【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

姉妹の思い出(10)

「……そ、そうか。だいたい理解できた」
「本当!? アリア、役に立った?」

 俺は、さりげなく妹の頭を撫でる。
 すると、いつものように頬を赤く染めて妹が俺の腕を掴むと指をなめてきた。
 気分はまるで子犬を相手にしているようだ。
 まぁ、あくまでも俺が生まれた時から持っている知識から見るとだが――。

 そういえば、生まれてからこの方、ドラゴンとかワイバーンとか大きな熊とかイノシシなど見たことはあったが、犬類は見たことがないな――。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん」

 何故か知らないが、妹が息を荒くし始めたこともありすぐに手を引いた。
 時々、妹は頬を赤く染めて指を舐め始めたり俺の布団に入ってきて深呼吸をした後、息を荒くすることがある。
 何の病気は知らないが、きっと何かに興奮しているのだろう。
 良くは知らないが――。

「ああ、私のお兄ちゃん成分がー!」
「今日は、もう終わりだ!」

 自分でも何を言っているのか良くは分からないが、まあ、いいだろう。
 それにしても、妹の反応がまるで犬のようだ、

 きっと尻尾をつけていたら千切れんばかりに振っているのかもしれないな。

「お兄ちゃんのいけずなのー!」

 何がいけずか良く知らないが、そのへんはスルーしておくことにしよう。
 それよりも――、何故か知らないが回りの女性陣が皆、一同に驚いた表情をしている。

 やはり――。
 普通はおかしいよな……。

 こんなの、おかしいと俺だって思っている。
 ありえないことだって! ことくらいは……。

「みんな、アリアが契約している使い魔のスライムがおかしい! と思っているようだが、出来れば気にしないでほしい!」
「「「「「そんなことじゃありませんから!」」」」」

 サマラを含めて、建物内にいる全員が俺の言葉を聞いて唖然とした後に否定してきた。
 はて? 俺は何か間違ったことを言ったのだろうか?

 ふむ……。
 よく分からないな。
 まぁ、女性と男性では考え方が違うものだからな。
 考えても分からないときは、分からないものだ。

「さてと――。そろそろ出かけるかな」

 大体の情報を得ることはできた。
 あとは、この目で見て侵攻してきている軍隊をどうやって対応するかを考えるだけだな。

「アリア」
「――はぁはぁはぁ、――な、何? ……お、お兄ちゃん!」

 語りかけた妹は、何故か知らないが体をくねらせていたが、まぁ、コレもよくあることだから気にしないことにする。
 しばらくすれば、いつも落ち着くからな。

「スライムには、俺が到着するまで足止めを指示しておいてくれ」
「分かったの!」

 妹が頷くのを確認してから、唖然としている仲間とサマラ達を置いて俺は建物を出た。

「さてと――」

 向かう方角は東――。
 視線の先には、根こそぎ倒れたエルフガーデンの大木が見える。
 一言で言えば、ダンジョンの爆発により森の木々が全て倒壊しましたという奴だ。

 まったく、こんなkとを誰がしたんだが――。

「――いくか!」

 頭の中で、細胞単位を強化するイメージを思い浮かべる。
 それと同時に身体強化の魔法を発動。
 肉体が一瞬だけ痺れる感覚が走りぬけて魔法が完成した。

 東へ向かって跳躍したあと、倒木を蹴りつけながら移動し始める。
 さすがエルフの里と言うこともあり、一本一本の幹が太く頑丈であった。
 普段なら移動時、身体強化の魔法を発動しているときに地面を蹴りつけると地面が爆ぜたり爆発したりしたりしたがエルフガーデンに生えていた木々は倒木しても、俺の脚力に耐えるだけの耐久度を有している。

 おかげですぐに、俺の移動速度は音速の領域に達し目的であったエルフガーデンへの玄関口――渓谷であるエルブンガストに到着したのはすぐであった。

「い、一体……こ、これは……これは、とっても――ひどい……」

 到着した俺を待っていたのは凄惨極まりないものであった。
 まさしく、誰にも見せられないもの。
 いまだかつて、こんな酷い光景を見たことがない! いや見せたらいけない! と、言うか見せたら駄目だろう!

 スライムが進軍してきていた敵兵を食い止めるために行っていた行為は、想像を絶するものであった。

 着ていた鎧や剣だけではあき足らず、兵士達の服も下着も全部溶かしていて、男兵士達がドロドロなスライム中であがいていたのだった。

「怪我人はいないようだが……誰得なんだろうか……」

 もっと、こう! 女性なら!
 おっさんとか、やられても誰も得をしないんだが――。


 

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