【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

姉妹の思い出(14)

「――べ、別に! ああ、もう!」

 エルスが言葉にならないと言った表情で大きく溜息をついている。

「まぁ、あれだ――」

 おれは、エルスに近づくと「くんな! 変態!」と、文句を言ってくる彼女を無視しながら、後ろ手に縛られている縄を力任せに引き千切る。

「――え? あ……ありが……」

 何故か知らないが、洋服がどこにあるのか積み重ねられた物資の中から探すのはメンドクサイなと思い、手伝わせるために縄を切ったのだが……。
 どうして、顔を赤くしているんだろうか?
 そういえば、俺とか今は裸だったな……。
 まぁ、異性の裸を見れば羞恥心から恥ずかしい表情を見せるのも致し方ないだろう!

 最近、俺はあまりそういうことを感じなくなってきたが……。
 ふむ……。
 もしかしたら! 俺の感覚が! 世間とズレてきているのかも知れない! とか思ったりしたのだが、まぁ――知らない仲でもないから問題ないだろう。

 さて、まずは用件を伝えないとな……。

「礼はいい。それより、まずは服がどこにあるのか教えてくれ。お前は反乱軍にいたんだろう? なら、どこに物資があるのか分かるだろ?」
「反乱軍じゃなくて抵抗軍だけど……で、でも……」
「どうした?」

 俺の言葉にエルスが沈んだ声で途中まで答えてきたが――。
 まぁ、言いにくいこともあるんだろうな。
 特に人の生き死にに関わるような軍にいたら頭もおかしくなるだろうし――。

「まぁ、心配ごとは誰にでもあることだ。戦争なんてしてたら、そりゃ論理感とかモラルとか無くなったり、人を殺しても何とも思わなくなりそうだからな!」
「あ……う、うん。で、でも……ユウマには言われたくないと皆、絶対に思うけど……」
「おいおい、何を言ってるんだよ? 俺は、自分を紳士的な人間だと思ってるぞ?」

 何故か知らないが、エルスは俺のことをモラルも論理感もないようなゴミ屑のような人間だと思っているようだが、それは酷い誤解だ。

「ユウマが……紳士的……?」

 俺の言葉に反応したエルスは呆然と、信じられないといった表情で俺を見ながら一人、自分を納得させるかのように言葉を紡いでいる。
 まったく、俺の紳士的という言葉が、そんなに信じられないのか?
 よくあるだろう?
 変態紳士とかさ――。
 そのへんと比べたら俺が裸で行動してるのなんて可愛いものだろうに……。

「私、ユウマと出会ってから常識が壊されている……」
「ふむ。まぁ、あんな狭い村に閉じこもって、町々から働き盛りの人間を無理矢理徴兵しているんだからな。そんな国が傾くようなことをしておいて常識を持ち出されても俺としても困るわけだが……」
「――ッ!」

 彼女は悲痛な表情を見せて唇を噛み締めたが、反論してこない。
 自分達が、何をしているのかを理解してないようではないらしいな。

「これか……」

 俺は積み重ねられた箱の中から下着や服を取り出して着ていく。
 箱に入っていた服は、どれも作りというか形が同じで――。

「規格が同じなのは、動きやすくていいな」
「ユウマ?」

 彼女は俺の言葉に反応したようだが、情報収集をする上で同じ服を着ているからと連帯感を相手に与えるのは、情報を得やすくする上で優秀な手と言える。

「――で、お前はどうしてこんな所に縄で縛られていたんだ?」

 俺は、反乱軍の服を着ながらエルスに話しかける。

「ユリーシャ様の様子がおかしいんだ」
「――様子ね……」

 まぁ熱狂的に信望している奴以外、客観的に外から見たらユリーシャの行動は、どこかおかしい。
 まるで、何か目的があるように動いている。

「ユウマ! イノンを助けるのを手伝ってはくれないか?」
「はあ?」

 俺はエルスの言葉に、こいつは何を言っているんだ? と心の中で思わず突っ込みを入れた。

「お前、自分が何を言っているのか理解しているのか? イノンは、ユリーシャと連絡を取り合って俺達の情報を流していたんだぞ? それなのに、どうして俺が助けないといけないんだ?」
「ユウマ、よく聞いてほしい。イノンは、フィンデイカの村人を人質に捕らえているんだ」



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