【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(2)




 俺が作ったダンジョン。
 略して【ユウマダンジョン】の階段を下りていき到着した場所にはエルフガーデンで暮らすエルフ達が身を寄せ合って体を震わせていた。
 そして視線が一斉に向けられてくる。

「ずいぶんと怯えているように見えるな」
「アンタのダンジョンのせいでしょうに……」

 俺の後から階段を下りてきたエリンフィートが溜息交じりに呟いているが、まあ半分は当たっているので聞き流すことにする。
 実際、通路にワイバーンの死体が転がっているからな。
 すぐに周囲を見てイノンが寝ているベッドを発見する。

「ユリカ」
「ユウマさん?」

 イノンの傍にいたユリカに話かけると俺と脇に抱えているユリーシャを見て首を傾げた。

「ちょっと頼みがあるんだが――」
「この男が抱えている女の状況を詳しく知りたいのです」

 エリンフィートが俺の言葉に被せるようにユリカに話かけた。

「え? 私よりエリンフィート様の方が御詳しいのでは?」
「エルフに関して詳しいのですが、ユリーシャなどの人間に限っては別です。貴女なら診ることが出来るでしょう?」
「あの……、私は物を鑑定するしか出来ないのですけど……」
「エリンフィート。やっぱり無理じゃないのか?」

 リネラスも彼女をスカウトした理由はアイテム鑑定のためとか言っていたし人間を調べるのは出来ないはずだ。

「メディデータを診られるのは貴方達かソルティかアースくらいでしょう?」
「――ッ!?」
「メディデータ? 何の話だ?」
「…………分かりました。ですが、少しお時間を頂かないと……」
「それは構わないが……」
「それでは、そちらの方を寝かせてもらえますか?」

 ユリカが床の上に毛布を敷くのを見てから俺はユリーシャを寝かせる。
 そういえばユリカが仕事をする場面を見るのは初めてだな……。
 
「ユウマさんは、少し離れていてもらえますか?」
「――ん?」
「いえ、寝ている女性をあまり凝視しても良くないので……」
「なるほど……」

 たしかにリリナの家とかに泊まった時に寝顔とか見ていた時にアイツが起きて目が合うと顔を真っ赤にして殴ってきたりしたからな。



 ユウマが離れたのを確認すると、エリンフィートは小さく溜息をついたあとユリカへと視線を向けた。

「エリンフィート。私を巻き込むのだけは止して欲しかったのですけど? それよりも何時から私の事に気が付いていたのですか?」
「イノンさんの精神世界に入ってからです。そもそも従属神が、自分の崇めている神を裏切る行為こそが本来あり得ないことなのです。それなのにイノンさんの精神世界で出会った従属神は、ユウマさんや私達に有利なように条件を提示してきました。誤解を招くような言い方をしてね」
「なるほど……」
「貴女が手引きしたのですね? ユリカいえ4賢人の一人セマと言えばいいのでしょうか?」
「そこまで分かっていらっしゃるなんて本当にユウティーシア・フォン・シュトロハイムが残した制御神は邪魔ですね」
「それならここで戦いますか?」

 エリンフィートの言葉にユリカは頭を振るう。
 
「私は調査の為に、エルアル大陸に来ているだけですから。それに、この体はアバターですし……。あと彼は非常に興味深い存在です」
「興味深いですか……」
「制御神ですら彼の出現を確認出来ていないのですよね? 貴女が聖人か魔王か悩んでしまうくらいに」
「……そうね」
「今回は、貴女の顔を立ててユリーシャの中に入れるように道筋を作っておきますが、ユウマさんには私のことは内緒にしてくださいね。行動に支障が出ると困りますので」



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