【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(10)




 町に入ってすぐに異変に気が付く。
 人通りが以前に来た時よりも少ない。

「リネラス」
「ユウマ、もう大丈夫だから――」

 地面の上にリネラスを下ろすと彼女は周辺を見回す。
 その表情からは若干、焦りが見えるが……。

「前に来た時と違くないか?」
「うん。でも……、これって――」

 リネラスは、思案したと思ったらいきなり走り出した。
 
「この方角は……」

 近視感を覚えながらもリネラスの後を着いていく。
 すると到着した場所――、目の前に見えるのはフィンデイカ村の冒険者ギルドであった。
 リネラスに話かける前に、彼女は冒険者ギルドの扉を開く。
 何かが起きたら不味いと思っていた前回は、リネラスに冒険者ギルドに入ることは禁止していた。
 そして、そのことについてもリネラスは危険性を理解していたはずだ。
 その彼女が冒険者ギルドに率先して入っていく違和感に俺はようやく気が付いた。

「一体……」

 リネラスの後を追って冒険者ギルドの中に入る。
 建物の中には、壮年の男性とカウンターを挟んで座っている女性が言い合いをしていた。
 違う――、口論に近い。

「やっぱり……」
「何が、やっぱりなんだ?」

 壮年の男性と激しく口論を繰り返している女性は、俺とリネラスが建物の中に入ってきたことに気が付いていない。
 それどころか口論している声量は大きさを増していくばかりだ。

「娘が病気なんです! 優秀な冒険者だからと……、冒険者だと聞いて頼んだと言うのに――」
「ですから、今は他の冒険者を――」
「そんな悠長な時間があると思って……」

 二人の会話を聞いている限り、要領を得ることはできないが……。

「それにしても、どこかで見たことがある顔……」

 男性とカウンターを挟んで座っている女性にどこか見覚えがあった。
 
「あの人は……」
「どうしたんだ?」
「ユウマ。あの人は、イノンのお父さんなの」
「イノンの父親? そういえば……」

 もう少し年齢を重ねれば、初めてフィンデイカ村に来た時に俺が見た死体――、死んでいたイノンの父親に似ているような気がしないでもないが……。

「そうなのか?」
「うん」

 それにしても……。
 似ているな――。
 ジッとカウンターを挟んで座っている女性を見ながら俺は、どこかで女性に合ったような気がしてならない。

「それでね。カウンターに座っているのは、ユーフィアさんなの」
「ユーフィア?」

 リネラスの言葉に俺は首を傾げる。
 やはり聞いたことが無い名前だな……。

「ユーフィアさんは、セイレスやセレンのお母さんなの。私も詳しいことは知らないけどエルフガーデンから出た彼女はお父さんを頼ってきたの」
「そうなのか……」
「うん」

 どうりでどこかで見たと思っていたが……。

「だから、セレンやセイレスとは私は知り合いなの。親同士が知り合いだし、何よりエルフガーデンの外にはエルフは殆どいかなかったから――。ハーフエルフでもあった私は友達も出来なかったから仲が良かったの」
「そうなのか……。そうなると、先ほどから娘が病気だと言っているのは……」
「イノンのことね。双子だから――、魔力異常で苦しめられていると……。お父さんは、そう言っていたわ」
「魔力異常?」
「うん。双子で生まれた場合に、魔力の質が体に合わないことがあるんだって――。そういう場合には、見殺しにするか……、もしくは特殊な呪法で救うしか方法がないってお父さんが……」

 


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