【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

託された思い(10)

「……リネラスが別に悪いわけじゃない。それは、ただたんに……」
「受け入れられなかっただけ? 運が悪かっただけ? そうユウマは言いたいの?」
「違う! リネラスは何も悪くは――」

 問いかける言葉をリネラスは聞きながら否定的な意味合いを込めて頭を振ってくる。
 その瞳には失望の色が見て取れる。

「ユウマは何も分かってない」
「俺が何も分かってない?」

 リネラスの過去を見て、俺なりの見解を交えて考察した結果、リネラスは悪くないと断定しただけなのに、俺が何を分かってないというのか――。

 リネラスの俺が何も分かってないという言葉。

 その言葉の意味は分かる。
 ただ、その言葉が何を指しているのが俺には分からない。
 その分からない部分を指してリネラスが、分かってないと言っているのなら、それは……。

「ユウマは、起きた事に対して答えを返してはくれるけど、人の気持ちに関しては無頓着だよね?」
「人の気持ちに対して俺が……無頓着……?」

 俺の問いかけにリネラスは、俺の目を見ながら軽く頷いてくる。
 そして――。

「だって、ユウマは何を見て、何を感じて私が悪くないって答えたの?」
「それは――」

 決まっている。
 魔力が見れないというだけで、親から拒絶されたこと。
 それに対して庇ったリネラスの祖父が死んだこと。
 そして、生活を守るためにリネラスの母親が苦悩したこと。
 さらにエルフガーデンから出たことでリネラスの父親が死んだこと。
 全てを見て論理的に考えて導き出された答えはリネラスは悪くはないということ。
 だから、俺はリネラスは何も悪くないと答えた。
 なのに、何も分かってないと言われたら俺としては、どう答えていいのか分からない。

「――一連の流れから見て、リネラスは悪くないと答えただけだ」
「そう……だよね? ユウマは何かあればすぐに、そう答えてくるものね」
「何が言いたいんだ?」

 どうして? どうしてリネラスは俺の答えを否定してくる?
 どうして、リネラスは、俺の言葉を聞いて、悲しそうな目を向けてくる?

 リネラスが、どんな答えを求めているのか。
 リネラスが、俺に対して言葉を求めているのか分からない……。

 どうして……どうして客観的な事実に基づいた過程から続く結果の答えに彼女は満足しないのか?
 俺には、その理由が分からない。

「ねえ? 人には感情や心があるんだよ?」
「そのくらいは知っている」

 人間だけでなく動物にも心があるのは知っている、
 それは、脳細胞内のニューロンとシナプスから形成されている電気信号の集合体のやり取りだからだ。
 それらは記憶を維持して紐付けして価値観と人物の人格形成を行う。
 人の感情は究極的に言えば電気信号と言っても間違いはない。

 だからこそ、リネラスが人の感情や心と言った単語を持ち出してきたとしても、そのくらいは説明がつくし理解も出来る。

「……ユウマは、私の感情を理解してくれているの?」
「リネラスの感情? いや、今は、それは関係ないだろ? だいたい話の根幹は、エルフガーデンの魔力が見れないってだけで迫害したエルフが悪いわけで、お前が悪いわけじゃないんだ。だから――」
「だから、私は悪くない?」
「ああ……」
「ユウマは何でも知ってるのに、どうして……どうして……」
「リネ……」

 声をかけようと言葉を発しかけたところで、周囲の景色が変化し。

「またかよ……」

 俺は一人呟く。
 周囲は、辺り一面、森林に変わっていた。
 また最初の場所に戻された。

「なんだよ――」

 俺は自分の額に手を当てながら、その場に座り込む。

「意味が分からない」

 どうして、俺の言葉がリネラスには届かない?
 俺は、見せられた光景から理論的に論理的に物事を考察して何も問題ないと言っただけなのに。
 リネラスは何も気にすることはないと言っただけなのに――。

 どうして否定される?
 どうして肯定されない?
 どうして分かってくれない?

「なんだよ――俺に意見を求めてきておいて、自分が望まない答えを言われたら拒絶するとか意味が分からない」

 どうしたらいいのか分からない。
 俺はその場に座りこむ。
 答えが――。
 この世界の理が多少分かってきたというのに、これだと振り出しどころか、攻略すら困難に思えて仕方がない。

「お兄ちゃん、大丈夫?」
「うるさい!」
「――ッ!?」

 リネラスの声で話かけられた俺は思わず八つ当たり気味に、幼女の姿をしたリネラスに怒鳴ってしまっていた。
 リネラスは、驚いた表情を見せると、走り去ってしまう。

「訳が分からない……」

 一体、何を求めている世界なのかまったく分からない。
 俺の答えを拒絶するなら、こんな世界に何の意味があるのか……。

 ここに、何の価値があるのか……その理由が思いつかない。

 


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