【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

絡み合う思想と想い(21)




 ――フィンデイカ村の冒険者ギルド。

 建物の扉を開けると、ライルなどの冒険者が集まっている一角があり、そのグループの中には従属神であるエルメキアの姿あった。
 どうやら、ライル達とは別の存在であるにも関わらず、仲良くやっているようであった。
 まぁ、俺には関係の無いことだ。

「よう! エルメキア! お前に尋ねたいことがあるんだが」

 俺の言葉を聞いたライルが、眉根を顰めると睨みつけてきた。
 まぁ、この世界の流れだと俺はライルに嫌われているらしいから睨まれるのも仕方ないと言えば仕方ないが――。

「ちっ! お前か……。おい、いくぞ!」

 ライルは、盛大に舌打ちするとエルメキアを置いて冒険者ギルドから出ていく。
 
「おい! ゼルス! いくぞ!」

 ライルに語りかけられたエルメキアは、テーブルの上に杯を置くと「テーブルに立てかけておいた両刃の剣を肩に担いだあと、扉から出ていく。

「――ちょっと!? いいの? 行かせて――」
「ああ、問題ない」

 俺は、エルメキアが擦違うときに渡してきた紙の切れ端を見せながらリネラスに言葉を返す。
 
「それにしてもすごいわよね……、これが本当に人の精神世界だとは思えないわ。まるで本当に一つの世界が存在しているように感じられるわね」
「そうだな……、まぁ――、俺はリネラスの精神世界も知っているから問題ないけどな」

「――えっと……、帰りたいと思えば帰れる? 普通の人間の魔力では不可能だが、規格外の君の魔力なら帰れるだろう?」
「らしいな……」

 
 リネラスが、読み上げたエルメキアの紙の内容に俺は同意を示す。
 まぁ帰りたいと俺が思って帰れるなら問題ない。

「リネラス、すぐに飛ぶぞ」
「――へ!? う、うん」

 俺は慌てて近づいてきたリネラスの体を抱きしめる。
 離れてしまって彼女の精神が別の人間の精神世界に囚われるのは何となくだがマズイと思ったからだ。
 何時も魔法を使うように頭の中で、元の世界へ帰るイメージを思い浮かべながら魔法の起動キーである【帰還】と言う言葉を頭の中で思い浮かべる。

 それと同時に、イノンの精神世界が凍りつき周囲の色合いは灰色に変化していく。

「ユウマ、これって――」
「ああ、どうやら……」

 リネラスの言葉に答えようと口を開くと同時に、ガラスが砕ける音と世界が砕ける音が重なる。
 そして――、目を開けると俺とリネラスは二人でイノンが横たわっているベッドに寄りかかるようにして目を覚ました。



 俺は、すぐに立ち上がる。
 一瞬、立ちくらみを覚えたが体を確認する限り時に問題ない。
 それよりも問題は――。

「ユウマ」

 リネラスは、目覚めたばかりということもあり瞼を擦りながら俺に話かけてきた。
 
「大丈夫か? エリンフィートの時と違って俺以外の人間を連れていくのは2人目だからな。何か問題があればすぐに言えよ?」
「う、うん……。なんだか寝起きみたいな感じがするけど大丈夫。それよりも、急いで帰還したけど、どうかしたの?」
「エルメキアが言っていたが、イノンがユリーシャとのリンクを切ったことで、フィンデイカ村がどうなるか分からないと擦違いざまに言っていたんだ」
「それって!?」
「ああ、恐らくだがフィンデイカ村が危険に晒される可能性がある」
「どうするの?」
「どうするも何も……、イノンの真意が判明しない以上、俺達が手に取れる作戦は――」
「お兄ちゃん!」

 俺が途中まで話をしたところで部屋の扉が開くと同時に妹のアリアが部屋に入ってきた。
 
「どうした?」
「大変なの! スラちゃんがね。大勢の兵士がエルヴンガストに侵攻してきているって――」
「どのくらいの数かは分かるのか?」
「えっと――」
「今までの比じゃないくらい多いって言っているの!」

 イノンの言葉に俺は顎に手を当てながら考える。
  
「相手が大群を投入してきたと言うことは、こちらの戦力を把握したと見て間違いないか……もしくは、早めのうちに叩いておきたいかのどちらかだろう。いや――、もしかしたら狙いはイノンが俺達の情報を知らせるための人質として取っていたフィンデイカ村への攻撃を邪魔されないように、大軍を投入したか――」
「ユウマ、どうするの?」
「さて、どうしたものか……」

 リネラスの問いかけに俺は――。

「アリア、そういえばユリーシャの率いる反乱軍と、エルンペイア王が率いる国軍は、どう動いているか分かるか?」
「――うんと、スラちゃんの分身の話だと別々に動いているみたいなの。でも、最終的には――」
「俺達がいるエルブンガーデンに向かっているということか……」
 
 アリアが頷いてくる。
 つまり敵はフィンデイカ村と、ユゼウ王国軍とユリーシャ姫が率いる反乱軍という3面攻撃を仕掛けてきたという事になる。

「包囲殲滅陣か……」

 しかも、本来なら主人公側が仕掛けてくる包囲殲滅陣を仕掛けてくるのは、こちらではなく敵側という……。
 敵の数は数え切れないほどの大軍に3面作戦。
 それに対して戦えるのは俺とスライムと、エルフガーデンの100人のも満たないエルフだけというアライ村の時よりも酷い条件だ。

 まったく、こうも俺達に対して不利な条件が重なると困ったものだな。
 




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