【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

姉妹の思い出(20)

「――ユウマ」
「分かった」

 俺は両手を上げて「黙っていたことを全部離す」とリネラスの目を見ながら告げた。
 移動式冒険者ギルド宿屋、その入り口から入るとすぐ右手には、もともと食堂が元々あったが、冒険者ギルドの機能が追加された後から、酒場も兼任された作りになっている。

 いま……。

 そこの酒場のテーブルには、ユゼウ王国に入ってからであったメンバーの面々が集まっていた。

「さて……と――コホン」

 俺は、わざとらしく咳をして丸テーブルに集まっている面々を見渡す。
 椅子に座っているのは、フィンデイカの村で出会ったハーフエルフのリネラス。
 次に海の港町でリネラスに騙される形で冒険者ギルドに加入した元・花屋のユリカ。
 そして、クルド公爵邸の地下から助け出したエルフのセイレスと、その妹のセレン。
 最後に、俺の妹のアリアとユゼウ王国で初めて出たった女性エルス。

「えーと、どうしてお前らがここにいるんだ?」

 俺はチラリと柱の影に隠れて、俺に熱い視線を向けているサマラに目を向けながら、語りかける。

「いえ……、族長からの命です。族長が「ユウマさんが大事な話があるようですから、エルフガーデンに住まうエルフの力も必要になるかもしれません! 恩を売っておきましょう!」と言われてましたので、急いで来たんですけど――」
「――そ、そうか……」

 また、エリンフィートが手回ししてきたのか。
 まったくアイツは何時も何時も余計なことばかりに首を突っ込んでくるな。

「は、はい!。――で、でも……、皆さんが、とっても真剣な面持ちでしたので……」
「おにいちゃん!」
「何だ?」

 妹が、ご機嫌斜めな表情で手を上げてくると「どうして! 女性しか! ここにはいないの!?」と聞いてきた。
 妹の突っ込みに、俺も「たしかに!」と、顎に手を当てながら頷いた。

「まるでハーレムみたいだよ! こんなのダメだよ! お兄ちゃんはアリアだけのものだから!」
「そ、そうだな……」

 たしかに、俺は妹のお兄ちゃんだからな……。
 お兄ちゃんは、お兄ちゃんであって妹には一人にしかお兄ちゃんはいないからな……。
 自分で何を言ってるのか、少し混乱したが……。
 まぁ、妹が言ってることは概ね間違いではないから、そのままでいいか……。

「はぁ? 何を言っているの? ユウマは命がけで私を助けに来てくれたんだから! ユウマだって私のことが大事よね!?」
「お、おう――」

 何故か知らないが、リネラスが木のテーブルを両手で叩きながら立ち上がると、妹に対抗するかのように俺に語りかけるかのように発言してきた。
 たしかに……、リネラスの言うとおり彼女はとっても大事だ。
 いつの間にか気がつけば……。
 よく分からないが、とても大事な人になっていた。
 ふむ……。
 あれだな……。
 これは、ギルドマスターとして大事という意味なんだろう、きっと……。

「ええ!? お兄ちゃん! どういうことなの!?」
「アリアちゃん! 落ち着いて!」
「セレンちゃん!? お兄ちゃんが年増のエルフなんかに取られようとしているんだよ? 落ち着いてなんていられないよ!」
「違うのです! 所詮は年増! 年増のエルフ! リネラスさんよりも私たちの方が、ずっとアドバンテージがあるのです!」
「――そ、それは!?」

 セレンの言葉に、妹が「たしかに……年増は必死だから仕方ないの」とか「行き遅れは必死だから男が逃げるかも」とか、何か聞こえてくるが、俺の妹がそんな変な言葉使いをするわけがないから、きっと気のせいだろう。

「ふう……、どうやら俺は疲れているような……」
「ユウマさん。私、ここに居ても大丈夫な気がしてきました」

 サマラが微笑みながら俺に語りかけてきた。

「そ、そうか……。サマラが、そう思うなら居てもいいんじゃないのか? ……ん? ――もしかして!」

 俺は妹の方へ視線を向ける。

 そこには、「年増がなんですってー!」と怒っているリネラスと、からかっているセレンと妹の姿あり、仲裁役としてユリカが間に入っていた。

「なるほど……」

 俺は頷きながら理解する。

「そうか! 俺の妹は、サマラのために場の雰囲気を和ませるために、わざとハーレムなんて言葉を使ったのか!」

 さすが、俺の妹は違うな!
 出来た妹というか、思いやりがあるというか、俺と同じで場の空気を読んで発言することに長けているな。

「――え!? あんた……何を言っているの? この場の雰囲気見て、和んでいるなんて、ちょっと大丈夫?」



 



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