【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

戦闘開始(3)



 エルフガーデンからエルブンガストへと侵入し木々の枝の反動を利用しながら移動すること1時間ほどが経過したところで俺の【探索】の魔法が無数の生物の反応をとらえた。

「そろそろだな……。エリンフィート、別動隊からの情報はどうなっている?」
「そうね……、正直信じられないけれど……。空中から来た部隊は壊滅。フィンデイカ村の方は色々と開放されているから問題ないと思うのだけれど」
「ふむ……」

 ――と、言う事は……。

「ユウマ?」

 俺は肩に担いでいるエリンフィートを枝の上に下す。

「お前はここに居ろ。時間稼ぎに連れてきたがその必要はないようだからな」
「時間稼ぎって……、アンタ、私をどうするつもりだったのよ!」
「従属神の話を聞く限り、土地神であるお前に執着しているようだったからな。餌として時間稼ぎをしてもらうつもりだったが、その必要も無くなっただけだ」
「アンタ、そんな事を考えていたの!? 一応、これでも人間が敬う存在の神様なんだけれど!?」
「そんな事は俺には関係ない。それに、敬って欲しいなら普段から、敬ってもらえるような行動をしておけ。俺みたいにな」
「――は? アンタの普段の行動がどうやって敬われる事に繋がるのよ!」
「ふっ、それが分からないとはお前もまだまだだな。さて、とりあえずはここから動くなよ?」
「分かったわよ」

 前方を見ながら頭の中で事象を思い浮かべる。
 そして「【身体強化魔法】」の魔法を発動。

 発動した身体強化の魔法は、通常時の身体強化魔法ではなく戦闘状態に移行する為の物。
 莫大な魔力が体内の細胞を覆っていくイメージを思い浮かべながら体に信号を送ると同時に体全体が青い電光を纏う。

「――そ、その姿は……疾風雷神……」
「――ん? どうかしたのか?」
「……そ、それって身体強化魔法よね?」
「ああ、新しく考えた身体強化魔術の進化形態だな。精神世界では、色々と既存の魔法では限界を感じたからな」
「……」
「それじゃ行ってくる。迎撃をしたメンバーにはダンジョン内へ避難しておくように言っておいてくれ」

 俺はエリンフィートが答える前に枝から飛び降りると十数メートル下の地面へと降り立つ。
 
「さて、いくか!」

 魔法で地面の分子を組み替え鉄へと変質させると同時に俺は地面を蹴りつける。
一瞬で周囲の風景が後ろに流れいく。



 その様子を枝の上から見ていたエリンフィートは大きく溜息をつく。

「……まったく信じられないわね。疾風雷神なんて魔法で発現させる事なんて出来る訳が無いのに……、あれは神代文明時代に深海の大破壊竜を封印した剣士が使っていた技だったはず……。一体、ユウマは何なの?」

 エリンフィートの呟きは、ユウマが音速の壁を突破した際に発生したソニックブームでかき消された。



「ルーグレンス様。何かが高速で近づいてきます」
「アルデバルド。今の私はユリーシャよ。周りの目もあるのだから気を付けて頂戴」
「ハッ」
「それで何が近づいてくるのかしら? エルフガーデンの主、我らが主ウラヌス様の敵対する神エリンフィート?」
「いえ。神気を感じることが出来ません。それに魔力の質から鑑みると……、これは魔王?」
「魔王が、この地に来ているというの?」
「いえ、魔王の魔力が感じられるというだけで本質は違うと思われるのですが……、この魔力の量は――」

 音速の壁を突破したまま、ユリーシャ軍に近づくにつれて声が聞こえてくる。
 肉体の強化を極限まで行った結果、ソニックブームの音と生物が発する音を聞き分けることが出来たからだ。

 どうやら、前方に見えてきた軍隊の中にユリーシャがいるのは間違いないようだ。
 ユリーシャ軍までの距離が100メートルを切ったところで普通の人間とは明らかに隔絶した動きをした白銀の鎧を身に纏った騎士が一足飛びで近づいてくると同時に2メートルはあろうかというロングソードを振り下ろしてくる。

「我が名は従属神エルバス」
「我は従属神ライハルト」
「「貴様の命もらいうける!」」
「俺の命をか? 甘くみられたものだな」

 振り下ろされたロングソードを2本とも拳で打ち砕く。

「ばかな!? この剣は、神の加護を受けし鉄よりも遥かに強度の高い――、グハッ」
「ゴフッ……、化け物か……」

 右手と左手で、それぞれのロングソードを破壊した後、貫き手で鎧ごと二人の騎士の体を貫き通す。
 抜き去ると同時に二人の従属神の体が地面の上に倒れこむと同時に光の粒子となって消え去ると、その場に残ったのは壊れた剣と鎧だけ。

「……なん……だと……。二人はウラヌス教国十字軍近衛兵隊に所属する騎士であるのに一瞬で……だと……。貴様! 一体何者だ!」

 アルデバランと呼ばれていた従属神が声を荒げて問いかけてきた。
俺は従属神の話を無視しながら両手の指を鳴らす。

「探索の魔法に引っかかる数は4872匹か。人間は181人か……。やれやれ、ずいぶんと上手くカモフラージュしたな……」
「――ほう。ただの魔法師ではないな? 貴様、一体何者だ?」
 
 アルデバランという男の後ろに隠れていたイノンに良く似た女が俺に話かけてくる。
 
「俺か? 俺の情報はウラヌス十字軍から入ってきていないのか?」
「ウラヌス十字軍から? ……なるほど。その黒髪に黒眼、それに大胆不敵にして魔法師。貴様が我らのウラヌス十字軍を退けた魔法師ユウマか」
「ご名答と言いたいところだが、少し違うな」
「なに?」

 俺は黒いマントを取り出すと羽織る。
 そして魔法で空に雷雲を作り上げた。
 やはり自己紹介にはシチュエーションというのは重要だからな。

「ば、ばかな……。天候を操る……だと……」
「落ち着け! これは魔法だ! しかし、こんな魔法を見たことも……、いや――。勇者ユークラトスから報告は来ていた。まさか本当だとは……。だが、これだけのことが出来る奴が……」
「ふっ。ユリーシャ、貴様は喧嘩を売ってはいけない奴に売ってしまった。そして俺は、その喧嘩を利息付きで購入してやる! 俺の名前は……! 魔王ユウマだ!」
  




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