【書籍化作品】無名の最強魔法師
絡み合う思想と想い(23)
「――やるとは何をするのですか?」
エリンフィートが、目を細めて俺を胡散臭そうに見てくる。
どうやら、俺はずいぶんとエリンフィートに警戒されているように思えるな。
そんなにゴミを見るような眼で見られると、つい悪戯心が沸きあがってきてしまう。
俺は、肩を竦めながら「たしか――、お前の精霊眼は、他のエルフの視界だけでなく、その者が聞いた音も聞くことが出来るんだよな?」と、エリンフィートに話かける。
するとエリンフィートが表情を真っ青にすると「――ユ、ユウマさん!?」と、慌てて俺の口を塞いできた。
そんな俺とエリンフィートのやり取りを見ていたリネラス、セイレス、セレンなどは「――えっ!?」と、言う表情を俺とエリンフィートに向けてきた。
妹のアリアとユリカは、精霊眼という言葉を知らないことから首を傾げていたが、エルフの常識を知っている者にとっては、精霊眼を持つ人間の視界と音声が、族長であると言えど他人のエリンフィートに知られるのは、プライベートの侵害に当たる。
普通の人間の感覚なら自分のプライベートを見られるだけで嫌悪感を抱くものだろう。
まして、それが許可も得ていない事なら尚更だ。
「ユウマ? それって……、どういうことなの?」
リネラスの言葉だけではなく、その体が小刻みに震えているのがすぐに分かった。
もちろんセイレスも黒板に、「ストーカーですか?」と、書いて俺に見せてきている。
「ユウマお兄ちゃん――、私たちの私生活は、この女に盗み見られていたの?」
「――まぁ、簡単に言えばそうなるな……」
「――ユウマさん!」
俺は、口を塞いでいたエリンフィートの手を退かしながら、セレンの問いかけに答える。
そんな俺を見てエリンフィートが悲痛な声色で俺の名前を呼んできたが、そんなのは今更だ。
そもそも、土地神であるだけではなくエルフの族長として多くの問題を放置していたからリネラスは、たくさん傷ついた。
エリンフィートは、その報いを受ける義務がある。
「言っておくが、俺は仲間が大事であってお前は大事じゃないからな? それにお前が散々、放置してきた問題。それが例え良かれと思って失敗し悲劇に繋がったとしても、事態の改善と収束を図るのは、エリンフィート! お前の仕事だろう? その問題を俺に丸投げにしてきた時点で、お前は自分の権利と義務を放棄しているんだよ」
「――ッ!」
俺の言葉にエリンフィートが唇を噛み締めて俺を睨みつけてきた。
「言っておくが、お前がエルフを大事にしているのは自分の支配領域を他種族である人間に、干渉されるのを防ぐためだろう?」
「ユウマ、どういうことなの?」
話を聞いていたリネラスが俺の服裾を掴んで言葉を紡いできた。
「簡単に言えば土地神の力ってのは、信仰心と保有する領域に依存するというのが俺の中にある知識であって――」
リネラスが困惑した表情で「知識? ユウマ……、そんなの私は聞いたことないけど?」と問いかけてくるが、「俺が暮らしていたアライ村では、そういう話があったんだよ」と答えておく。
生まれたときから持っていた記憶に、土地神がどのような物なのかというのが存在していると言っても信じてもらえそうにも無いし、語るのは不味い気がする。
――以前にも、俺が幼少期から持っていた知識を両親に話そうとしたら、変な現象がおきたから。
「――と、言うことでエリンフィート」
「……何でしょうか?」
「お前に、俺からの願いを断る権利は無いと思っておけよ?」
「――それは、私が断ったら……」
「ああ、エルフガーデンのエルフ達全員に、お前は精霊眼を使って個人情報を不当に覗き見して情報を収集していたと説明しないといけなくなるからな――」
「――くっ!?」
エリンフィートが俺を睨みつけてくる。
どうやら、自分の立場が理解できたようだな。
「さて――、エリンフィートも俺達に力を貸してくれることになったことだし……ふむ――」
俺は顎に手を当てる。
そういえば……。
俺は他に何かを忘れているような気が――。
話が纏まり今後の対応をどうするかと考えようとしたところで、「ユウマお兄ちゃん!」とセレンが俺に話しかけてきた。
「どうした?」
セレンのほうへ視線を向けるとセレンは小さな体を震わせていて怒っていた。
「それじゃ! 私たちがクルド公爵に捕まって居る時も、族長は私達がどんな状況だったのか族長のエリンフィート様は、知っていたのに助けにこなかったの? そんなのひどいよ! お姉ちゃんはエルフなのに!」
セレンがエリンフィートを睨みつけながら、彼女に怒りをぶつけていた。
――そう、クルド公爵邸で行われた非人道的行為。
それをエリンフィートが知っていて何の手も差し伸べなかったということが分かったのだから、いままで、どこにその憤りをぶつけていいのか分からなかった幼いセレンにとって、初めて――、しかも明確に怒りをぶつける相手が見つかったのだ。
彼女の言葉は、その憤りを言葉で表現したに過ぎない。
幼いセレンの言葉を聞いたエリンフィートは、困惑の表情を浮かべて後ずさりしていた。
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