【書籍化作品】無名の最強魔法師
絡み合う思想と想い(20)
――ただ、俺には目の前の男が、どうしてそこまでイノンに執着しているのか? という根本的な疑問が浮かぶ。
ただ、そのことを聞いたところで、こいつはおそらくイノンを救うというのを条件として提示してくるのは何となくだが察することが出来てしまう。
「分かった。それじゃ俺がすることはイノンが目を覚ます条件を整える事と言うことでいいんだな?」
俺の言葉に、エルメキアは満足そうに頷くと「――ああ、かまわない」と呟くと冒険者ギルドの方へと立ち去っていった。
男の後ろ姿を見送ったあと、今回の精神世界は、リネラスの時と違って内面だけでは解決できないということに小さく溜息をつく。
「仕方ないな……」
元々は、イノンがどうして俺達を裏切ったのか、その理由は分かったが――。
それは、どうしようもない事実かどうかと言えば……。
「とりあえず一人で考えていても仕方がないな。リネラスも何か考えている様子だし一度、リネラスと合流するのが先決かだな」
俺は裏路地から出て、フィンデイカ村の噴水広場で時間を潰したあと、商館前に向かう。
すでに商館前にはリネラスが待っていた。
彼女は、俺の姿を見るとホッとした顔つきをした後、「ユウマ、遅い!」と、語りかけてきた。
「遅いと言っても時間どおりだぞ? それよりリネラスの方は、収穫はあったのか?」
「あったけど、ここで話す内容じゃ――」
「そうだな……」
その意見には同意するところだ。
夕方になり商館周辺の人通りが朝よりも多い。
イノンに関しての情報を、どこの誰が聞いているのか分からないのだ。
エルメキアみたいなのが他にも存在していたら、こちらの手の内が相手に伝わってしまう。
俺とリネラスは、まず部屋を借りてから食事をした。
――そして。
「そう……、ユウマのほうにはエルメキアという男が接触してきたのね」
「――ん? その口ぶりだとリネラスも……?」
「ええ、アストラルという女性が私に話かけてきたわ。彼女は、私に対してもユウマと同じようなことを言って去っていったけど――」
「なるほど……」
俺は顎に手を当てて考える。
まさか、ウラヌス神の従属神が二人もイノンの中にいるとは思わなかった。
ユリーシャ姫がユゼウ王国で反乱軍を指揮していると言っても、イノンはあくまでも情報を提供している一般人に過ぎない。
そんな彼女に、従属神を――神の名を冠する部下を2人も就けるというのは俺には理解できないが……。
考えこんでいるとリネラスが「それでね」と呟いてくる。
「何か、他にあるのか?」
「うん、あるのだけど……、いまの時期って、もしかしたらだけど……」
「――そんなに言いづらいことなのか?」
「私がフィンデイカ村で冒険者ギルドの受付嬢をしていたのは知っているわよね?」
「ああ、お前が俺の冒険者ギルドカードを作ったからな」
「それでね……、ユウマが冒険者になるために訪れるまで暇だったから、過去にギルドで受注した仕事の内容に目を通していたの。そこで、イノンとユリーシャについての記述があったことに、さっき思い出せたのだけど……彼女達――、イノンとユリーシャは先天的魔力異常があったみたいなのよね」
「先天的魔力異常? 初めて聞いた内容だな……」
「そう? 双子だと結構有名な話なのだけど…」
「――で、その先天的魔力異常と言うのは何だ?」
「簡単に言うなら人間に宿る魔力は元々一つとして存在していて、それはどんなに素質が優れていても変わらないとされているの。でも、双子で生まれた場合には高い確率で魔力が安定せずに体を蝕むと言われているの。たしか、イノンの両親は冒険者ギルドにエターナルフィーリングを使って作られた飴を依頼していたはずよ」
「エターナルフィーリングって……、ローランで出てきた植物だったよな?」
俺の言葉に、リネラスが頷いてくる。
「これは一度、冒険者ギルドの資料をあさった方がいいかも知れないな」
「そうね……、もしかしたら、この世界は、すごく根源的な部分に根ざしている可能性があるものね」
「――ああ、それに……当時のギルドマスターであるコークに話を聞く必要があるのかもしれない」
「コークって、私のお父さんの前のフィンデイカに居たギルドマスターよね? 元・Sランク冒険者であるギルドマスターは命を狙われていたはずだけど、ユウマは会ったことがあるの?」
「ああ、ユゼウ王国に初めて入国したその日に出会った。まさか、また会うとは思わなかったんだがな……」
リネラスは、話を聞いたあと神妙な表情を俺に向けてくる。
「――それで、ユウマ」
「ん? なんだ?」
「この世界から、どうやって出るつもりなの?」
「……」
それは考えていなかったな。
エルメキアに会って協力を依頼するか。
一応、腐っても従属神だろう。
精神世界から帰る術くらいは持っているはず……。
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