【書籍化作品】無名の最強魔法師
姉妹の思い出(13)
武器だけではなく鎧と服すら無くした一万を超える兵士達は、撤退していく。
俺は、撤退していくユゼウ王国正規軍の後ろ姿をスライムの上に乗ったまま見送る。
何故かスライムは俺が乗るのを嫌がっていた。
別に裸で乗ってもいいじゃないか! と俺は主張したが、スライムは頑固として俺を乗せようとはしなかった。
まったく、創造主の俺に向かって、とんでもない扱いだ。
しかも、無理矢理乗ったら俺と取り込んで息を出来なくしてきたので内側から魔法で爆発させるという交渉術を取ったらようやく乗せてくれた。
言葉が通じなくても、俺の交渉術というがモンスターにも通じたというのは、新しい発見と言えよう。
俺はスライムの上に寝そべりながら「さてと……」と、呟きながら立ち上がる。
「それにしても、スライムふとーんは、とてもいいものだな……」
妹が何かあるたびにスライムの上で寝転がりながら移動していたのは、スライムの感触がとてもいいということに他ならないのだろう。
将来、太ってしまいそうで、お兄ちゃんとしては、とても心配だ。
「しかし……冬は暖かく、夏は涼しいかもしれないとか――。さすが貴族御用達のお風呂ば掃除専用魔物だけはあるな……、もしかたら、こいつを量産して冷暖房スライムとして売りに出せばお金になるかもしれない!」
そうすれば働かなくも暮らしていけるかもな……。
ふと思いついた案だが、中々いけるような気がしないでもない。
――いわば隙間スライム産業という奴だ。
俺が今後の計画を練っていると、探索の魔法範囲外にユゼウ王国の正規兵達去っていったのが確認できた。
「俺は、ユリーシャ姫が率いる部隊を調べてくる。お前は、ここを死守しろ! いいな?」
「ぷるるん!」
分かったか分からないのか理解できなかったが、スライムはある一方を指出すと分裂して各所に散っていく。
どうやら俺の言葉を理解したようだ。
――時刻はすでに夕刻に指しかかろうとしていた。
辺りは暗闇に閉ざされており、唯一、明りとなるのは煌々と焚かれている松明のみ。
俺はユリーシャが率いるという反乱軍の中に潜入していた。
もちろん、まず狙う先は決まっている。
「なるほど……あそこが戦争関連の物や服などを扱っている天幕というところか――」
森の木々の間に、隠れるように設置されている野営地を観察しながら小さく呟く。
まず、手に入れないといけないものはいくつかある。
その一つは洋服だ。
裸のまま、衆人観衆の目の前に姿を披露したら、誰もが驚くだろう。
変態! 死ね! とまで言われる可能性だってある。
妹とかは、「ご褒美なの? ねえ、お兄ちゃん! ご褒美なの!?」と聞いてきたりするが、まあ、それは妹が俺の家族であって慣れているからだろう。
「さて……と――」
俺は、暗闇から暗闇に身を隠しながら、服などの補給物資が置かれている天幕のほうへと向かっていく。
誰も、俺に気が着く様子はない。
「あまりにも警戒心が無さ過ぎる……、――戦時下という緊張感がまるで無いように思えて仕方が無い。本当に、ここは反乱軍の野営地なのか?」
俺は一人呟きながらも、どこか戦争をしているような雰囲気ではない集まりと気配と雰囲気に、どこか釈然としない。
簡単に天幕まで辿りつく。
すると天幕の前には、2人の兵士が槍を手に持って立っていた。
どうやら、彼らが天幕を守る兵士なのだろう。
昼間は見なかったが――。
さすがに夜になると配置されるようだな。
まぁ、それならそれで――。
「――好都合だ!」
俺は男達の前に躍り出る。
魔法で攻撃して倒しても良かったのだが、殴ったほうが音は出ないからな。
そして、2人の男は俺を見て固まった。
まるで、魔法に掛けられたように固まっている。
「なら! 遠慮なくやらせてもうぞ!」
「「ええええええ」」
二人して、何やら驚いていたが襲撃されるとは思っても見なかったのだろう。「俺には妻や子供が!」とか「俺にはその気はないんだー!」とか、言っていたが良くは分からなかった。
きっと錯乱しただけだろうな。
俺は二人の兵士を気絶させると天幕に入る。
そこで俺は眉を潜めた。
そこには、俺の見知った女が縄でしばられ猿轡を噛まされて転がされていたからだ。
「エルス……お前……」
そう、床に転がされていた女は、俺がユゼウ王国に入ってきたときに始めて出会った人間。
そいつが、今は目の前で身動きを封じられていたのだ。
まったく、プレイの内容は人それぞれだが、さすがに猿轡をして縄までやるとかやりすぎにもほどがある。
そういうのは、もっと上級者がやるものと、俺の謎知識も訴えかけてきているようだ。
仕方なく、情報収集のためにエルスの猿轡を外す。
「ユウマ、なんて格好をしているんだい……」
エルスは顔を真っ赤にして俺を見て呟いてきたが、俺も「お前だって、何てプレイをしているんだ?」と、言葉を返した。
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