【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

託された思い(7)

 鼓膜が震えた。
 その音色は、絶望した声色であり諦めを含んだ音で――。

「リネラスなのか?」

 振り向く。
 そこには、まだ少女としか見えない女の子がいた。
 質素な服装で着た。
 そんな少女は、ゆっくりと微笑んでくる。
 ただ、それは――。

「うん……」

 俺の問いかけに答えてきた少女は、ゆっくりと部屋の中を歩いていく。
 そして机の上の手紙を俺へと差し出してくる。

「これ……は……?」

 受け取った手紙に書かれていたのは、冒険者ギルド職員のための試験に関するもので。

「リネラスは、冒険者ギルドの職員になりたかったのか? ずっと前から?」
「…………」

 沈黙のみが返ってくる。
 ただ、その沈黙を――。
 答えを急かして壊すのは……憚れた。
 そんな何も音が流れない時が数瞬流れたあと、ゆっくりと部屋の中の空気が変わる。

「ユウマ、知ってる? エルフガーデンのことを……」

 唐突にリネラスは俺に問題を問いてくる。
 俺は、リネラスのその言葉に――。
 その問いかけの意味する理由を考え――。

「いや――」

 俺は頭を振るう。
 リネラスの記憶を見せられて、エルフガーデンの何が本当の事か分からなくなっている。

 確かにエルフガーデンのエルフ達は、俺を歓迎してくれた。
 ただ、それは俺が強かったから……。
 魔法を使えたからではないのだろうか?
 本当に俺自身を歓迎してくれたかどうか……それは、分からない。
 何故なら、一緒に旅をしてきた仲間の気持ちですら俺は理解していなかったのだから。
 分かっていなかったのだから。

 だからこそ――。
 仲間だからこそ。
 俺は……。
 中途半端な気持ちで。
 中途半端な思いで。
 中途半端な知識で。

 分かってるとは言いたくない。
 知っているとは答えたくない。

「エルフガーデンの事は、よく知らない――」
「そう……」

 俺の答えにリネラスは、表情を動かさずに短く言葉を返してくる。

「――違う……そうじゃないんだ……」
「え?」

 リネラスは、俺の続けた言葉に疑問を投げ掛けてきた。
 俺はリネラスをまっすぐに見る。

「俺が――。俺が言いたいことは、そういうことじゃないんだ……」

 そう、俺が言いたいことは、気取った言葉なんかじゃない。
 誰かが傷ついた時に。
 自分の大切な誰かが傷ついた時に。

「俺は……。どんな理由が相手にあったとしても――」
「あったとしても?」
「助けたいと思っている」
「そう……」

 リネラスは俺の答えに小さく頷いてくる。
 気がつけば、辺りの景色は赤一面に彩られていた。

「ねえ? 自分が発端で、その後に魔力を見ることが出来ない子どもたちが生まれたら、貴方ならどうするの?」
「何を言って……」
「私ね……。本当は……妹たちをとても憎んだ。狂うくらいに憎んだの」

 いつの間にか部屋は消えていて、冒険者ギルドの1階――フィンデイカ支部の入り口に俺は立っていた。
 そしてリネラスと言えば、少女の姿のまま冒険者ギルドのカウンターに座っている男性の隣で、羊皮紙に目を通して質問しては頭をなでられていた。

 そんな光景をみたまま。

「他のエルフ達の子どもが魔力が使えないと分かった後にね、その原因はすべて私のせいということになったの」
「どうして……」
「そんなの決まってるの、だって誰もが自分の子どもが大切だもの。それが出来損ないのエルフということで迫害を受けるなら、エルフガーデンの住民に何かされるくらいなら――」

 いつの間にか、俺の横にたっていた少女の姿をしたリネラスは、父親に頭を撫でられている自身と父親を見ながら寂しそうな表情をしたまま言葉を続けて紡いでくる。

「自分たちの子どもが、何かされるくらいなら最初に魔法が使えない人間を生贄にすることで、率先して迫害することで……」
「そうか――。つまり、リネラスを一人だけ生贄にすることで自分たちの子どもを助けようとしたってことか……」
「うん……。それでもね? お爺ちゃんが、冒険者ギルドの建物を集落から離れた場所に建てたから。たぶん、集落の中に住居があったら大変なことになってたと思う」

「そうか」
「でもね――。生活はとっても苦しかった。お父さんとお母さんはいたけど……人は生きていく上で、多くの物が必要だから……。それを手にいれるために、お母さんはエルフガーデンの村長から下された提案を断ることができなかったの」






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