【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

親類の絆(11)

「ど、どういうことですか? ユウマさん!?」

 いつも冷静のように見せてくるエリンフィートが頭を抱えて叫んだことに、リンスタットは驚き俺の方を見てくる。

「よくは分からないが、どうやら白色魔法石というのが無いとダメみたいだな」
「え? それって!? 娘を助けられないということですか?」
「いや、どうなんだろうか?」

 ただの魔力増幅だけのために使っているなら、俺の魔法なら普通にいけそうな気がしないでもなさそうだが……。
 まぁ、エリンフィートが言っている白色魔法石が無い状態でリネラスの深層心理世界に入れるかどうか試してないから何とも言えないが……。

「エリンフィート様、娘は、娘はどうなるんでしょうか?」
「助けたいのは山々です。ですけど、深層心理世界では、魔法が使えません。そうすると私達の意識を保護することが出来ないのです。ですから……」
「わ、私は! 娘を助けるためなら!」
「リンスタット、落ちつきなさい! 族長の私が、安易に自分の命をかけるような真似は出来ません!」
「で、ですけど!」

 俺が見ている前で、エリンフィートとリンスタットが何やら押し問答を始めた。
 まったく、時間が無いと言うのに何をしているのか。
 俺はチラリとリネラスの方を見る。

「ふむ……」

どうも、最初に深層心理世界に入った時よりもリネラスの顔に、生気がないように感じる。
ためしに手を握ると冷たく感じ――。

「二人とも、ちょっといいか?」
「「なんでしょうか?」」

二人が同時に振り返ってくる。
ちょっと二人とも手を繋いでもらえるか?

「別に構いませんが?」

 リンスタットは首を傾げながらエリンフィートに手を伸ばし、その手をエリンフィートが、これまた何のために? という表情をしたまま手に取る。
 俺は二人が手を繋いだのを確認したあと、リンスタットの肩に手を置く。

 まずは、想像。
 リネラスの深層心理世界に入るための魔法。
 白色魔法石が無いから、そのへんは適当に考えて石があるだろ? と考えるだけでいいか? とりあえず魔力を増幅する物らしいから、俺の魔力を増幅するって感じにしてと……。
 あとは――深層心理突入とか、そんな感じの魔法名でいいか?

 俺が、頭の中で世界に干渉する為の、事象と発動魔法名を思い浮かべた事で部屋の中が白い光に包まれていく。
 どうやら、魔法は上手く発動するみたいだな。

「え? え? どういうこと? どういうことですか? ええええええええ、待ってください! ユウマさん! 白色魔法石がな――」

 エリンフィートが何か言っていたようだが、薄れゆく意識の中では聞きとる事は出来なかった。



「いやー。成功してよかったな!」
「成功? これが成功なんですか? どうして私が裸なんですか?」

 エリンフィートは、まな板な胸を右手で押さえながら左手では下半身を隠しながら顔を真っ赤にして俺に文句を言ってくる。

「さあ? まぁ、お前の裸なんて何の価値もないから気にするな」
「何の価値もない? 今、何の価値もないと言いました? 土地神に向かって! このエリンフィート様に向かって! 何の価値もないと!」
 俺の言葉に、キーキーと猿のように吠えて文句を言ってくるクレーマーに俺は溜息をつきながら当たりを見渡す。

「あの……どうして、私も裸……」

 すると、リンスタットが近くの大きな葉を使い豊満な胸を隠しながら話しかけてきた。

「これは俺の推論なんだが、おそらく白色魔法石というのを使わないと精神の保護が出来ない。つまり裸になって羞恥心でダメージを受けると言う事かもしれない。」
「そんな、馬鹿なことがあるわけないです!」

 俺の推論に、後ろに蹲ってケチをつけてくるエリンフィート=クレーマー。
 まったく、精神世界にまで来たと言うのに、あーだこーだ言ってくるやつだな。

「とりあえずは幼少期のリネラスに出会うのが先決だな」
「いやです! 葉で隠した肢体なんて……どんな顔をして会えば……」
「そうです! 私はエルフの族長なんですよ? 裸で会える訳がありません!」

 俺は大きな溜息をつく。

「お前らは我が侭だな」
「「え? 私達は言っていること、間違っていますか?」

 俺は二人同時に突っ込みを入れてきたことに頷く。
 二人はどう見ても我が侭だ。
 何故なら――。

「俺も! 真っ裸だから大丈夫だ!」

 俺のフォローに、二人は死んだ魚のような目をして体を震わせていた。




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