【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

姉妹の思い出(18)

「それよりもだ……」

 俺は周囲を見渡しながら溜息をつく。

 従属神であった大蛇を相手に、何故か知らないがムカついて光源のある魔法を放ってしまった。
 そのおかげで、何が起きたのかと確認に向かってくる兵士の数が多い。
 そして、エルスと話していた時間もあったことですでに周りは、ユリーシャ率いる反乱軍に包囲されつつあった。

「さて、どうするか……」

 俺は一人呟きながら、エルスを見る。
 彼女は、瞳は俺を見て怯えている。
 俺は頭を掻きながら、どうしたらいいのかと考えつつ、回りを見渡すが俺が発動させた魔法で、生えていた木々は全て燃やし尽くされていて、いまの俺達の姿は遠目でも確認ができてしまう。
 本来であれば周囲の木々を伝って兵士の頭上から逃げても良かったんだが。

「――やれやれ……」

 コレだと、交渉をして道を譲ってもらうしか方法がないな。
 まぁ、交渉は俺の領分だからな。
 サクッと相手を納得させて、平穏無事に通らせてもらおうとしようか。

「俺は、傭兵として雇われたユリーシャ軍の兵士だ! 怪我人がいるんだ! 道を空けてくれ!」

 俺がお言葉を発言すると、意匠を凝らした鎧を着た兵士が進み出てくると「どこの部隊の物だ!」と、問いかけてきた。
 そんなの俺は知るわけじゃん。

「それは言えないな!」

 まぁ、実際のところ知らないわけで……。

「アイツだ! アイツがユリーシャ姫を狙ってきた暗殺者だ!」

 一際、意匠に拘った鎧を身に纏った男が集団の中から叫んでいる。
 よく見ると、エルスと共に天幕から出たとき、鉢合わせした貴族であった。

「奴は魔法師だ! 攻撃魔法を使われるまでに倒せ! 弓隊放て!」

 男の命令で百人ほどが弓を射ってくる。
 その数は、100本ほど。

「……まったく、懲りない奴だな――竜巻」

 頭の中で瞬時に魔法発動後の事象を創造し、漢字により魔法文字を頭の中で思い描くことで魔法を発動させる。
 俺が発動させた竜巻は、降り注いできた矢を全て飲み込む。
 そして密集している兵士達の頭上から矢を落とした。
 兵士や騎士が集まっている密集地帯に、百本を超える矢が落ちていくのを見ながら俺はエルスとイノンを脇に抱えた。

「とりあえず、今は離れるぞ?」
「――」

 エルスは無言で俺から目を逸らす。
 そんな俺達のやり取りの間にも「くそっ!? 化け物め!」と、叫んでくる敵指揮官がいたので思わず「我が名は、魔王ユウマ! 貴様らの仲間は我が頂いていく! くくくっ、せいぜい足掻くがいい! 貴様らの力の無さにな! ワーハハハハハハ!」と、混乱に陥っている兵士と騎士が集まっていた方へと走り兵士や騎士の兜を踏みつけながら移動していく。

 ときおり、「俺を踏み台に!?」みたいな声が聞こえてきたりした。
 まったく中々、ノリのいい奴らだ。



 俺はエルスとイノンを抱かかえたまま、森の中で兵士達を引き放す。
 さらには魔法で更地となったエルブンガストを超えてから、不幸の事故で大樹が全て倒れたエルブンガーデンに足を踏み入れた。
 それからしばらく歩き――。

「ようやく到着したな」

 俺は目の前に見えてきた移動式冒険者ギルド宿屋を見て呟く。
 所要時間は、体感的に10分もかかっていない。
 さすが俺と言ったところだろう。
 今度から、ユウマ特急という名にするか。

「…………そ、そろそろ……お、下ろして……」

 脇に抱かえていたエルスが息も絶え絶えに話しかけてきた。

「――ああ、すまないな。体調が悪いのに……」
「別に、体調は悪くないから! うぷっ――!」

 エルスが倒木の裏側へ走っていくと、気持ち悪いのか吐いていた。
 まったく……。
 体調が悪くないって言っても、実際、吐いているじゃないか。
 やれやれ――。
 強がりも程々にしてほしいものだ。

「……な、なあ――」
「なんだ?」
「いや、アンタじゃなくて、ユウマさんが……」
「別に、へりくだる必要ないだろ? 普通どおりでいい」

 俺の言葉にエルスが、否定的な意味合いを持って頭を振ってきた。
 彼女は、俺から目を逸らしながら。

「だ、だけど! あんな化け物みたいな大蛇は……、あんなの見たことも聞いたこともない! それを、ユウマ! あんたは一人で、瞬殺したんだよ! そんな人間と……普段どおりの会話なんて無理だよ……」

 なるほど……。
 どうやら、エルスが震えていた原因は俺にあったようだな。

「そうか、たしかに俺の魔法は普通とは違うからな」

 俺は溜息をつきながら、イノンを床に下ろす。

「イノンに回復魔法はかけな……」
「ああ、とりあえず、少し思うところがあってな……」

 俺がエルスの言葉に答えた所で、俺が戻ってきたことに気がついたのだろう。
 妹のアリアが建物から出てくると「おにいちゃんの匂いがするの! あっ!? おにちゃん!」と、すばらしくいい笑顔を俺に見せて走りよってくる。
 俺は、負傷しているイノンを抱かかえてる事もあり、妹が抱きつこうとしたので、横に避けた。



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