【書籍化作品】無名の最強魔法師
そういえば、神様だったな
「エルスか」
俺は名前だけを呟く。
以前に、ユリーシャのことを説明したにも関わらず出ていったのだから何とも言えない感情が沸き上がってくる。
「ユ、ユリーシャ様をどうするつもりなの!?」
「どうするもなにもコイツはお前らが知っているユリーシャじゃないぞ? 中身はルーグレンスっていうウラヌス教国の神に仕えている従属神の一人だ」
「何を言って……」
エルスは理解できないと言った表情で俺を見てくるが一々説明するほど時間があるのかと言えば、そんな時間なぞない。
「お前は、怪我をした連中を指揮するのが先決じゃないのか? 一応、解放軍の一人なんだろう?」
「ならユリーシャ様を!」
「エルス、お前には世話になった恩があったから、さっき黒い獣からお前達を助けてやったが、本来であれば俺はお前らの敵だからな?」
「そ、それは……」
「それにお前らはかなりの怪我人が出ているはずだ。俺に関わっていると死人が出るぞ?」
俺は、それだけ言う。
いつまでルーグレンスが動かないのか分からないのだ。
すぐにエリンフィートと合流する必要がある。
身体強化魔法を発動させた状態で俺はエリンフィートと別れた場所へと戻る。
後ろから「ユウマ、待って! ねえ!」と、言う声が聞こえてきたが無視した。
「ずいぶんと早いわね」
「まぁな」
俺は枝の上を見上げながらエリンフィートに答える。
「やってもらいたいことがあるんだが?」
「分かっているわよ。その子の容体を見ればいいのよね?」
「ああ、頼む。精神系に関してはお前の方が得意だからな」
「わかったわ」
「…………」
「……」
「おい! さっさと降りてこいよ!」
「降りられないのよ!」
「何!? エルフは木登りが得意な民族じゃないのか?」
「民族じゃなくて種族だから! 種族だから!」
ふむ……、大事なことだから2回言いましたってことか?
「なら、さっさと降りてこいよな」
「だから降りられないんだって!」
「――ったく」
「きゃあああああ」
気絶していると思われるユリーシャを地面の上に置いたあと跳躍しエリンフィートを抱きかかえると同時に地面へ着地する。
「どうだ?」
「うーん。駄目ね」
「駄目? どう駄目なんだ? ルーグレンスを分離させることは難しいと言う事か?」
「ううん。そうじゃなくて……、ルーグレンスはこの子の心の奥底に逃げているわね」
「逃げている?」
「うん。ユウマって大規模魔法使っていたわよね?」
「まぁ――」
「力量の差を見せつけられて危ういと思ったのか、この娘の精神世界に入ってしまったみたいね」
「……それってあれか?」
「ええ、あれね。この子の精神世界に入ってルーグレンスを倒すしか方法は無いけど……、ガードが固すぎて入れないわね」
「ガードが?」
エリンフィートが頷く。
その表情から察することは出来ないが、エリンフィートの言葉からかなり厄介な状態になっていることだけは分かる。
「うん。ユウマの魔法でも難しいわね。ユウマの魔法って、どちらかと言えば物理現象に特化した魔法よね?」
「ふむ……。よく分かったな」
「分かるわよ。貴方がどんな魔法を使っているのかを見ていればね。だから、精神系つまりアストラルサイドに干渉する魔法は苦手なのよね?」
「そうだな」
俺は腕を組みながら肯定の意を示す。
そもそも俺の魔法は、事象を頭の中で考え起きる現象を想像し【漢字】でイメージを固定しつつ発動させる魔法だ。
そのために自分が想像できない事象の魔法を使うことが出来ない。
簡単に言ってしまえば物理系攻撃魔法である。
物理系攻撃魔法は協力であるが物理に属していない攻撃や干渉には非常に脆い性質を持っている。
毒や怪我などのその類で、不思議な力で治癒するのではなくあくまでも細胞を活性化させて抗体を作るか細胞増殖を利用した治癒になる。
そのため、神の力を使ってウカル司祭が発動させていた魔法とはまったく系統が異なるのだ。
「困ったわね。私もエルフならパスを持っているのだけれど、人間となるとパスを持っているのはアースくらいなのよね」
「アース? アースってアルネ王国のアース教会が奉っている神のことか?」
「そうよ?」
「本当にいるのかよ……」
「いるわよ! 私がいるんだから!」
「そういえば……、お前も土地神の一人だったな……」
話をしていると目の前の金髪幼女エルフが神様だってことをつい忘れそうになるな。
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