【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

絡み合う思想と想い(19)



「イノンを救ってほしい? 俺が、お前達の願いを聞くような人間に見えるのか?」
 
 俺は、今までウラヌス教国から来た人間や従属神が、敵対していた人間を守ろうとした場面を見たことがない。
 そんな連中の話を、頭から信じるほど俺はお花畑していない。

「ふっ、愚問だったな。この世界に来ている時点で、お前は、この娘――イノンを助けようとしているのだろう?」

 俺は男の言葉に肩を竦める。

「俺は知りたいだけだ。どうしてイノンが俺達を裏切って情報をユリーシャ姫に流していたのかという事をな」
「そうか……、なら少し話しをしようか」
「話? お前の話を俺が信じるかどうかなんて――」

 俺は、エルメキアに言葉を返しながらも考える。
 少しでも情報が得られるなら、相手の話を聞くのもありだと。
 それに情報は情報だ。
 リネラスの精神世界に入ったときにも体感したが、この精神世界では情報が物を言う。
 攻略手段が分からないと、リネラスのときのように何度もリトライしないといけなくなる。
 なら聞いておいて損はないだろう。

「単刀直入に言えば、お前達の情報をイノンが、ユリーシャ姫に流していたのは、フィンデイカ村の住人が人質に取られているからだ」
「……フィンデイカ村の住人が?」

 俺にとって関わりがない住人。
 ただ、幼い頃から、フィンデイカ村に暮らしている彼女――イノンにとって、守りたい故郷なのかも知れない。
 そういえば……。
 俺はアライ村を出るときに教会や露天風呂を作っていたことを思いだす。
 根本にあったのは……。

「そうだ」

 俺の問いかけに短く答えてきたエルメキアの言葉を聞きながら考察する。
 もし本当に、フィンデイカ村の人間が人質になっているとしたら、それは……。

「いつから人質をとっているんだ?」
「どうやら、俺の話を聞く気になったようだな」
「……」
「分かった。分かったから――」

 無言のまま、エルメキアを殴る様を見せるとすぐに両手を挙げて降参の真似をしてきた。
 案の定「従属神の俺から見ても異常な力を持っている人間と、戦うほど愚かじゃない」と呟いていたが、聴力が常人よりも強化されている俺にとって、目の前の男が小さく呟いた言葉など聞き取るのは容易い。

「さっさと言え」
「人質を取り始めたのは、お前がフィンデイカの村を出て少し経ってからだ。そうだな……海の港町カレイドスコープに到着したことだな……」
「ふむ――」

 なるほど、そう言われれば……。

 たしかにユリーシャが率いる反乱軍は、俺達がカレイドスコープに到着してから活発に行動するようになった。
 クルド公爵邸を俺とリネラスが襲撃した時も、反乱軍は姿を現した。
 ただ、タイミング的にはやや遅いと言ったイメージがあったが……。

「なるほど、つまり反乱軍を率いていて情報があったとしても、迅速には動けずタイムラグが発生するということか?」
「そうなるな、多くの人間が集まれば集まるほど動きは鈍重と化すからな」

 とりあえず、エルメキアが言っている内容に嘘はないようだ。
 一応辻褄は合う。
 
「だが、それだけなら目を覚まさないのはおかしくないか?」
「目を覚まさないのは、お前達の情報をユリーシャに流さないためだ」
「俺達の情報を? もう今更だと思うのだが――」

「それでも、イノンなりのけじめなのだろう」

 俺は、男の言葉に「けじめか」と、言葉を返す。

「彼女なりに、精一杯だったと思う。それにようやく気がついたよ。私が君のことを知らない理由を――」
「どういうことだ?」

 男の言葉に俺は首を傾げる。
 そういえば、エルメキアは俺のことを始めてみたような面持ちで語りかけてきた。
 それはつまり……。

「イノンは、お前が精神世界の中にいることを察していたのか?」
「そうなる。彼女は、自分の考えまで筒抜けであったことを理解していた。それと同時に彼女は気がついていたのだよ。袋小路に入っている自分自身と姉を救ってくれる可能性があるのは君だけだとね」

 エルメキアは、確信したかのように俺に対して話しをしてきた。
 



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