【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

絡み合う思想と想い(18)



 ゼルスが叩きつけられたことで無数の罅が壁に走っていくと、煉瓦で作られた壁の一角が崩落する。
 俺は、その場に立ったまま頭上から落ちてくる煉瓦を鬱陶しそうに片腕で弾く男を見据える。

「貴様、この世界の住人ではないな?」
「お前こそ、そうだろ? たかが人間と見下した時点で自分は人間じゃないと告白したようなものだぞ?」

 俺は、肩を竦めながら男に告げる。

 目の前に立っている男は、少なくとも人間ではない。
 人間が煉瓦で作られた壁に叩きつけられたのなら普通は、気絶するか大怪我を追うにも関わらずゼルスという男は無傷であった。
 まぁ死なない限り回復魔法で治療が出来る俺だからこそ、試してみたが――どうやら当たりだったようだ。
 
「なるほど……。貴様、エリンフィート・エルメトスの使いの者か?」
「どうしてエリンフィートの名前が出てくる?」
「エルフガーデン侵攻で、ユリーシャ姫が邪魔になったのだろう? ――なら、内通している人間から情報を仕入れるのは普通だろう?」

 ゼルスという男の言葉には嘘が含まれているようには聞こえない。
 ただ気になったことがあった。

「どうして、そこまでペラペラと俺に話す?」
「この世界に……、ルーグレンスに命令を受けて……この女の監視を任されていて飽きていたのさ」
「飽きた?」

 俺の言葉にゼルスという男は頷いてくると瓦礫の中から出てくると同時に瓦礫はすぐに修復されていく。

「不思議そうな顔をしているな?」
「ああ、俺が湖を作ったときは、まったく修復されることは無かったし、その素振りもなかった。なのに……」
「だろうな……俺も驚いた。まさか、人様の世界にきてまで、その心象世界に干渉できる人間がいるとはな。だから様子を見させてもらった。そして――」

 ゼルスは、口を閉じた後に指を鳴らした。
 その音は裏路地に反響していく。
 それと同時に、先ほどまでゼルスの身を案じていたライルや、その仲間が空ろな眼差しになるとフィンデイカの冒険者ギルドの方へ歩いていき姿を消した。

「なるほど、ここはお前の庭みたいな物なのか」
「そういうことだ」
「――で、俺と戦うのか?」

 俺はゼルスの姿を見据えながら言葉を紡ぐ。
 すると、男は慌てて「戦わない、戦っても勝てない」と、全力で否定してきた。
  
「そうなのか? いままで俺と戦ってきた従属神は全力で俺に戦いを挑んできたが?」
「……お、お前、まさか……」
「ああ、ウラヌス教国と戦っている」
「それはウラヌス教国と戦う国が出てきたということか? アルネ王国か? それともエメラスか?」
「いいや、俺一人だ」
「……お前は一体……」
「人に名前を聞くなら、まずは自分から名乗ったらどうだ? どうせ、ゼルスって名前は偽名だろう?」
「……俺の名前は、従属神エルメキア。ウラヌス神に使える神の一人だ」
「ふむ……、俺の名前はユウマ! 人は俺のことを魔王ユウマと言う!」
「――ま、魔王!?」
「魔王に精神干渉の魔法が使えるなんて記述はなかったはずだが!?」
「……このユウマ様に出来ないことなどない! すでにエリンフィート・エルメトスも俺の配下みたいなものだからな!」
「なん……だと!? お前は、神すら手下に加えたというのか?」
「もちろんだ! 俺に不可能はない!」

 まぁ、実際はエリンフィートを慕っているエルフの殆どが俺に寝返った状態だから、アイツは俺に強く出られないだけだが……。
 それでも、俺の方が立場が強いのだから配下に加わったと言って間違いはない。

 それよりも問題がある。

「それよりも、エルメキア。お前は、どうしてイノンの精神世界に居るんだ? 一体、ウラヌス教国は、ユゼウ王国で何をしようとしている?」
「……話す前に頼みがある」
「頼み?」
「ああ、この娘――イノンの精神を救ってほしい」

 予想外の言葉が、目の前に居る男の口から聞こえてきた。





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