【書籍化作品】無名の最強魔法師
姉妹の思い出(7)
「大丈夫でしょうか? って言われてもな……見れば分かるだろ?」
「暇と言うことですよね?」
「――くっ!?」
こいつ、俺の楽しみを奪っておいて何が「暇になりましたよね?」だよ……。
それに、サマラとか連れて来ているってことは、もしかして……。
「エリンフィート、もしかして、お前――」
「はい、話は聞いていましたので! ユウマさんはエルフガーデンの集落復興を手助けして頂けるんですよね?」
「はぁー……」
俺は小さく溜息をつく。
よくよく考えてみれば分かることだ。
エルフの五感を利用してエリンフィートは、情報を集めていた。
まぁ、それは俺の推論に過ぎないが、恐らく俺が彼女に指摘したことで隠す必要もないと彼女は考えたのだろう。
それで、朝一番から尋ねてきたというところか?
「ああ、復興の力は貸してやる」
「本当ですか!?」
サマラが笑顔で俺に話しかけてくる。
俺は彼女の顔を見ながら頷きつつ「そういえば、避難はどうなっているんだ?」と問いかけることも忘れない。
現在、エルフガーデンにはユゼウ王国の正規軍と反乱軍が攻めてきている状態なのだ。
今は、妹が契約したスライムが押しとどめているはずだが――。
突破された場合というか、間違いなくスライムごときで押し止められるわけではないと思うから、突破されたらエルフガーデンが戦場になるだろう。
そうすれば、女性が多いエルフガーデンではどうなるのかは、大体予想がつくわけで……。
「避難は、現在滞りなく進んでいます。大半のエルフと残った男性は、エルフガーデンを取り囲んでおりました妖精山脈へと避難を開始しています。数日もあれば用意が終わり避難の開始が出来るかと――」
「なるほど……」
どうやら、すぐには避難できないようだな。
「――ということは、その妖精山脈には人が住めるような住居は無いということか?」
「はい、そうなりますが……。エルフは元々、森の民ですので人とは違い早期に住居を用意できると思います」
「ふむ……」
滞りなく説明をしてくるサマラを見て嘘をついてはいないなと思いつつも。
「そういえば、俺達が住んでいる建物はどうなるんだ?」
よく考えれば、この移動式冒険者ギルド宿屋は、いつもイノンが出し入れをしていた気がする。
リネラスが許可を出したから出来るようになったとは言っていたが……。
「たしか、イノンさんしか建物の出し入れは出来ないと聞いてますけど?」
俺の一人ごとにユリカが答えてくる。
「マジか? ということは……」
「この建物は、ここから動かせないと思います」
思わず頭を抑えてしまう。
「そうなるとアレか? この建物を収納するためには……」
「権利的にイノンさんじゃないと無理かも知れません――。そう、冒険者ギルドの規約にも書いてあったような……」
「そ、そうか――」
そんな規約を読んだ覚えがないが、まぁ……俺には関係の無くもないな……。
どうするんだ?
――まぁ、今、考えても何も変わらないよな……。
「そうすると、やらないといけない事は、住まいの確保だから。この建物の死守だな。あとはエルフ村の復興と、侵攻してきている外部を退けることか……問題は山積みだな」
「ユウマさん、外部の敵と言うことですが! 私達にも一緒に戦う栄誉を与えてはもらえませんでしょうか?」
「――ん?」
俺が頭を抱えていると、サマラが語りかけてきた。
彼女の表情を見る限り、本気のようだが――。
「いや、お前達って森の中では戦えるかも知れないが、今は殆どの木が倒れてる状態なんだぞ? どう考えても不利じゃないのか?」
「そ、それは――」
「それに、俺は女性を最前線で戦わせようとは考えていないぞ?」
「――!?」
俺の言葉に何か知らないがサマラを含めた20人近くの女エルフ達が顔を赤く染めて「さ、さすがユウマさんです!」と言葉を合わせて紡いできた。
何が、さすがかは知らないが――。
エメラダや、エメラダが率いていた騎士団と違って戦闘のプロじゃないから断っただけで感心されるようなことは言った覚えはないんだけどな。
「で、ですが! 私達もエルフとしての矜持があります! 自分の土地は自分達で守ります」
「そうか! 分かった! じゃ俺が特訓をしよう!」
「――え?」
まったく、仕方ないな……。
そこまでやる気があるなら、俺が戦いの極意ってのを教えてやるのもやぶさかではない。
きちんと冒険者としての心構えを教えてやろうじゃないか!
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