【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

深層心理の迷宮(2)

「族長……」

 ――ってことはエリンフィートが俺と会いたいと?
 そういえば、リネラスを生き返らすような事を言っていたな……。

「ユウマさん?」

 サマラが心配そうな顔で俺を見てくる。

「いや、なんでもない。大丈夫だ」

 俺は、ゆっくりと立ち上がる。
 体中が、まるで自分の身体ではないみたいに重い。

「ユウマさん、大丈夫ですか?」

 サマラが、俺の体を支えようと近づいてきて手を差し出してきたが咄嗟にサマラの手を払いのけてしまう。サマラが「――え?」と、ショックを受けたような表情で払いのけられた手をもう一方の手で摩っている。
 そんな俺とサマラの様子を見ていた、ほかのエルフ達から動揺の様子が手に取るように伝わってくる。

「す……すまない――」

 条件反射的に俺は、サマラの手を払いのけてしまった。
 サマラが、やったことでないとしても、やはり俺の記憶の中には強く印象が残っていて、その事が無意識に拒絶の意を示した結果となってしまう。

「……いいえ、それよりも大丈夫ですか?」
「ああ、もう大丈夫だ」

 サマラの問いかけに答えながら、【探索】の魔法を発動。
 移動式冒険者ギルド宿屋の方角を確認すると、エリンフィートを含めた緑色の光点が確認できる。

「俺達の、建物に向かえばいいんだな?」
「はい」

 サマラは小さな声で頷いてくる。
 俯いてしまったため、その表情を伺い知る事は出来ない。

「わかった」 
 俺は短く言葉を紡ぐと俺達の建物に向かって走る。
 探索の魔法を確認する限りでは、セイレス、ユリカ、イノン、セレンにエリンフィートの光点のほかに、もう一つの緑色の光点が建物の中に増えた。
 それは、建物の外から入ってきた事からリネラスではないというのは分かる。
 そうすると……。

「リンスタットさんか?」

 俺は一つ呟きながら、それ以外に考えられないと思ってしまう。
 さすがに、リネラスが死んだ状態でリンスタットさんに報告がいかないのはおかしい。
 本来なら、俺が説明しなければならなかったのに……。

「俺は一体、何をしているんだ――」

 走りながら、自問自答してしまう。
 自分で、自分自身の感情が理解できない。
 建物が見えてきて中に入ると、入口右手に何人ものエルフガーデンのエルフ達が集まってきていた。
 その中には、リネラスの妹たちもいて皆、一様に心配そうな表情をしている。

「ユウマさん……」
「イノンか? どうかしたのか?」

 俺の問いかけにイノンは、頭を深く下げてきた。
 どうしてイノンが頭を下げているのか俺には理解できない。

「私……私……」
「落ち着け、今はリネラスの事が重要だ。まずはエリンフィートに会わないとな」
「……そうですね」

 イノンは、どこか安堵の感情を内包した表情を見せながら、「こちらにエリンフィートさんとリネラスさんはいます」と、言いながら部屋まで案内してくれた。

「ここは? リネラスの部屋だよな?」
「はい、サマラさんたちが手伝ってくれて……」
「そうか――」

 途中で言葉を切る。
 どうやら、サマラがホールに置かれていたリネラスの体を運んでくれたらしい。

「そういえば、ホールや建物入口もキレイに片づけられていたな」
「はい、サマラさんが私達の変わりに片づけてくれたんです。エルフガーデンのエルフさんたちも手伝ってくれて……」
「そうか――」

 どうやら、俺が従属神を追いかけて倒して、エリンフィートと話している間にエルフガーデンのエルフ達は、色々としてくれたようだ。

 部屋の中に入ると、エリンフィートとリンスタットさんに、ベットに横になっているリネラスの姿が目に入った。
 ゆっくりと部屋に入ってきた俺を、リンスタットさんとエリンフィートは視線を向けてくる。

「待っていましたよ? それでは施術に入りたいと思います」

 最初に口を開いたのはエリンフィートであった。





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