【書籍化作品】無名の最強魔法師
記憶の竪琴(3)
エリンフィートとユリカは対応に時間が必要だと言っていたので俺は戦況確認をしようとダンジョンから出る。
建物の中に入ると左手には酒場があり、いくつものテーブルや椅子が並んでいる。
元は食堂であったが、冒険者ギルドと宿屋を兼任するという理由で酒場になってしまった。
リネラスの話だと元の冒険者ギルドの建物と宿屋が融合した結果、自動的に機能が増設されていくらしいが詳しいことは良く知らないらしい。
俺が使う魔法よりもずっとファンタジーしているなと心の中で突っ込みながら、椅子に座っているリネラスに近寄る。
「リネラス」
「ユウマ?」
俺が隣に座っても気がつかないとは――。
まぁ精霊眼は無数の情報を大本が一括で管理するようなことを以前にエリンフィートが言っていたから慣れないうちは大変なのだろう。
「ずいぶんと顔色が悪いようだが大丈夫か?」
「――う、うん。……大丈夫」
「そうか……。妹が居れば少しはリネラスも楽が出来たのかも知れなかったのにな」
「――!? 私は大丈夫よ!」
「そ、そうか……」
一応、妹が契約したスライムは分裂したスライム同士なら意志疎通が出来るらしいから精霊眼と同じような事が出来る。
情報を得るための手段を小分けにしておくべきだったと思って発言したのだが、余計なお世話だったようだな。
「ユリーシャの方はどうなったの?」
「ああ、一応はユリカがアイテム鑑定の力を使ってユリーシャがどういう状態なのかを調べてくれることになっているんだが……」
「アイテム鑑定の力?」
リネラスが首を傾げる。
何かおかしな事でも俺は言ったか?
「何かあるのか? 正直、俺は冒険者ギルドの職員や一般の冒険者がどういう風に活動しているのか良く知らないんだよな」
「あれ? ユウマって魔法使っているわよね?」
「まあ、そうだな……」
「ユウマって魔法学院か誰かに師事していたんじゃないの?」
「いや――、誰にも師事はしていな……。いや、ヤンクルさんには弟子入りしていたかな」
「ヤンクル?」
「ああ。俺が生まれた村で狩人をしていた元・冒険者だな」
「その人に魔法とかを教えてもらったの?」
「教えてもらったのは、動物の狩り方のコツとか山で暮らす方法とかだな……。あー、魔法なら、ウカル司祭様に教えてもらったことになるのか?」
「ウカル司祭……様? ユウマが、人を様付けで呼ぶなんて珍しいね」
「そうか? ……いや、そうだな。ウカル司祭様は、中々人格の出来た立派な人だったからな。よく、「ユウマくん! そ、それは――、本当にするんですか!?」とか、俺が何か問題を起こしても、笑って流すくらい器のデカい人だったな」
「……それって空笑いでは……、その人も苦労しているのね」
「そうだな。俺の村の連中はいつも何かしら問題を起こしていたし、村長に至っては村を捨てて逃げたりしたからな。ウカル司祭様が村を取りまとめていなかったら大変な事になっていたはずだ」
「すごいわね……。そこまで自分を棚上げに出来る人を私は初めて見たわ」
「あまり俺をほめても良いことはないぞ?」
「はー、そのウカル司祭さんってすごいわね。私も、思わず様付けしちゃうわね」
「まぁ、色々と気苦労の絶えない人だったからな。俺もさすがに色々と魔法で手伝ったりしたことがある」
「ふ、ふーん」
リネラスが呆れた表情で俺を見てくるが何かしたか? 俺……。
「それよりもエメラダも言っていたが魔法学院っていうのは何だ?」
「エメラダ? それ誰?」
「エメラダは、イルスーカ侯爵家の令嬢だがって――」
さっきまでの表情とは一変して何故か知らないがリネラスが俺を睨みつけてきているような気がする。
俺は何かおかしな事を言ったか?
「そのイルスーカ侯爵家の令嬢が、どうしてユウマと接点があるの?」
「接点というか……、まあ偶然に出会って知り合った感じだな……」
あまりアライ村で起きた出来事を詳しく話す必要もないだろ。
そもそもアライ村で起きたウラヌス十字軍との戦闘に関してリネラスは関係ないし、そもそもエメラダの事に関してもリネラスに説明する謂れはないからな。
「だ・か・ら! ユウマってアリアちゃんを見ていても分かるけど平民よね? どうして平民が貴族と普通に話せるくらい接点があるのよ!」
「どうしたんだ? リネラスらしくないぞ? 別に、俺が侯爵令嬢と知り合いでも関係ないだろ?」
「……そう。関係ないんだ……」
「それよりアイテム鑑定について――」
話を聞こうとした所でリネラスが椅子から立ち上がった。
「ユウマにはもう何も教えてあげない!」
そう言うとリネラスは怒ったまま自分の部屋へと向かってしまった。
「アイツ、何を怒っているんだ?」
何かおかしな話をしたのかと自問自答するが変な事を言った覚えはない。
「女って良く分からないな」
意味不明な事ですぐに怒るし、どうしろっていうんだ?
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