【書籍化作品】無名の最強魔法師
戦闘開始(1) サマラside
――ユゼウ王国の上空を北東に向けて飛翔するレッドドラゴンの群。
本来、レッドドラゴンは気性が荒く群をなす事はない。
おそらくレッドドラゴンの群が空を飛んでいる姿を目撃する者がいたらあまりにも現実離れした光景に身動き一つ取れなくなるであろう。
さらに、その背中に人が乗っている姿が見えたのならば筆舌に尽くしがたいものであったに違いない。
「なるほど……」
サマラは、一人呟くがその言葉は空を飛んでいる際に発生する音にかき消される。
ただし、サマラ本人は先行しているワイバーンの部隊から入ってくる情報を精霊眼経由で得ているために声が聞こえなくても何ら支障はない。
「しかし、精霊眼というのは便利なものだな」
ユウマが作ったダンジョンで修行をしてから、自分の口調が少し厳しくなったことをサマラ本人は理解してはいたが、その事に関して特に思うようなところはなかった。
今は、自分達の住まうエルフガーデンを守るために戦う時期であり必要なのは戦士である。
その事をサマラは重々承知していたからだ。
そんな彼女であったが、それにしても――と、ふと思ってしまう。
今までの精霊眼は、エルフガーデンに住まうエルフの族長であるエリンフィートだけが情報収集をして情報を得ることが出来た。
それが、今ではエルフ全体で情報共有が出来ている。
その核となっているのがリネラスの精霊眼。
リネラスが精霊眼を覚醒させたことで、リネラスを経由すればエルフ全員の意志疎通が可能になった。
「彼と居ることでリネラスは普通のエルフの精霊眼とは違った覚醒をしたのかも知れないな」
自分を納得させるようにサマラは言葉を紡ぐと随伴していたレッドドラゴンに乗っていたエルフ達にハンドサインで降下するように指示を出す。
レッドドラゴン達は、アリアの使い魔になっているのだがエルフの指示を聞くように命令を受けていることもありフィンデイカの南西の森へと降り立った。
「アンネ、状況はどうだ?」
「精霊眼で見ていたのでは?」
「現場の状況が重要だろう?」
レッドドラゴンの降下地点で合流する為に待機していたアンネと合流すると同時にサマラはフィンデイカ村を先行偵察していたアンネに状況詳細を確認する。
「そうか……。ユウマ殿は、ユゼウ王国の者がフィンデイカ村の住人を拘束していると言っていたが、まさかエルフが相手だとは思っても見なかったな!」
予想外のことに――。
サマラ達、エルフにとっては嬉しい悲鳴であったが!
フィンデイカ村を占領していたのは……。
「逃げていった男エルフ達です! どうやら、彼らはウラヌス教国に逃げていたようです。ただ――、話を聞く限り何らかの任務を同胞であるエルフが失敗したとかで責任を取らされてフィンデイカ村の占領と住民拘束をしているようです」
「ふむ……、何の任務が分からないが……、我々にとっては好都合だな!」
「そうですね!」
「ええ!」
「久しぶりの男エルフ!」
「じゅるるる」
「ヒャッハー!」
「襲っていいのですよね!?」
「まて! お楽しみは後に取っておくべきだ! まずは、フィンデイカ村の開放をしなければならん! 男エルフを手に入れて致すのは、それからでも遅くはない!」
「「「「「「はい!」」」」」
「うむ。それでは作戦は夜明けと同時に開始する。くれぐれも男エルフは確保するように!」
「アンネ!」
「はっ!」
「男エルフの人数は30人ほどだったな?」
「そうですが……」
「ふむ、ちょうどいいな。我々の人数は30人。相手も30人――」
サマラの言葉にエルフガーデンの女性エルフ達の目がキランと光る。
何せ同性の男エルフは彼女らの性欲に殺されかかったって逃げ出したのだ。
――そう。
ユウマがエルフのことを、サキュバスとエルフを掛けてエロフと言っていたように毎日毎夜致していたのだ。
そんな彼女らが男エルフを見たらどう思うのか!?
それは日を見るよりも明らかであった。
そして……、夜明けと共にフィンデイカ村奪還作戦は行われた。
戦いは……、戦いというよりも一方的な虐殺というよりも搾取に見舞われた男エルフ達は、過去の恐怖から逃げ惑っていたが全員が捕まってエロイことをされてしまったのであった。
エリンフィートを抱えていたユウマはユリーシャ軍に向かって移動をしていた。
「ユウマ」
「どうした? 何かあったのか?」
「何かあったというか……、ナニかあったというか……。フィンデイカ村の奪還には成功したみたいよ」
「ほう、さすが俺が鍛えただけはあるな!」
「うーん。何というか……」
「激戦だったのか?」
「激戦というか激戦じゃないというか……」
「ハッキリ言えよな。俺も暇じゃないんだぞ? とりあえず開放出来たってことでいいんだな?」
「まぁ、色々と開放されたみたいよ……」
エリンフィートは、悟りを開いた顔でユウマからの問いかけに答えたあと大きく溜息をつくと「またエルフガーデンの悪名が増えてしまうわね」と呟くが、その声はユウマが森の中を高速で移動したために風切り音にかき消されてしまうのであった。
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