【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

絡み合う思想と想い(17)




 日が昇り一日が始まる。
 俺とリネラスは身の支度を素早く終わらせると、商館の女性にお金を払い一旦、宿を引き払った。
 まぁ、身支度と言っても脱いでいた服を着るだけの作業。

「私、娼館に始めて泊まったけど、思ったより普通だったわね?」
「そうなのか? 俺は商館に一度も泊まったことが無いから知らないが……」
「もっと、こう! 男女のすごい声が聞こえてくる場所だと思っていたわ」
「いや、俺達が泊まったのは商館だからな。娼館じゃないからな」

 俺の言葉にリネラスが「――え!?」って顔を見せてくる。
 こいつは何を勘違いしているのか。
 そもそも俺の記憶だと、そういうのは観光地とか、人口の多い都市などに存在するものであって、こんな人口2000人もいないような小さな村に存在するモノではない。

「お前、まさか……」
「言わないで! それ以上は言わないで!」

 俺の言葉にリネラスは顔を真っ赤にして、俺の言葉を遮ってくる。

「だって! お父さんが娼館は男女の秘め事をする場所だって!」
「たしかに発音は似ているけどな……、実態はまったくの別物だぞ? 俺達が泊まったのは商人などが泊まる商業目的の宿だからな」
「――あ、そういうことね! ユウマは冒険者ギルドカードで!」
「そういうことだ」

 ようやくリネラスも理解したようだ。
 冒険者ギルドでは、宿や武器屋や薬屋に防具屋と言った店や元締めになるギルドと提携を結んでいる。
 そして、それは高ランク冒険者になればなるほど相手も融通してくれるようになるし、まして俺はSランク冒険者。
 宿を一晩借りるくらい問題ないのだ。

「それにしても、お前は10年近くフィンデイカの村で冒険者の受付していたんだろ? どうして娼館が無いことくらい知っておかないんだ?」
「女の私が知っているわけがないでしょう! そんな、ところに私は行かないし……」

 俺の言葉に耳まで赤く染めたリネラスが涙目になりながら抗議の声を上げてきたが正直、そんな目で見られると悪戯したくなるからやめてほしい。

「わかった、わかった。――それじゃ、ここで解散して夕方に商館前集合でいいな?」
「うん……」

 リネラスが頷くのを確認すると分かれる。
 俺は、まだ朝早いが人通りの少ない方へ。
 リネラスは市場の方へと。

「よう、昨日は世話になったな」

 路地に入るとすぐに男が話かけてきた。
 どうやら、有力な情報源を早くもゲットできそうだ。

「ライルか、丁度いい。お前を探していたんだ」
「――何だと!? お前、昨日は俺のことを雑魚よばわりして、それで俺を探していただと?」
「ああ、お前がいい」
「――えっ!?」

 俺の言葉にライルが一歩距離を置く。

「ちょっと待て!」
「何だ?」
「お前、今日は女と一緒に商館から出てきたよな?」
「それがどうかしたのか?」
「いや、少し気になって……」
「ふむ……」

 俺とライルが無言で立ち尽くしお互い睨み合う形になる。
 
「おい、ライル! こいつ、どうするんだ?」

 ライルの仲間であろう男たちが裏路地から姿を現すとライルに大声で語りかけた。
 その数は5人。
 昨日、冒険者ギルドにいた人数よりも一人多い。
 どうやら、最初から俺のことが目的だったらしいな。

「――で、何だ? 俺に雑魚呼ばわりされたから自尊心が傷ついたから闇討ちが何かのつもりなのか?」
「だったら、どうするんだ? 自称Sランク冒険者!」

 俺の問い掛けに答えた男に、ライルが「ゼルス!」と、声を荒げて名前を呼ぶ。
 ゼルスという男は、背中から2メートル近い大剣グレートソードのカバーを外し両手で構えてきた。

「ゼルス! やめろ! 町や村での抜剣は禁止されて――」
「黙れ!」
「なっ!?」
 
 突然、俺ではなくゼルスはライルに斬りかかる。
 いきなりの仲間からの攻撃ということもありライルはまったく身動きをとることが出来ない。
 俺は、すかさず地面を蹴りライルとゼルスの間に割って入るとグレートソードを右手で受け止めた。

「――なっ!? バカな!? たかが人間に、この私の攻撃が見切れるわけが……」
「ただのじゃないんだよ!」

 俺は右手でグレートソードを掴んだまま左手の手刀でグレートソードを真っ二つに斬り裂く。
 斬りさかれた獲物をゼルスという男は、驚愕の眼差しで見たあと、俺を怒りのこもった視線で見てきた。
 
「貴様、一体……」
「それは俺のセリフだ!」

 俺はゼルスを上段回し蹴りで吹き飛ばし煉瓦で作られた家の壁へと叩き付けた。


 
 


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