに手を出したんだ。それに呪いってのは、拠り所のある存在がいるからこそ存在できるものでは無いのか? それなら――ウラヌス教国を消滅させれば問題ないだろ?」
「消滅?」
顔色を変えたエリンフィートが俺を見て語りかけてくる。
「ああ、そうだ。俺の力が――」
そう、今の俺のこの力があれば、敵対する国を一つ消し飛ばす事など簡単だ。
第一、神というのは信仰力がモノを言う。
なら、その神――ウラヌス神の信仰の源であるウラヌス教国を消せばいいだけだ。
「いま、感じている力があれば――こいつが従属神であるなら、こいつすら俺の敵にならないなら……こいつの主神ウラヌスを殺せば、それで全てが問題なく済むだろう?」
「――その為に、国も消し飛ばすと? 子供や女性や老人まで全てを殺害すると?」
「そうだ――」
冷淡に、静かに、怒りに燃える気持ちのままエリンフィートの問いかけに、俺は答えた。
そんな俺の答えを聞いたエリンフィートは大きく溜息をつくと――。
「ユウマさん――今の、貴方の考えは私は受け入れる訳にはいきません」
「…………そうか」
俺は肩を竦める。
別にエリンフィートに、認めてもらう必要もないし受け入れて貰いたいとも思っていない。
ただ――。
「別にお前が、どう思うと俺には関係ない。……ただ、邪魔をするならエリンフィート、お前を殺す」
俺の殺気から何かを感じ取ったのか。
「わかりました。ユウマさん、リネラスを生き返らせましょう。丁度、妖精眼にも目覚めたようですし」
「何を言っている? 人間を生き返らせることなんて出来る訳がないだろう?」
「普通は、そうですが……今回は、丁度いいんですよね」
「ちょうどいい?」
「はい」
エリンフィートは、俺が掴んでいるアルグージャへ近づくと、胸の部分へと手を当てると、紫色に光り輝く水晶を抜き出す。
「や、やめろ――他国の神、その従属神である我の核を奪い取るなど――」
「自国が壊滅するよりかはいいと思いますけど? それにあなたがエルフガーデンに入ってきたのはいけないんですよ? 他国の神、その領域に入る事は禁じられてるはずでしょうに――」
「そ、それは……貴様が魔王を――」
「静かにしてくださいね」
アルグージャの胸元から紫色に光る水晶を、エリンフィートが抜き出す。
すると、アルグージャは断末魔の悲鳴を上げると共に、白い石像となると粉々に砕け散り地面の上へと散らばる。
「エリンフィート、お前――」
「まだ、妖精眼を通してリネラスが生きているのが確認できます。もしかしたら、ユウマさん、あなたは普通の回復魔法ではない別の回復魔法をリネラスにかけたのではありませんか?」
「お前が何を言ってるのか分からないんだが? それより……リネラスを生き返らせる事ができるというのは本当なのか?」
「はい、ですけど――。ユウマさんは、しばらくしてから戻ってきてください。あと、いくらなんでも当事者でもない人々を殺すような考えは看過できません」
「…………そうだな――」
俺は深く溜息をつく。
怒りのあまり、俺は色々と語っていた。
ただ、その感情が――。
リネラスが生き返るかも知れないと聞いた時から、波が引くように静まっていった。
「とにかく――。ユウマさん、この水晶を浄化変化させるために少しだけ時間が掛かりますので」
「しばらく時間を置いてからいけばいいんだろう?」
「はい、今のユウマさんの魔力ですと周囲に影響を与えていますので、失敗したら困りますから」
「わかった」
同意した言葉を聞くとエリンフィートは、その場から姿を消したが、発動させていた【探索】の魔法が、エリンフィートの移動先を示していた。
それは、移動式冒険者ギルド宿屋の方。
どうやら、リネラスを生き返らせる事が出来るという話は嘘ではないらしい。
「ユウマさん! ユウマさん!」
何度か体を揺すられた後、俺は瞼を開ける。
視線の先にはサマラを筆頭としたエルフ達が立っていた。
どうやら、俺はエリンフィートが戻った後、地面に腰を下ろしたあと眠っていたようだ。
「サマラか――。今度は本物か?」
「ユウマさんが何を言っているのかわかりませんが?」
サマラの態度から、どうやら今度は本人だと言うのが何となくだが分かった。
「一体どうしたんだ? どうしてエルフが何人も?」
「族長が、ユウマさんを呼んできてほしいと――」
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