【書籍化作品】無名の最強魔法師
託された思い(4)
「……つまり、現状を変えるための答えは――」
「――そう、君の中にあると言える」
俺の問いかけを肯定しリネラスの祖父と思われる男性は、その場から煙のごとく姿を消した。
そして世界も――。
「また、ここか……」
見覚えのある景色、そして場所を見ながら俺は考える。
リネラスの祖父と思われる人間が言っていた言葉。
それは、俺の記憶を基礎として――この世界が作られている話。
それが本当か、どうかは俺には判断がつかないが――。
顎に手を当てながら、今までのループから推測する。
まず気になったのは、リネラスの祖父の名前だ。
どうして、リネラスの祖父の名前だけが、俺には聞こえてこないのか。
おそらく、それは基礎。
世界の根幹を為すデータベースに、俺が知らない人間の名前が入ってないからと推測される。
ただ、問題は――。
「どうして、リネラスの祖父の姿を認識できるかどうかなんだよな」
エルフガーデンの集落では、エルフと言う事は判別はついたが途中からは、エルフ達の姿が形骸化されていて、ハッキリと認識する事ができなかった。
つまり、名前と姿かたちは一致しないと言う事になるが……。・
「そういえば――」
ふと顔を上げる。
景色や人間の表情、姿かたちを覚える場所と名前を覚える場所――つまり脳内の処理は別になっていると、生まれた時から持っていた記憶には存在していた。
つまり――。
いや、だが……。
でも、そう考えればすべての辻褄があう。
そう考えると、やはりこの世界は……。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
声が聞こえてきたと同時に振り返る。
やはり、そこにはリネラスが立っていた。
リネラスの恰好をした幼女は俺を見上げながら、まっすぐに伺うようにしている。
そして、その隣にはサマラが立っている。
俺は、サマラがリネラスに話し掛ける前に「リネラス、お前は――俺に何か言いたい事があるんじゃないか?」と、問いかけた。
そんな俺の言葉を聞いて――。
「お兄ちゃん、何を言っているの?」
「だから、俺に何かを伝えたい事があるんじゃないのか?」
「お兄ちゃんが何を言っているのか分かんない」
俺との会話を拒絶するように、サマラと伴ってリネラスは走り去ってしまう。
「失敗か……」
どうも話の道筋が読めないな。
この世界が俺の記憶を基礎として成り立っているのなら、普通なら俺の考えに沿う道筋になるはずなんだが――。
「はあ……どうしたらいい……んだ」
「どうしてエリンフィートは、深層心理世界に入る際に、何もアドバイスをしなかった? 仮にでも土地神であろうに……そして、リネラスの祖父と思われる男。あれは、どう考えても俺の記憶とは無関係……だと思う……が――」
俺はその場に座りこむ。
どちらにせよ、会話の道筋が変わってしまったことでループに入る事だろう。
「…………ん? ループが始まらない?」
今までの会話の流れから、間違いなく世界が再構築されループが始まるはずであったのに、始まる様子がない。
「――まさか!?」
すぐに立ち上がり、サマラを連れてリネラスが走り去った方角へと俺は走る。
魔物が攻撃してくると言っていた森の中を走るが、魔物の姿は見られるが攻撃されることがない。
しばらく走ると森が開ける。
視線の先には、湖があり冒険者ギルドのエルフガーデン支部が存在していた。
建物に近づいていくと、中から叫び声が聞こえてくる。
その声は、リネラスの母親の声だというのが分かった。
早鐘を打つ心臓の鼓動を意識しながら抑え込み建物の中に入る。
部屋の中を見て俺は目を見開く。
そこには、「あなたのせいでお父さんが死んだのよ!」と、リンスタットが5歳の姿をしたリネラスに対して問い詰めている場面であった。
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