【書籍化作品】無名の最強魔法師
記憶の竪琴(5)
仕方ないな。
「それじゃ、リネラスに――」
「ユウマお兄ちゃん!」
とりあえず謝ってくるかと思ったところで、ダンジョン入り口からセイレスの妹セレンが出てくると俺の名前を呼んできた。
「セレン? どうかしたのか?」
「エリンフィート様が用意出来たからユウマお兄ちゃんを呼んできなさいって」
「そうか」
思ったより用意出来るのが早かったな。
「あれ? 何だか取り込み中だったの?」
セレンが、俺とセイレス、そしてリンスタットさんを見て首を傾げている。
「いや、とくに取り込み中という程のものではあったりする」
リンスタットさんの表情が怖い。
というかうちの女性陣は、どうしてこうも気の強い奴らばかりなのだろうか。
もう少しお淑やかなエメラダみたいな女性はいないのだろうか。
「リンスタットさん。あとでリネラスとは話をしますので――」
俺は彼女から離れてセレンを連れて迷宮へと足を踏み入れる。
階段を下りていくとすぐに風景が代わり別空間へと空間自体が変わったことが分かった。
「ユウマお兄ちゃん、あんな別れ方で良かったの? お姉ちゃんとか何も言えないけど、すっごく怒っていたよ?」
「そうなのか?」
まったき気がつかなかった。
アライ村で、子供たちに超絶人気者であった俺は人の感情の機微には鋭いはずなんだが……。
「ユウマお兄ちゃんって、朴念仁だものね」
「朴念仁って誰に教わったんだ?」
「ギルドマスターのリネラスさん。ギルドの受付になるためには、冒険者を言葉巧みに転がす技術が必要だからって教えてくれたの」
「そ、そうか……」
アイツは何をセレンに教えているんだ。
年少者には、正しい大人の在り方や生き方というのを背中で見せなければならないというのに……。
「それにね、ユウマお兄ちゃんを良く見て手本にしなさいって言っていたの」
「なるほど……」
つまり立派な大人である俺を手本として立派な大人になれと言う事か。
ふっ、リネラスもたまには良い事を言うじゃないか。
まぁ、少なくともリネラスを手本にしたらとんでもない人間が出来上がってしまうことは想像に難くないからな。
ダンジョンの階段を降り切ってしばら通路をしばらく歩くとイノンとユリーシャが一緒のベッドに寝かされているのが見えてきた。
「ユウマ、待っていたわよ」
「これは、どういうことだ?」
どうして二人が同じベッドで寝かされているのか不思議に思ってしまう。
「エリンフィート」
「聞きたいことは分かっているわ。まずイノンとユリーシャは双子として共有の魔法を使うことが出来るの。だから二人は同じ精神世界で同じ世界を共有して眠っているらしいわ」
エリンフィートがユリカの方を見ると彼女は俺に向かって頷いて見せる。
どうやらエリンフィートの言っていることは珍しいことに本当のことらしいな。
「ちょっと! どうしてユリカの方を見て確認を取るのよ!」
「いや、お前よりユリカの方が信用が置けるからな」
「くっ――」
そもそも俺のエリンフィートに対しての信用度や信頼度の低さは生まれてから出会ってきた人間の中でワースト一位だからな。
「ふむ……」
イノンとユリーシャを見ていくが特に異常は見られない。
「以前に、イノンの精神世界に入った時みたいにすればいいのか?」
「はい。ただし人の精神世界はとても危険です。気を付けてください」
「分かった。さて――、いくか!」
俺は、エリンフィートの手を握る。
「――え!? ま、待って! 私が人間の精神世界の中に入るなんて無理だから! 絶対に無理だからああああああ」
イノンの精神世界に入る際に、エリンフィートが何か叫んでいたがどうでもいいか。
それより……。
「ここは、フィンデイカ村の入り口か?」
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コメント
見習いにゅーびー
信頼度の低さがワースト1位なら、それは最も信頼できるということになるんですが?