【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

世紀末エルフチーム(1)

「やっと着いたな――」

 長い通路を歩き到着したのは、巨大な空間。
 レッドドラゴンが居た場所である。

「さて――」 

 俺はとりあえず、エリンフィートが言っていたという、そこそこ強くなるまでは、この迷宮から返すつもりはない。
 中途半端な強さほど、危険なことはないからな。
 退路を立つために、通路に繋がる道を魔法で埋める。
 もちろん、原子変換と金属結合を行い鉄で通路を埋めたため、魔法が使えるエルフでも通路を使っての脱出は時間がかかるだろう。

「いや……まてよ?」

 エルフは魔法陣や触媒を使わずに魔法を使うことが出来る種族。
 つまり、下手をすると通路ではなく壁を掘り進んでいく可能性だって十分に考えられる。  

「ふむ……」

 俺は、壁を何度た叩いたあと、近づいてきたレッドドラゴンを魔法で瞬殺してから壁を殴りつける。
 石が砕ける音と共に、ダンジョンの壁が砕け崩落し、すぐに再生した。

「海の迷宮リヴァルアより再生能力は高いのか?」

 俺は首を傾げるが、これは朗報だろう。
 掘った傍から壁が復活していくのだ。
 これなら外へ逃げることも出来ない。
 俺は、エルフガーデンのエルフ達の鎖をはずしていく。
 何故か知らないが、全員が俺のことを睨んできているが、まぁ、そこは仕方ない。
 いつの時代も、教官と言う者は厳しい者だからな。

「さて、一応は回復魔法で怪我を治したから痛いところがない者はいないと思う。まず、君達にやってもらいたいことというか、普段の戦いの立ち回りを見せてもらいたい」

 俺は、周囲を見渡しながら少し離れたところに5メートルほどのワイバーンの姿を発見する。

「ちょうどいいな。アンネ、あそこにいるのを倒してこい。もちろん必要な人数を連れて行ってかまわないぞ?」
「――え? ええー……。あ、あれって……」

 サマラが驚いた表情で、俺の顔を見てはワイバーンの姿を見て「ワイバーンなんて無理です! 絶対無理です! 何人連れていっても倒せません!」と言ってきた。
 何人もって……、また大げさな……。

「やれやれ……エルフってのは、ずいぶんと臆病な種族なんだな――」

 俺は肩を竦めながら呟く。
 すると話を聞いていたエルフ達の表情が、さらに険しくなっていくが、そんなの知ったことではない。
 俺は、短期間で彼女達を鍛えるというお仕事があるのだ。
 そのためなら、少しくらいの罵倒くらいはしよう。
 そして憎まれるなら致し方ない。
 何せ、俺の妹を含めた仲間の命だって掛かっているのだからな。

「まぁいい。まずは俺の戦い方を見て、どう戦えばいいかを勉強しておくんだな」
「私たち、エルフはユウマさんのような魔法は使えないです!」
「分かっている」

 サマラの言葉に、答えながら俺はワイバーンに向かって歩いていく。
 すると、俺に気がついたのだろう。
 威嚇するように声を上げると、ワイバーンが近づいてくる。

「今回は、魔法抜きでワイバーンを倒す方法を教える!」

 俺は、ワイバーンが振り下ろしてきた鉤爪を、素手で受け止める。
 地面が陥没するが、その辺はとくに問題はない。
 この程度の攻撃なら身体強化の魔法を発動する必要すらないからだ。

「お前達よく見ておけよ?ワイバーンの弱点、その一」

 俺はワイバーンの鉤爪を、素手で握り潰す。
 痛みで暴れるワイバーンを殴り動きが遅くなったところで、ワイバーンの後ろ手に回りこみ翼の部分に手を添えてから、足でワイバーンを踏みつけてから一気に、根元から翼を素手で引き千切った。
 同時にワイバーンの咆哮が周囲に響き渡る。

「まずワイバーンだけでなく、翼を持っている魔物というのは翼の付け根が脆い。少し力を入れて引っ張るだけで抜けるくらいにな」

 俺の話を聞いたエルフ達は、唖然としている。
 ふむ。どうやら俺の戦い方が、彼女らエルフの常識を越えていたようだな。

「そしてワイバーンの弱点、その二」

 俺は、背中から降りるとワイバーンの真下に移動する。
 そして、手刀でワイバーンの腹を切り裂いた後に、手を突っ込み心臓を握りつぶした。

「生き物は心臓を潰されれば。まず死ぬ!」

 俺の言葉と同時にワイバーンは、轟音を立てて地面に倒れ伏した。
 手についた血を払いながら、エルフ達に近づく。

「まぁ、こんなところだな。思ったより簡単だろ?」
「できるかー」

 何故か知らないが全員のエルフ達から、声が上がってきた。
 おかしいな……。
 俺の教え方が難しかったか?
 もう少し分かりやすく教える必要があるのかもしれないな。

「分かった、わかった。お前達の言いたいことも分かる。どうやれば、ワイバーンを倒したのかをもう一度見てみたいってことだろう? 幸い、ここにはたくさんの魔物がいるし、外よりも時間の流れは遅い!」
「ええ?」

 エルフ達が声を揃えて、俺の方を見てきて、この人何を言っているんだろう? という目で見てきたが、まぁ最初は、誰でも半信半疑なものだ。
 俺も、エリンフィートと約束した以上、きちんと教える義務があるからな。

「とりあえずだ! 俺はエリンフィートからお前らを鍛えてほしいと頼まれたんだ徹底的に戦い方を教えよう。だから安心していい! お前らがある程度、強くなるまでは、このダンジョンからは出られないと思え!」
「――こ、これが……、こんな非常識な鍛錬をするのですか?」

 俺は、体を震わせながら話しかけてきたエルフの言葉に頷く。
 まったく戦士だというのに覚悟が足りてない奴だな。
 とりあえず、あれだな……。
 安心させるために、俺の回復魔法があることを伝えるとしよう。

「一つ言い忘れていたが、俺は回復魔法が得意だ! だから怪我は気にするな! 即死しない限りは、死なせはしない! だから安心してドラゴンに特攻してくれ!」
「無理です!」
「ユウマさんの、普通の基準がおかしいです」

 次々と聞こえてくる非難の声。
 その中には、「ほら、私の言ったとおり、ユウマさんは普通じゃないんです」というサマラの諦めたような声も混ざっていた。



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コメント

  • ノベルバユーザー245206

    さて、一応は回復魔法で怪我を治したから痛いところがない者はいないと思う。これって、逆じゃないですか?これだと、回復魔法で怪我を治したはずなのに、エルフのメンバー全員が怪我してることになりますよね?

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